王太子妃は口が軽い
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意外と軽かった王太子妃との会話が始まります。
「義姉上、何故話せないフリを為さっていたんですか?」
「▶ё◉#◆*だから‰▼;&●ё¢;;;……!プギャ!スピーキングムズいの!!」
王太子妃はアワアワしながら、深海語を交えて答えた。どうやらテンパると深海語と大地語が混ざるらしい。ユーインはズキズキ痛め付けられる頭痛を堪えながらも、フリックに視線をやった。
「……フリック、義姉上は何と仰っている」
「はい、ユーイン様。短期労働……バイトに差し障るからと……ええ!?バイト!?」
「ババババイト……」
「義姉上!?」
「お、王太子妃様……」
ユーインの声を聞いて、王太子妃は頭を抱えながら、バシャバシャと水槽の中で暴れ回った。
そのせいで、床も壁もフリックもびしょ濡れだ。床と壁の水分は特殊加工のお陰か無事排水溝に流れていったが、フリックはお風呂が必要なレベルで濡れている。
「フフフ、フリック、ず、ずぶ濡れだけど……」
「だ、大丈夫です、キャレルさん」
キャレルは彼が風邪を引かないか心配で、水槽から離そうと考えたが、深海語は水の近くでないと発音も聞き取りも出来ない。
「ひええん!だからヤダッたのよう!旦那も知ってるから良いじゃないよう!ごめんメンゴってばー!」
因みにユーイン達も、飛沫で地味に湿ってきている。
「……兄上が!?」
「ヒ、ヒエエ……これ、き、聞いたら王室的に駄目なヤツじゃないですかあ……!?」
「……他言無用だ。そこの女官も」
「存じております。仰せのままに……ユーイン殿下」
フウ、と溜め息を吐いて、ユーインは王太子妃へと向き直る。そして女官にタオルの手配と風呂の用意を言い付け、部屋から退出させた。
「その話は後で伺います。我々は聞きたいことが有って参りました」
「後々も聞かないで欲しいのよーん……」
「聞きます。義姉上」
「この場ではちゃんとするからあん!お答えしちゃうよう!!」
「……お、王太子妃様……」
聞きたいのは山々だが、安請け合いして良いのだろうか。フリックは思わず王太子妃を見つめてしまった。
「ちゃんとする!あのあのね、私の名前はティレ#◉ロアオ▶◁カノニエリ●◇◆◁¥……」
「聞き取れない部分は有るが、そんな名前だったんですか……。意味は」
「ええと、深き海の類い希なる白き瞬き……」
キャレルが思わず訳すと、王太子妃は頬に手を当ててバシャビシャと水の中で跳ね回った。
当然ながら間近のフリックはまた濡れ、ユーイン達にも海水の飛沫が降り掛かる。
「みゃっ!!」
「ガウッ!?」
「ヒエエ!?」
「いやいやん!そこの黒いお魚の子!ダサダサいから止めて!!」
「く、黒いお魚……そ、その通りですけど……」
「私を呼ぶなら、お義母様とかが呼んでるローメリ?でいいわ!」
「え、え!?そ、それもどうかと……」
「いや、母が……だけでもないが、呼んでるのはオーレリですが……どういう意味なんだ」
「……あ、オーレリ?じゃあそれで良いわ。それの意味、とても分かんないけど」
「ローメリ……」
意味は分からないし、未だ涙目のキャレルの何とも言えない顔が気になるところだが、ユーインは強引に話を戻すことにした。
「……気になるが、それよりも。義姉上、聞きたいのは兄の事です」
「旦那がどーしたの?あの人、変わり者」
「いや、変わっているのは付き合いが長過ぎて、身に染みて知っている」
ユーインは散々な感想だった。散々兄に苦労させられている故に仕方がないのだろう。
「じゃあなあになーに何?
旦那によく付いて回ってる……角?を切った女の子?」
「角……馬の娘を知っているのですか?」
どうやらネラの事を知っているらしい。
「陸の種族は円盤知識しかなくてウロウロ覚えだけれど、それかしらん。多分そうなのよう」
「円盤?」
もしかして、水槽内に散らばる丸い石がそうなのだろうか。何の用途に使うのかはサッパリ分からない。
「あっ、ち、散らかしてごめんメンゴ!旦那に怒られるわー。子供達が体当たりしかねないから、片付けろって」
「こ……」
ユーインは何度めか分からないレベルで、絶句した。
信じさせられていた事実は、まるごと違う。
「あ、兄上に、子供……」
「ごめんメンゴね。最近産まれたばっかりの稚魚だもん。叔父さんだって未だ分かんないかもかも……。
ほーらディリシア、クワルク。叔父たまよ」
王太子妃オーレリが呼び寄せ、寄ってきた小魚は、2匹。
どちらもよく見たことの無い魚で……片方は赤褐色の色の鱗、もう片方は白と赤褐色の鱗だった。
子供。稚魚。
王太子妃の周囲をポチョポチョ動き回る小魚の色味はどう見ても、ガウ家の色合いだった。
「叔父……」
「お、狼は……妃殿下からは産まれないん、ですか?」
「私、卵しか産めないわん!狼は無理よう!」
「いや、それよりも……偽装仮面夫婦、だったのか……!?」
「ギソー仮面フーフー?●‰::ё◁#◇◆▷」
「あの、そのあにめ?と言うのは何でしょうか」
「円盤よう!これは、えーと?ザブジャブジャブーンでは書物の代わり?なの!?これ買いに行く為に長ーい時間、週1しか運行しない潜水艇に乗ったのだわ!ウチの実家、田舎だから、ホント交通網がヨワヨワ!
お店行く迄に水圧酔いして貧血で海草の上に倒れてたら、旦那にナンパされちゃったのよう」
そんなエピソードだったなど、知らない。
「これは、お聞きして……良かったんでしょうか」
「よよよよ、良くないよね……」
ただ、ネラの事を聞きに来ただけなのに。
王太子夫妻の不仲説はひっくり返り、王位継承権順位迄がひっくり返るエピソードを聞かされるとは思わなかった。
「それで、あのウマの子?は旦那の浮気相手なの!?有り得ないわん!旦那は魚と草と硝子しか愛せないのに」
「ヒエエエ……き、聞きたくな、無い情報……」
「……兄上……」
更に聞きたくない性癖まで聞かされてしまった。
王太子妃はかなり変わった人らしい。
偽装仮面夫婦だった…ようですね。




