番をゴロゴロ変えた弊害の少年
お読み頂き有り難う御座います。
絡まれました。
「お、王子殿下は、お姉様の事を可愛いと言ってくださったんだ!お、お前みたいなと、年上の女?年増?な、なんか相手になさるもんか!」
麗しいが性格が破綻しているこの前就任した宰相(同世代)とすれ違い、回廊にさしかかると、ミューンは少し掠れた甲高い声に絡まれた。
キョロキョロと周りを見回すも、見慣れた王宮の美しい回廊が有るだけで、知り合いはいないようだ。
まさかそこの、朝露に濡れたオレンジの蔓薔薇が喋ったのだろうか。
幾ら此処が獣人に溢れていても、王宮の植物は普通の植物の筈なのだが。
お花が喋るのもメルヘンで良いかもしれない。
癒やされたいミューンは薔薇の方向へ喋りかけた。
「誰?」
「こ、此処です!じゃなくて、此処だ!」
顔を真っ赤にしているのは、まだ若い少年だった。
しかも彼女の肩口までしかない身長の、本当に若い少年だ。
男の子まで手を着けたのか?どうなってんだ、見境無しかあの野郎!尻尾踏みに戻ろうか!?と白目になりそうであった。
あ、お姉様っつったっけ。いかんいかん、それでもどうかと思うけどとミューンはその声に向き直った。
改めて確認するように、ミューンは少年を見た。
彼女の肩口位までの身長の、逆立てた若草色の髪の頭を精一杯伸ばし、睨み付けてきた少年。
貴族のようだが、着ている制服らしきものは古そうだ。清潔ながらも所々色褪せと繕いが目立っている。
耳は丸く尻尾は短い。何の獣人なのだろうか。
「………」
「言い返さないのか?だ、だんまりか?!お、王子の知り合いだか何だか知らないが、ず、図に乗りやがって!!」
「私は番じゃないし勝手にすれば?坊っちゃん」
「えっ、えっ!?」
もう男の子でも無生物でも、勝手にヤツの番に名乗りを上げて挑めば良いんですっての。
ミューンは自棄になっていた。
「あのね少年。ヤツいや、ゴードン王子の番の話は」
「ミューン待てって!!番はお前だっつってんだろ!!」
そう少年に諭そうとした瞬間、キメ顔で乱入してきたのは先程置いてきた筈のゴードンであった。
「………出た……」
彼にとっては自宅なので迅速なのは仕方ないのだが、ゴードンの登場にミューンはイラッとした。
さっき心を折るべく努力したのになあ。幼馴染みとしてもっと過激にやるべきだったかなあ。
不敬罪?
私の結婚を破壊した輩に僅かな友情とたっぷりの恨みこそあれ、恋心は消し飛んでいるので相殺だとミューンは思った。
「おおお王子様ぁ!殿下、お会いしたかった!!あの、僕のお姉様の」
逆に少年は明るい顔になっている。
「はあ?お前俺のミューンに何してんの。お前の姉は番と違うっつったよな」
チンピラも況やとばかりに、すがり付かれた手を荒くはたきおとしたゴードンは、半分程の背丈の少年に牙すら剥いている。
手荒い口調は品もなく、王子の威厳は欠片もなかった。帝王教育は、素行と共に何処かへ消え失せたのだろうか。
だが、少年は健気にもその迫力に逃げようともしない。ピルピルと震えてはいるが。
「だ、だって!!だって!!姉が王子様の番じゃないなら、お姉様を修道院へ送るか、遠くの老人貴族の後妻に送るって!!」
「一介の家の事情なんて知らねえし!!」
「ひ、酷いですよおおおお!!」
蚊帳の外になったミューンは、ムカムカしていた。全く関係ないにも関わらず。
ゴードンの言い種は本当に酷いし、何処の令嬢か知らないけど酷い方針の家だ。
関係ないものの、幼馴染の酷い対応にイラッと来たミューンは、割って入り、ゴードンに食って掛かった。
「はぁ!?ひとりの令嬢が路頭に迷おうってのに、知らねえとは何?!本当に碌でもない王子ね!!」
「え、ミューン!?何でコイツ庇うの!?修道院では路頭には迷わないでしょ!?」
返答が中々に相手を省みないゲスで屑な発言であったので、余計にミューンの逆鱗に触れ、彼女の血圧を押し上げる。
兎に角関係ないのに、ミューンの怒りが収まらない。
「甘やかされた令嬢の修道院暮らし及び後妻暮らしなんて、普通に目茶苦茶辛いに決まってんでしょうが!
しかも別にご令嬢に落ち度は無いみたいだしね!!」
「ミューン!?」
「ピミャッ!?」
ゴードンも真っ青な睨みを聞かせたミューンは、少年の方へ振り返った。
「来なさいそこの仔犬!!そんなクソ王子なんざこっちから棄てるのよ!!相談に乗ってやるから案内なさい!」
「え、え!!僕、犬科じゃ無い!け、けん」
「ちょっと待ってミューン!?俺お前を助けに来たんだけど!?」
「煩いのよ頼んでないわ!!花粉症の傍迷惑縁壊し王が!!去ね!着いてくんな!」
大体こんな小僧っ子に絡まれた位、捌けずにアラサーの貴族女やってられっか!とキレたミューンは、仔犬?の首根っこを掴み、足音も荒くその場を後にするのだった。
後に騒動と、遺恨、フラレた王子を残して。
彼の種族は次回にて。