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花嫁だった過去

お読み頂き有り難う御座います。


「いや……あれはね……。ミューンに触ると首を噛み切るぞーってちょっとばかし……脅しを」


 王子にそう言われて、恐怖し、心底ビビらない臣下が居たら教えて欲しい。

 大体夫が妻に触るなら首を噛み切るぞ?と脅す事態がおかしい。

 勿論横の花嫁は激怒し、その迫力に元夫はまた更に怯え、恐慌状態に陥った。

 お披露目パーティが台無しになりがらも終わったのは奇跡に等しい。


 そして、元夫はその晩。花嫁と花婿が愛を確かめ合う初夜、その晩に。

 姿を消したのである。


 元夫の親族が、真っ青になりながら駆け込んで来たことは、未だ記憶に新しい。

 暫く消息は不明とされていたが、1年後隣国で年若い娘とイチャイチャしているところを目撃されていた。

 それを聞いたミューンは暴れた。暴れに暴れた。

 夫に未練は無かったが、棄てられた事実やその他の感情が爆発し、実に腹を立てて暴れた。主にゴードンに八つ当たりもした。

 周りの人間はアワアワし、暫く当たり障りのない扱いをされた。

 あの性格が悪いと評判で実際に悪い、当時の宰相の息子にまで気を使われた。

 そんな彼も立派なアラサーで、あぶれ者の名を欲しいままにしている。最近は商家の娘にセクハラを働いているらしい。


 その後、元夫は捕まり国際的に制裁された、と聞いている。

 親族は肩身の狭い思いをしながらも、ひっそりと暮らしている。

 実に四方八方悲しい過去であった。


 そんな騒ぎを起こしたとんでもない王子ゴードンへの仕置きは、当時、散々彼の親が大目玉と鉄槌を喰らわせた。

 だから、ミューンが更なる過激な行動に走ることはなかった。

 しかし、彼女の鬱憤と恨みは年々溜まっているようだ。


「ああ、万が一の事態の側室候補だから?

 了承してないけど勝手に自分のもの認定?

 嫌ね殿方って!昔好きなら延々好きとか勘違いが激しくて。病的な自己愛かしら」

「そこは!幼馴染が心配だったからに決まってんだろ!!後、お前の婿ってその場で噛み殺したい位腹立ったし!!」

「知らないわ!ああ、ムカついてきた!」

「うわわ待てミューン!」


 苛々してきたミューンが席を立つのを慌ててゴードンは引き留めるが、振り払われた。


「何なのよ失せて!」

「ねえちょっと!お願い試させて!!」

「寄らないでよね気安いわ!30年前来やがれ!よ!」

「一昨日ですらない!?お願い!チューだけで分かるから!」

「何しれっと嘘吐いてるの。番しか生涯愛さない孤高の誇り高き狼様(自称)なら匂いで分かるでしょうよ」

「俺の心と鼻が貴女を番認定してます!たった今!」

「あっそう。離せっての!!」

「ギャイン!!」


 長年の真剣かつマジ泣きの謝罪により、友人として関係は修復されていたが、恋仲に至るには平行線を辿るようである。


 想いを無下にされ、側室候補扱い。その傷の恨みは根深かった。

 ミューンは鼻先に遠慮なく裏拳を叩き込み、足音荒く王子の居室を後にした。

 暫く此処に来るまいと心に誓って。


 普通なら不敬罪待ったなしではあるが、何時ものことなので誰も反応しない。同じようなやりとりが繰り返されているのである。

 侯爵令嬢ミューンは、ゴードンの特別な存在。

 王子の心が定まった時、何時かは彼女が王子妃となるであろう。

 城に仕える者達全員がそう認識していたのだった。


 ミューンが、この日。古生獣人の痩せた少年に出会い、見初める迄は。


「うう、がう。みゅう……。が、頑張らなきゃ。僕が、言わなきゃ」


 猫科の耳をぺしょりと伏せ、短い尻尾を怯えて揺らしながら。

 少年は王宮の庭へと入り込んだ。



中々な過去です。

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キャラクターが多くなって来たので、確認にどうぞ。
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