侯爵令嬢ミューンの幸せな夜
お読み頂き有難う御座います。
続きをご希望頂いたので、またチマチマ投稿致します。
お別れした夜の話ですね。今回2話連続投稿予定です。
順序にお気をつけくださいませ。
腐れ縁の第三王子ゴードンに初恋を壊され、結婚を壊され、恋愛を妨害され、実質キープ扱い……とミューンのこれ迄は色々有ったが、先日ついに、一悶着の後に可愛らしいお相手と出会えた。
幼い頃のトラウマにより、獣人の番制度は吐く程嫌いだったミューンだが、愛する彼を相手とし、お互いを想い合うならトラウマも忘れ去る。
獣人ではない人間だが、番を自分の意思で作るのだ。
愛し愛される恋愛が出来なかった人生に、とうとう!軽やかな春が漸く訪れた。
同年代の令嬢が浸るような幸せがやっと、やってきたのだ。多少遅かった気もするが仕方がない。
「ミューン様の番になりたいです」
春色を纏い、ミューンに恋を齎した彼の名は、フリック・レストヴァ。
弱冠16歳の子爵令息で家は貧乏だが、メメル校に入った努力と才能を持ち合わせ、しかも、誠実で可愛い。今までミューンが出会った中で、一番彼女にストレートに愛情を示してくれた愛おしい彼。
そんな今までに無い素晴らしい日の夜、ミューンは浮かれて眠れなかった。布団でゴロゴロしつつ奇声をあげるのを耐えた。
いや、ちょっと叫んだ。枕に顔をつけてちょっとだけ叫んだ。
初対面で出会い、恋に落ちる。色々幼馴染のせいで色々有って色々有り過ぎたが、こんな素敵な出会いが愛に変わるなんて素晴らしいことが有るだろうか。ミューンは彼にキスを落とされた瞬間、世界がパッと開かれ、麗しく見えた夢のような日だった。
そして、その晩。夢見心地でミューンは決意する。
私が守ってみせる、そのはにかんだ愛に満ちた笑顔。
どんな困難が私達を否定して掛かろうとも、時には行き違ったとしても何度でも修正しよう。これから私達の未来は明るいものにしてみせる。
妨害工作がたんまりと仕掛けられていても、戦うことにする。
と言うか、間違いなく妨害工作が練られているに違いない。寧ろ、スルーを装って隙を突いて来るに違いない。
決意したミューンは、この恋を成就させることを満点の星空に誓いたかった……が曇りだったので、暗雲立ち込める夜空に誓った。
恋する乙女には天気なんかどうだっていいようだ。
唇に笑みが溢れ、ひとりでに顔は緩み、喜びで足バタバタと動かしたくなる。
妙齢の令嬢なのに薄着で夜中にバルコニーに出て、曇り空に誓うなんて勿論、何時もはしない。頭では怒られるのを分かっているし間違いないが、慎もうという気は全く起こらない。
ミューンは、人生で1番幸せで浮かれていた。
ゴードンに告白する前日と結婚式の前日にも同じように浮かれていたこともあったが、それは記憶から抹消して、無かったことにする。
ミューンの夜は幸せに更けていった。
明日から色々な事がやってくるに違いないけれど。
ミューンとフリックを御気に召して頂いた方に、心よりの感謝を。