初恋はきっと素敵なものだったのに
お読み頂き有難う御座います。
お話は最後まで書けておりますので、出来れば毎日更新予定で御座います。
古代生物の獣人=古生獣人となっております。本作に出てくるのは陸生生物です。
でも今回狼の王子しか出てませんね。
此処は、人と獣人が、時には仲良く、そして時にはいがみ合う国。小さな諍いには目を瞑り、手と手を取り合って暮らす、ちょっと変わった小さな国。
時々、空から色んなものが降ってくる不思議な国。
他の国とのとは少し違い、ちょっと不思議な虹色の油で動く歯車の国。
古機械の都と呼ばれるシャーゴン。
他の国には真似できない、蒸気を上げる大きな煙突がシャーシャー鳴り、重い歯車がゴンゴン鳴り響き続けるから、その名前が付いたと言われている。
初めて訪れるものよ、安直と言うなかれ。
古来より散々言われ尽くしている。
そんな皮肉を旅人へ返すのも、お約束となっている。
そんなシャーゴンに暮らす、王の息子である赤褐色の毛皮の狼獣人の男の子は、幼馴染の人間の女の子と仲がとても良かった。
歯車が鳴り響く中、何時ものように大きな黄色い花を一杯付ける木の下で、男の子と遊んでいた女の子は頬っぺたを赤らめていた。
彼女は一世一代の告白をしようと、更に頬っぺたを赤くした。
「あのね、私あなたの事がだいすき。あなたが私のつがいだとおもうの」
女の子は男の子に覚えたばかりの単語を使い、とっておきで精一杯の笑顔を向けた。
どきどきして昨日眠れなかった心臓は、今も早く鳴っている。
きっと、きっと上手くいく。
一生懸命選んだ萌黄色のワンピースのスカートを握りしめ、女の子は男の子の返事を待つ。
だが、そんな彼女に男の子は鼻を啜りながら首を傾げた。
「えー、確かにきみのことすきだけど……つがいだとは思えないなあ」
「そ、そんなあ……」
「それにヒトって誰とでもつがえるフセージツな種族だし……誇り高き狼とは違うじゃん」
「ひ、ひどいよ……」
きっと自分のことが好きだと、他の言葉でも好意的な反応が返ってると信じていた幼い女の子は、涙をボロボロ流した。
「えー、泣くなよー」
「きゃあ!」
そんな彼女の首まで垂れた涙はべろりと舐めあげられた。
断った癖にこの態度。
女の子は呆然と、楽しそうに自分を舐める男の子を見返した。
「わあー甘い味。あ、惜しいから、あいじんか、そくしつでいい?
僕のつがいが見つかったらおわかれするの!」
あいじん、そくしつ。
その意味を、おませな女の子は知っている。
奥さんではない、2番目の女のひと。
恋に憧れる女の子に取っては、悪夢のような言葉だった。
少女はあんぐりと口を開けて固まり……その言葉が身に染みるや否や、青ざめ、初恋はビリビリに敗れたことを知った。
そして……悲しみは怒りに代わり、初めてひとを……幼馴染みである王子の尻尾を足蹴にしたのだった。
「きゃうううん!!?」
尻尾は全治3週間だったという。
女の子はとっても怒られて、男の子はとってもとっても怒られた。
この国には、王子である男の子と同じ年頃の釣り合う身分の女の子は居ない。
だから、男の子は余所の国で番を見付けてくるに違いない。
でももし、見つからなかったら?
女の子に番になれって言われるかもしれない。
絶対!イヤ!イヤイヤイヤ!
おませな女の子は決意した。
絶対、この子のお嫁さんにはなってやらないし、キープにもならない!!
私は絶対、一番にしてくれる子を見つけるんだ!!
番なんて大嫌い!!
そして、男の子と女の子の仲は拗れ、仲直りし、また拗れ……月日は流れた。
今のシャーゴンの国王の王子、赤褐色の狼獣人ゴードンは末っ子なので自由で残酷です。