似たもの親子
お読み頂き有難う御座います。
お父様との話し合いですね。
「何と言う失礼な!!我が娘を愚弄しおって!!物理で抗議するぞ!!槍を持てい!!」
ミューンの父親は法務大臣(インドア文官の家系)の割に少々脳筋であるが、情に厚い。
そして虚弱気味で扱えもしないのに、武器マニアである。昔は騎士になりたかったらしい。
そして、ふたりがかりで取ってこられた重すぎて持って歩けない槍を振り回す機会を地味に探していたので、使う気のようだ。娘をコケにされた怒りに上乗せして張り上げる声が、一段と大きかった。
「まあ、どの道こっぴどく何かのついでに大勢の前で振るから良いわ。お父様、ご無理は禁物ですわ。転けますわよ」
「ぐむむむむ!我が娘を……重おおおいぞおおお!!」
「まあお父様、少し浮いた気がしますわね」
父親の筋トレの成果は今日も振るわなかったようだ。
床に置かれた建国の父と称えられた英雄の振るったと言われる伝説の槍のレプリカは、微動だにしない。きっと常人では無かったのだろう。だが、常人より虚弱な父親は振るえる日を夢見て諦めていない。そんな前向きな父親をミューンは尊敬していた。
しかし、それは兎も角。
ミューンはゴードンに構いたく無くて関り合いになりたくなかった。
それよりも番であるフリックの事を考えて自動的に微笑み、キャッキャウフフがしたかった。
「そうだわ、お父様。
フリックに何時お会いしてくださる?彼がテストを終えたら連れてきても宜しくて?」
ミューンの考え方は父親似だ。
だから、番になってくれと言われたものの、会ったばかりの少年を親に会わせるのは早いし重いのでは?と誰も突っ込まない。
父親の険しい表情も明るくなった。
「ああ、剣歯虎のフリック・レストヴァ殿だったな。
私の可愛いミューン、お前に愛を囁いたという見込みの有る男なら何時でも連れて来なさい。
お前の幼い想いを踏みにじって執拗に諦めないあの方を忘れなさい。
お前への口説き文句すら論外だった、過去の慮外者は丸ごと無かったことになっているからな!」
父は語らないが、さぞかし元夫は色んな目に遭っているのだろう。生きてはいる筈だが。
王家も彼のこれからの暮らしへの影響を深く及ぼす為に秘密裏に動いたらしい。伝聞でしか聞かない彼の家族がつくづく気の毒である。せめて筋を通してミューンに結婚が続けられない別れて欲しいと謝れば……ゴードンが脅しを更にかけ、何をするか想像も付かない。
どの道ゴードンが悪いな、とミューンは結論付けた。
あの時は王家がカバーしてくれて、心は少し軽くなった。
だが、今回は違う。以前味方になってくれたその王家が噛んでいるのが痛い。側近達も誰が味方なのかも分からない。油断は決して出来ない。
しかしながら、ミューンは楽観視していた。
王家の考えは一枚岩ではないからである。第三王子のやらかしの尻拭いに走る国王と王妃はミューンの味方なのだ。彼等が目を光らせている内は露骨な手段に出てくるまい。
どれだけ呼び出しをすっぽかせるか。そして、ちょっとでいいからフリックに会えないかを同時進行でミューンは考えた。
「……流石に、偶然を装ってフリックに……送り迎えと食を保証したら……駄目かしら?駄目なのかしら?駄目じゃないといいわあ」
「お前の想い人の話か?権力で囲えるタイプならジャンジャン使いなさい」
「やだわお父様ったら。
フリックは礼儀正しくて謝れる子だし努力家で純粋で姉想いで慎ましくて、本当に可愛いのよ。
権力は彼が育つまで私が然り気無く使うわ。
あら、これってもしかしたら内助の功かしら。照れちゃうわ」
「ハッハッハ!流石ミューンだ!そんなにいい男なんだな!よくみつけた。逃さないように頑張りなさい」
父親は未だ槍を起こそうと奮闘して高笑いをし、娘はその前で惚気て照れると言うシュールな光景だった。
だが、この場にツッコミは存在しない。
「ええ、先ずはこの忌々しい印刷物に異議申し立てをしに行くわ。
そのついでに裏事情を……。どうせ、宰相とその取り巻き共が企んでいるんでしょうね」
「コンラッド・リオネスか……。あの一族は厄介だからな」
「性格が悪いのよね……。弟も込みで。お祖母様やお母様、妹のネラは本当に良い子なのに」
1つ歳下の美貌の宰相とその弟の顔を思い浮かべて、ミューンと父親はげんなりした。
ゴードンとミューンは腐れ縁幼馴染みだが、実は彼らとも一応幼馴染みと言える関係ではある。避けて避けたい仲良くない幼馴染み。
オマケに弟の方は『裏社会ネットワーク』と言う、ネーミングセンスのイマイチな訳の分からない組織に所属している。暫く会っていないが厄介な男には違いない。
頭の回転は良いのだが、トコトンイラッと来る。来ないときの方が珍しい。
タイプは違うのに、道ですれ違うのすらイラッと来る兄弟であった。
絶対に彼等がゴードン側に与している筈だ。
会って嫌味を言われたら肘鉄を脇腹に当てようとミューンは思った。
嫌味を言われなかったらする気は勿論無い。穏やかに別れるつもりだ。
穏やかに会話した例が今まで4、5回しかないが。
お父様は一人娘のミューンの婿にゴードンが来ることを望んではいません。




