驚愕の事実かもしれないけど旬は過ぎた
お読み頂き有り難う御座います。
しかし、彼の思惑は昨日までとは違っていた。
彼には、ミューンに披露すべき、特別な出来事が有ったのだ。幼い頃からの癖で、興奮で尻尾がバシバシ椅子を叩いている。
彼の仕草に慣れたミューンは、幼馴染がまた見当違いにイキってるな位しか思わなかった。
「……そう言えばさあ、ミューン。そこの窓から景色を見て何か気付かない?」
「はん?……あら、見晴らしがいいわね」
昔、彼への初恋を告白し、消えない黒歴史となった木が綺麗サッパリ失くなっている。ご丁寧に切り株も撤去されているようだ。綺麗に平らにならされた地面は、一見すると木が生えていたようにすら見えない。
「アーレルギッテンの木にこの間の雷が落ちたんだよ」
この国は地形のせいか、他の国よりもよく落雷が起こる。
避雷針代わりの木や柱も多いので、ミューンは驚かなかった。
アーレルギッテンの木は真っ直ぐに育つので、よく避雷針に利用されている。
「あらそう。皇太后さまがお嫁ぎになった際にお植えになったんだった木よね」
「そうそれ!で、大半燃えて危ないから伐採したんだよ」
「へーえ、そーお」
最早、木に関心が無いミューンの返答は悉く冷たい。
だが、ゴードンはめげなかった。
彼は幼い時から空気を読まないのだ。なのでこの為体に育ってしまったのである。
「何と!!切った途端俺の鼻炎と中耳炎と喘息が回復してさ」
ゴードンのドヤ顔は喜びに満ちていた。
だがしかし、持病の完治報告に幼馴染みは喜んではくれなかった。
「あっそ、オッサンになってからでも治って良かったわね。
女性の敵のアンタに、頼れるのは最早己の健康しかないものね」
「お前、みっつしか変わらねえのにオッサン言うの止めろ」
「言われたくなければいい加減私を王宮にご招待しなきゃいいんじゃないかしらあ?」
ミューンは、この頃何かにつけて招聘されるのは堪ったものではないと思っていた。
最初は呼び出しに託つけて王宮で次の夫探しをしていたが、悲しいことに全く出会いは見つからず、無情に時は流れていく。
もう一度首元を絞めたら苛々は収まるかしら、と思ったその時。
「そうはいかん」
「はん?」
「やっと分かったんだ、お前が運命の番だと」
ゴードンはキメ顔でミューンの手を取った。
根っからの女好きである彼は、無駄にキメ顔を決める癖がある。
そのあまりにも完成されたキメ顔に、ミューンは口許にもう片方の手を宛てがい、妖艶に微笑んだ。此方も精一杯のキメ顔である。
微笑み合う、逞しい王子と美しいご令嬢。
幼馴染である故か、彼らの行動パターンは似ていたのであった。
「……まあ、やだわ……。今度は病的な妄想なの?」
「違ーーーーう!!」
ゴードンは兎も角、ミューンには甘い雰囲気など、最早生まれなかった。
「いいわよ別に、そんな間違った気遣いは要らないわ。
心の底から不愉快だから止めて。
次やったら尻尾と耳の毛を縦に裂いて毟るわ」
ミューンは、春らしい青い花の刺繍の入った美しい手袋を嵌めた手を上下に裂く動作を繰り返す。
思わずゴードンは耳を押さえ、性懲りもなくすり寄っていた尻尾を彼女から最大限に離した。
「ちょっと待ってくださいミューンちゃん、本当なんです!!今度こそ本当なんです!!君を見ていると動悸息切れ顔のほてりが!!」
「加齢による冷えのぼせね」
「そこまでオッサンじゃねえよ!!」
堪りかねて叫ぶゴードンに、ミューンは変わらない冷たい目を向ける。
彼女は、木のことといい、黒歴史を蒸し返されて腹を立てている。オマケに長年の女遊びの実績を積み重ねての、この度の告白。
真摯な思いは届く筈が無かった。最早真摯と信じられていなかったので、自業自得ではある。
「大体アンタ、20年前に私をこっぴどく振ってキープ扱いしたことを赦されると思ってるの?」
「だ、そ……それに関しては……誠に申し訳ございませんとしか……」
「しかも何で木のせいになってるの?
大体アンタ私が嫁ぐ時のパーティでべろんべろんに酔っぱらって元夫に絡んでたわよね。木のせいにすんな」
あれはミューンの適齢期である18歳の良き日。
彼女の粘り強い婚活により漸く見つかった夫との結婚式は、悪夢の日へとひっくり返った。
キープ扱いしていた可愛い幼馴染みの結婚式。
招待された権力持ちの殿方は何をするか。
お約束ですね。