翼竜はドラマチックを夢見る
お読み頂き有難う御座います。
今年もどうぞ良しなに。
「……クキャッア!?」
「ハ?おいっ!」
雲が多めに掛かる浮き島に佇む、エセテ公爵邸。
シュラヴィとゴードンが知恵を絞り、逃げ出す算段を練っていた所に靴音が響く。
急にドカドカと入ってきた若き公爵とその臣下によって、ゴードンは蹴飛ばされ、シュラヴィは捕らえられた。
「花嫁の気散じ役、ご苦労様。元殿下の……全てが足りぬゴードン君」
「ハッァァンンンン!?噛っみ殺すぞテメエ!?」
「吠えるでない。次に姿を見せる時は、もう少しマシな性根になっているよ……。互いにな」
「ギャイン!」
尻尾を踏みにじられ、ゴードンは叫び呻いた。そんな彼の側に、アルザイーラはハーピーの羽をバタつかせて、駆け寄る。
「旦那王子様、大人しくしてなぁって!あの赤毛の翼竜バカにしてたじゃあん?」
「アルザイーラ!!テメエ……!!」
「ハイ暴れなーい暴れなーい!」
アルザイーラは激昂するゴードンを小柄な体で難なく押さえ込み、抱き込んで耳の側で囁いた。周りに茶色の羽が飛んで、ゴードンの視界を少しだけ遮る。
その光景に……少しだけ、ゴードンの脳裏に焼き付く彼女の妹と同じ匂いを嗅ぎ取った。
「いーから!……殺されたら元も子もないよぉー!」
「……ザイーラ」
意外な言葉に、上がりきっていたゴードンの血が冷めた。
「……一緒に処分すればいいものを」
「まーまー、お父様!そん時はそん時!」
後ろからは、アルザイーラの父親のスティーヴが吐き捨ててている。一瞬激昂し、手を振り上げかけたが、アルザイーラの手に押さえ込まれた。
軍人である彼女はゴードンよりも遥かに小さいのに、驚く程簡単に制圧されてしまう。
「じゃあ、来て貰おうかシュラヴィ。これで我々は完全な番になれる」
「クケー!!いや、助けて!!ジュラン様!ジュラン様!!わたくしは此処ですわジュラン様!!
最悪フリック・レストヴァでもいいですわ!わたくしがこんな目に遭ってるのに侯爵令嬢とイチャつくなんて許せませんのよーーー!!」
暴れるも難なく押さえ付けられ、荷物のように引き立てられていくシュラヴィをゴードンは見送るしかなかった。あんな小娘、役にもたたないしどうでもいいと思っていたのに、不愉快だった。
「ホント旦那王子様は、女好きだねぇ……。ダメダメだよぉ」
それを聞いたゴードンの尻尾がビクリと震え、膨らむ。
「それを痛め付けておけ、ザイーラ。明日には棄てるぞ」
「お父様ァ」
ビクリ、とゴードンは身を竦める。
彼女の事を気にしている場合ではないようだ。
引っ立てられたシュラヴィはメイドに引き渡され、髪と同じ真っ赤なドレスと装飾品で飾り立てられた。
「クケェ!お離しくださいーーー!!」
気付くと全身真っ赤なコーディネートにされていた。しかも、不似合いな豪華な椅子に括り付けられている。
「カレイル様っ!これは、これは何事ですの!?どうして、わたくしを!!」
「ああ煩い。その顔、その声……。可憐に麗しい私のシュラヴィとしては、気に入らないが、もう全ては叶わないと知った。諦めも肝要」
カレイルの声に掠れが混じっている。喋り方もおかしい。
嘗て聞いた、老人の声のように……ジワジワと不愉快さが滲んでいる。
身内だから声が似ている……と思っていたが、反響して……まるで、複数の人間が喋っているように聞こえる。
老人など居ない。エセテ公爵は、あの息の無かった老人は此処には……居ない筈なのに。
彼の声が聞こえる。
シュラヴィの恐怖は限界に達しそうだった。意味も分からないし、何をされるかも分からない。
だが恐怖は背中を駆け登ってくる。
どう考えても異常なのに気絶も出来ない頑丈な我が身を少し呪い、震え上がった。
「嫌、嫌、嫌ですわ!!何だかよく分かりませんが嫌ですわ!
どうかもう一度お考えくださいませ!!ええと、わたくしがお好みじゃないんですのよね!?」
「シュラヴィ……シュラヴィ・ラバグルド。君は、彼女の魂で満たされる」
「だだだ、誰ですの、それ!!同じお名前!?知らない方ですわ!」
堪り兼ねて叫んだその時、ガシャ……と物音がした。その音に目を輝かせたシュラヴィは歓喜の声を上げる。
待ち兼ねていた人物が現れたに違いないと!!
「ジュラン様!!わたくし、お待ちして……!!」
「……ヒッ、ヒイイイ!!」
だが、目の前に現れたのは……肌も髪も黒っぽい、青緑の目が不気味に光る陰気さ。
そして、何故かこっちに怯える悲鳴。
「だっ、誰ですのよーーー!?」
翼竜シュラヴィ・キャリエル、エセテ公爵カレイル、ヌメドー子爵令息キャレル。
名前似た三人が集まってしまいましたね。




