三人の困った王子の保護者
お読み頂き有難う御座います。
前回の続きより少しだけ遡り、王宮に御呼ばれしてしまったミューン目線で始まります。
今日も蒸気を上げる大きな煙突がシャーシャー鳴り、重い歯車がゴンゴン鳴り響き続ける平和なシャーゴン。
賑やかな工業地帯や街からは少し離れた丘陵地帯に立つ、此処は王宮。
その王妃の私室は、あまり明るくないムードに包まれていた。
息子達に受け継がれたその見事な赤褐色の髪が自慢の王妃は、一人の令嬢を前に沈痛な面持ちで力なく座っていた。
令嬢……ミューンを招いた王妃は、髪色と反対に今まさに死なんばかりに顔色が酷い。横に控える女官達の顔色も判で捺したかの如く、悪い。
「そーですわね。たーいへんですわね。私も大変だったんでーすの」
しかし、幼い頃から親しく付き合いの有るミューンは棒読みの返答を返した。
へーまたお痩せになられたかしら。でも、ゴードンの件は本当に家族に何とか躾して頂きたいのよね。他の王子もだけどさ。
お可哀想だけど、毎度の事だしなー。息子がやらかすと痩せられて、言外にプレッシャー与えてくるの嫌だわー。と深刻に捉えていなかったのだ。
裏を返せば、王妃の息子達は母親にしょっちゅうこんな顔ばかりさせているのである。
「ミューン侯爵令嬢、本当にゴードンが御免なさいね……。ゴードンは未だに貴女の婚約が無効だとか大騒ぎしていて……」
「えー、いい加減に諦めて頂きたいですわ……」
本日ミューンは宰相コンラッドに文句を付けようと思ったのだが、王妃の私室へ呼ばれ、予定変更を余儀なくされる。
じゃあ、婚約宣誓書の見届け人へのお礼と、ゴードンへのまだ届くテンプレレターに苦情を申し立てりゃいいかと考え直し、赴く筈だった。
だかしかし。
またゴードンがミューンの姿を嗅ぎ付け目敏く探し出し、彼女が先日結んだ婚約の解消の懇願と言う名の泣き落としを大仰に繰り広げたのだ。
王妃付きの近衛騎士と女官が血相変えて迎えに来なければ、ミューンとゴードンはまた大騒ぎを繰り返し、スキャンダルと掃除場所を増やす所だった。
「私はフリックの将来の妻なんだから、名誉を守る為にもあんなアホ狼と戯れる時間は無いのですけど!?噂好きの暇人の話の種になってやる気もないし!この馬鹿王子いえ、ゴードンを檻に入れてください!」
「俺はミューンとなら檻に入ってやってもいいぞ!何なら変わったところで茶でも飲んで仲を深めるか!!」
「と、とさ……ああーーーー!!したい!!いえ、早く立ち去らせてください!!早く!!」
と、近衛騎士と女官が割って入っても、ミューンは烈火のごとく憤慨していた。
廊下でそんなことを叫んでいては、余計話の種になってしまうのだが、頭に血が上りきったミューンは気付いていない。
実は、ミューンを宥めるのにも王妃は疲れていた。
「デクスターも……王太子妃に未だに寄り付かないし……無理矢理彼女がいいと大騒ぎして、両国の為になればと来てくださったのに!」
「そうでしたわね」
折角嫁いで来たのに、新婚生活は惨状。酷い状況は未だ改善してない。
しかも王太子は仲良くしてますというレポートを部下に偽造させたり改竄させたりしているらしい。と、ミューンは要らないことを聞かされる。
流石ゴードンの兄、やることがみみっちいし汚いわねとミューンは思った。
「えーと。王太子妃様のお名前は……オー何とかレ何とかリ何とか様、でしたわよね」
「ええ……情けないけれど私も発音出来ないの。オーレリ様と呼んでいるわ」
……ブクブクとかボコボコ……兎に角そういう感じの単語が入ってる王太子妃の名前は、通訳と海洋学者以外発音出来ない。だから、大体の者がオーレリ王太子妃と略して呼んでいる。
そして何と、夫である王太子自身も発音出来ないらしい。
妻の名前も呼べないんなら別れろ!!他国のお嬢様を妻に迎える愛と努力と根性が足りない!と一部の部署では囁かれている。
しかし、嫁いだんだからシャーゴン公用語の大地言語を覚えろと、陰口を叩いている者も一定以上居るのが実情だ。世間は余所者にとても冷たい。
まあ、私もお名前の発音言えないけど、私は別に夫じゃないからね。王太子妃様とか妃殿下呼びで事足りるのよ!臣下の特権ね!と他国語学の苦手なミューンは自分の逃げ道を確保していた。
「ミューン、貴女に申し訳無いのだけれど……。オーレリ妃の悩みを聞いてくれたりしないかしら……?
本っ当に、このままではマズイの。不仲が響き渡っているのよ」
どうやら、ミューンが知らない内に更に事態が悪化しているらしい。
「申し訳御座いません王妃様。私は王太子妃殿下の話される深海言語は話せませんの。
後、私の潜水能力は5秒ですから」
必死な訴えだが、ミューンは即断った。
そもそも、オーレリ王太子妃は、殆ど自室……王太子が婚約中にイキッて作った巨大壁型水槽に住んでいる。大地に出て暮らせるけど滅多に水槽から出ない彼女に、水中で息の出来ない上に大地でしか暮らせない王太子。歩み寄り?泳ぎ寄り?は未だ行われていないと聞く。
言語と生態が違うのが破綻の原因だと何故気付かなかったのだろう。でも連れてきたんだから愛で乗り越えなさいよクズだな、とミューンは思っていた。
「ガラス越しに話せないかしら……。私も一応通訳を交えた筆談でコミュニケーションを図っているのだけど」
「王太子殿下は何をされているんですの?」
ミューンの言外に『王太子が率先して何とかしろよ』の問いに、王妃は口ごもる。
ミューンがゴードンに叫び掛けた科白は、ちょっぴり辛めで目に染みる罵りコメントです。




