過去と未来に現れる
お読み頂き有難う御座います。ブクマ、ご評価誠に有難う御座います。
フリックが調べものをしに学校の図書館に行きます。
『分からない異世界種』
『異世界種の不可解な生態』
『異世界種の駆除』
フリックは、大きな書架の前で困惑していた。
異世界種の事を調べる為に図書館に来たが、少ない上にかなり酷いタイトルが多い。
「……どれが良いのかな」
試しに一番マシそうな『異世界種の不可解な生態』を手に取ってページを捲るも、序盤からかなりの偏見に満ちている。
確かにフリックもこの前、耳と尻尾を狙われて痴漢をされそうになったが、この作者の境遇は更に悪かったらしい。
後書きに書かれていた種族は小柄なネズミ系の獣人だったらしく、急に拐われ閉じ込められてペットのように飼われたとか。
運良く突然消えたので助かったらしいが、ページの大半の文字はかなりの怒りに満ちていた。
フリックは、お察し出来ない程ご苦労されたんですね、とは多少引きながらも思った、のだが。
……生憎と『生態』とタイトルを銘打つ割には感情的で、学術書としては……とても参考にならない。
「結局よく分からない生き物、に尽きるのかな……」
他二冊も読んだが、伝聞や推測ばかり。
まだ、古生獣人の本の方が多数揃っている。
その横には『幻獣人と魔獣人』のコーナーが有った。今の所あまり関係は無さそうだ。
「あれ?興味があるのか?幻獣人も魔獣人もルーツは似たようなもんだけど、見た目がそれっぽいとかエグいとかで分けられてるらしいぞ」
「あ、えと……司書さん。今日は」
この前フリックが醜態を曝してしまった足の悪い司書がカートを押して書架の間を歩いてきた。どうやら返却済みの本を戻しに来たらしい。
「そういや17、8年前に……ド田舎の村で魔獣子爵に喧嘩を売った男爵家の話が有ったなあ」
「子爵家に男爵家が喧嘩を……。無謀ですね」
流石に貴族らしくないが、貴族の序列を乱したものの末路くらいは想像がつく。
あまり関係は無いように思ったが、フリックは司書の話に耳を傾けた。
「何でも、男爵家の娘?を治す為に『前世混ざり』を利用したとかで。様々な女性……やんごとなき女性迄巻き込んだとか」
「そうなんですか……前世混ざり?」
知らない単語にフリックは耳と首を傾けた。
「異世界種の記憶を持った現地人の事らしい。兎に角、その娘達を取っ捕まえては、合成して異世界種を造ったそうだ」
「ご、合成……?」
「合成獣人と呼ばれるらしいが、絵空事だろうな。より良いパーツを組み合わせて元々の娘の魂を組み込む……荒唐無稽さ」
「異世界種の、合成……」
「『前世混ざり』やらその辺で見つけた異世界種を拐って、夜な夜な惨たらしい事を行っていたらしい。おお怖い」
司書は大袈裟に首を竦めて見せた。
中々オカルトめいた話なようだが、それを信じて現実に誘拐が起こっていたようので穏やかではない。
異世界種はそんなに好かれていないようだが、更にかなりの不遇の時期が有ったようだ。
「まあ、随分前の話だ。その男爵家は潰れたが……生き残りが魔獣子爵の手の内に居るらしいな」
「そうなんですね……」
同じ子爵位ながらも、魔獣子爵と言う名前をフリックは聞いたことがなかった。生家が潰れかけているので、社交も殆ど無く情報が入ってこなかったのが正しいのだが。
「お詳しいんですね」
「前職の時男爵家の近くに住んでいて、捕り物を見たからな」
見たところ30代の彼は、随分子供の頃から仕事をしていたらしい。
「もしかして」
「ん?」
「え、いえ。すみません。その、魔獣子爵が巻き込まれた事件の書かれた新聞とかは有りますか?」
異世界種は、突然消えて突然現れる。
定期船から降りたスオリジェの恋人である異世界種……オクヤマカルタと呼ばれる女性は、その事件に巻き込まれたのではないだろうか。
「……合成って、……混ぜるもの、だよね。もう一度……元に分ける事……出来るの?」
廊下側の扉から、キメラ獣人と呼ばれる同級生の生徒が通り過ぎていくのが見えた。
原型は見たことがないが彼の頭はライオンらしく、機嫌よく振られている尻尾は蛇で周りに睨みを利かせている。
彼らのように目を沢山持っている種族はテストの時はカンニング防止の為、専用のカバーを持っているのだ。
……勿論取り外しは不可能である。フリックの尻尾が取り外し不可能なのと同じように。
オクヤマカルタがもしその場に現れ、運悪く過去の事件……異世界種の合成?に使われたとしたら。
嫌な予感を除外する為に、フリックは調べることにした。
あの勇壮で優しいスオリジェ軍将が、心痛める事態が来ないことを祈りながら。
言わば宮仕えする為に造られたメメル校のデータベースは膨大です。




