とある護衛の侯爵家観察
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ミューンへ報告が行ったようですね。
「ホホホ、フリックが。
プール……ですって!?」
「はい、お嬢様。
フリック様はお体を鍛えたいと海軍将閣下に相談され、次の休みに水泳訓練をなさるそうです!」
新しい護衛、クレアは雇い主であるドレッダ侯爵令嬢ミューンに意気揚々と報告をした。
そんな彼女を横で胡散臭そうに見ているのは、シン・キーチャートンである。因みに家名をソラニにする筈だったのだが、未だ実家から横入りが有り手続きが上手く行かないらしい。
「おおお、何て努力家なのかしら……。これ以上、私の心をブチ抜くスパダリになってどうするの……」
「お嬢様、素晴らしい婿殿ですね!」
「ホーッホッホッホ! 当然よ!うぐっ!」
ミューンはテンションが上がりすぎ、よろけて自分の足を踏みかけた。
因みに、素早く然りげ無く使用人が支えて椅子へと導いている。この辺のフォローは何時も通り完璧だった。
「ホホホ。神系統にはトコトン縁がないけれど、フリックなら信仰対象になりそうだわ」
「左様ですね」
「やはり、領地に今年のフリックの像を建てるべきかしら。素材はデモオタカ石が良いかしらね」
「僭越ながら、我が故郷の名産、ザンダカナ石の像も美しいかと!」
「迷うわね。石工を呼んで。カタログを持ってこさせなさい」
「直ぐに!」
入れ代わり立ち代わり、忙しそうなものの。
会話に突っ込む者が不在のドレッダ侯爵家は、今日も喧しかった。
因みに上記の石を使って子供サイズの石像を造ると、地方都市で庶民の一軒家が建つようなお値段らしい。
「それであのー、お嬢様」
「何かしら」
「見学には行かれないんですか?」
「見学」
思わぬ提案に、パチクリとミューンは瞬きをした。
「殿方の隠れた努力を、観察したら駄目ではないかしら?」
「お、応援的なのも駄目でしょうか……?」
水着イベントが起こりそうなのをクレアは期待していたが、ミューンはイマイチの反応である。
「そうね、恥ずかしがられそうだもの。
ええ、フリックの勇姿はかなり見たいけど……。
でも、来てくれとも言われないのに覗くのは、ちょっとね」
「何と慎ましい」
「淑女の鑑です」
急にミューンは常識的な事を言い出した。だが勿論、誰も突っ込まない。
しかし、常にフリックへ監視を付けているのは何なのだろう。その突っ込みも誰も入れなかった。
護衛に就任したばかりのクレアは少しだけ周りに視線を動かしたが、誰も反応しない。折角の優良勤め先を失ってはならないと黙った。
「そして、私……何と泳げるのよね」
「お嬢様の努力の賜物ですな」
ミューンへのヨイショは、止まらない。
「フリックが泳げるようになったら、ザブジャブジャブーンのリゾートに出掛けたいものよね……。
それ迄に、小競り合い終わらないかしら」
「宜しゅう御座いますな!」
「領地に海がお作り出来れば宜しいのですが……。フリック様は、山のレジャーをお嫌いでしょうか」
「そうね、川は有るけど湖もないしね……。沼を浄化してプールに出来ないかしら。変な名前の沼有ったわよね」
「元々は泉だったと聞きますからな」
滅茶苦茶金掛かりそうだな、と元傭兵で貧乏生活の長かったクレアは思った。
因みに姉は冒険者ネットワークで花形冒険者をやっているらしいが、疎遠である。
「フリックへの当日の護衛として誰か泳げる者がついて頂戴。防水紙ヘ記録をさせるようにね」
「承りました!!」
しかし護衛という名の……いや、結構中々の職場だなぁ、とクレアは思った。
お近くから遠く迄、フリックの護衛はチームで組まれております。




