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討伐隊2

 討伐隊2



途中途中で俺たちと同じような奴隷を拾い、人目につかないところで休憩しながら、静かにこの隊列は進んでいった。


野盗紛いの男たちは、こちらに対しては最低限の接触しかしてこなかった。


食事も最低限のものではあったがきちんと与えられた。


そうやって何事もなく馬車に揺られ、7日程経過していった。


いつも通りの食事休憩時間、固いパンを食いちぎっている時だった。


「なぁ、お若いの」


初めて他の奴隷に話しかけられた。

その人は隣に座っていたよぼよぼのお爺さんだ。


「なに、爺さん?」


こんなお爺さんとしゃべるのは随分久しぶりで、少し緊張してしまう。


そもそも年長者とはあまり話したくない。


というのも、年長者には敬語を使わねばという日本にいた頃の常識が、敬語を使えぬ自分をちくちく責めるからだ。


「前々から気になっていたんだが、君はなんで『死の国』に行かせられてるんだい?まだ、その時じゃないと思うが」


恐る恐るといった感じで問いかけてくるお爺さんに、肩をすくめて答えた。


「奴隷生活に飽き飽きして反抗してね、監督者を思いっきりぶん殴ってやった、結果ここにいるわけだ」


「ああ、なるほどね。ここにやられるってことは随分暴れたんだねぇ」


俺の反応に少し緊張を解いたのか、お爺さんはしわくちゃの顔をなおしわくちゃにして笑った。


「監督者7、8人くらいだな」


「おお!なかなかに骨がある若者よなぁ。

 儂も若いころは君みたいにたくましく、熱い男だったんだよ」

 

「爺さんがかい?」


「そうさ!今はこんなによぼよびだけどね。

 昔は漁師として一丁前にやっていたのさ」

 

そういって力こぶを作って見せるお爺さんだったが、細い腕にこぶはできていない。


「それなりに稼いで、それなりに幸せな家庭を築いて、倅もできて・・・。

 なんで儂はあの時、賭博になんて手を出してしまったんだろうなぁ。

 何度も考えちまうよ」

 

「借金で奴隷に堕ちたのか」


「ああ。妻が先だって、倅も家を出て・・・独りは寂しくてなぁ。

 魔がさしちまった」

 

感情ごと魂が抜け落ちたような、虚ろな笑みを顔に張り付けて、ぼんやりと視線を宙に彷徨わせる。


「子どもは、知ってるのか?」


「まさか。こんな姿見せられないよ。

 知らせる必要もない、儂の責任くらい儂がとる」

 

「・・・」


「若いのは、他に家族はいないのか?」


「普通、奴隷に聞くかそういうこと?」


「儂も言うたからいいだろう?」


「・・・。

 いるよ。父も母も、妹も生きてるはずだ」

 

「・・・そうか、何やら大きな厄介事に巻き込まれたようだな」


俺の答えに何かを感じたのか、お爺さんは少し同情するように目を細めた。


 「わかるのか?」

 

 「伊達に年はとってないよ、何となくわかる。

  君の目は、大きな理不尽にあった者の目だ。悲しみの目だ。怒りの目だ」

  

 「・・・」


 「だが、ある意味幸せかもしれん。

  この先にあるのは『死の国』、わしはこれ以上生き恥をさらさずに妻に会えるし、若いのはこれ以上悩まなくて済むんだからな」


「爺さんは、『死の国』について何か知っているのか?」


俺が少し驚いてそう聞くと、お爺さんはこくりと頷いた。


「若いのは『死の国』については何も知らんのか?」


「ああ、まったく」


「ふむ」


お爺さんは肩眉を上げて、しばらくこちらを窺うように見つめた。


「まぁ、儂が知っていることは少ないが、そうだな・・・。

 この国ガリヴァル王国と隣国ルナリーシェ王国のちょうど境にある森の中心に『死の国』はあるんだよ。

 そこには『死の魔女』という悪い魔女がいて、森に踏み込むすべての生物の命を奪うと言われておる。

 ここまでは、ほとんどの者が知ってることだが・・・」

 

お爺さんは辺りを気にするように周りに視線をやると、声を潜めてさらに続けた。


「実は『死の国』は、ルナリーシェ王国がガリヴァル王国の侵攻を防ぐために作った結界装置だって噂がある。

 だからガリヴァル王国はルナリーシェ王国の領土内である『死の国』に儂らのような者達を秘密裏に送って、『死の魔女』を討てと命令を定期的に下すのさ」

 

なるほど。

それなら合点がいく。


盗賊紛いの集団はやはりこの国の騎士で、秘密裏にことを進める必要があるからあんな格好しているのだろう。


「じゃあ、『死の魔女』ってのは何かの装置なのか?」


「ううむ、そこまではわからん。

 『死の国』の中心にたどりついた者はおらんからな。

 ルナリーシェ王国におる『知の頂』大賢者様が作った魔法陣とも、あるいは―――」

 

お爺さんはそこでいったん言葉を止めると、さらに声を潜めてささやく。


「ルナリーシェ王国の呪われた王女とも、言われている」


「呪われた?」


「ああ、ルナリーシェ王国には王女が一人いるはずなんだが、この10年くらい誰もその姿を見ていないんだ。

 亡くなられた、という話もなくてなぁ。

 ただただ最初からいなかったかのように、誰も王女について語る者はいない。

 だからな?皆、王女は呪われていて、どこかに幽閉されているんじゃないかって、巷で噂になってるのさ」

 

「なるほど、な」


『死の国』に関する会話はそこで終わった。

後は他愛のない話、どうやらお爺さんは話好きらしい。


だが、その他愛のない話に相槌をうちながら、俺の意識はいまだに『死の国』にあった。


・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。


それからさらに5日たち、深い深い森の奥で、この隊列はようやく止まった。


日中でさえ暗いであろう場所であるのに、今は夜、松明を使わないと目を開けているのかどうかさえわからないほどに暗い。


そんな中、野盗紛いの男たちの持つ松明でゆらゆらと赤く照らされながら、奴隷たちが荷台から下りていき、整列させられる。


奴隷たちの中には、がたがたと震え、泣いている者さえいるようだ。

まるで処刑前の罪人である。


「諸君、長旅ご苦労だった」


リーダー格の男が前に出て声を張り上げる。


「ここが君たちの目的地、そして君たちの新しい人生の出発地点だ」


男は俺たちの顔をぐるりと見渡す。


「この先には、全ての生を踏みにじる悪しき魔女がいる。

 我々は正義の名の下にこれを討たなければならない。

 君たちは正義の剣だ。誇り高きガリヴァル王国の勇者だ。

 私は信じている。君たちが悪を討つ未来を」

 

芝居がかった、しかし妙に板についたしぐさで演説する。


「君たちが魔女を討ちとった暁には、君たちには何不自由のない生活を約束しよう。

 我がガリヴァル王国は勇者には敬意を払う。ゆえに、この約束は絶対だ。

 奴隷であるからといって、この約束を反故にすることはない」

 

その言葉に、奴隷たちの間で小さく声が上がった。


その一方で俺は、『主人と同じようなことで釣ってるな』と冷めた目で見ていた。


「魔女は手ごわいだろう、だが皆の力を団結させれば道は開ける。

 無論、簡単なものだが武器を用意している」

 

その言葉に反応して、部下が荷台から箱を下ろして、皆の前で開けた。

中にはボロボロではあったが剣や弓、槍が入っていた。


「さぁ、諸君、裁きの剣をその手に、正義を為せ」


その声に、奴隷が一人、また一人と武器を手に取りだす。

俺も素手では心もとないので、大ぶりのナイフをとりあえず手に取った。

それに加えて武器とは別に一人一人松明が与えられた。


「君たちの向かうべき道はあちらだ」


そうやってリーダー格の男が指さしたのは、森のさらに奥だった。


何も見えない暗闇、時折聞こえる動物の叫び声。

まるで暗闇が口を開いて俺たちという獲物を待っているようだ。


「ああ、それと、諸君の動きは『戒めの首輪』で見守っている。

 無事、魔女を討ちとれば、我々が迎えに行くので心配はするな」


つまり、逃げてもわかる、か。


俺を含めた奴隷たちは、男たちの無言の催促に背中を蹴飛ばされながら、森のさらに奥に向かうのだった。


・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。


俺たちは集団でのろのろと森の奥を目指して進んでいく。


べったりとした闇が周りを囲み、風が吹くたびにがさがさと草木が鳴く。

そのたびに、『死の魔女』や魔物が襲い掛かってきたのかと緊張で身がすくむ。


凍えるように冷える夜であるというのに、皆一様に脂汗で額を濡らしているようだった。


他の奴隷よりも体が大きい俺は、いつの間にか集団の先頭に立たされていた。


「・・・」


そもそも目的地はここからどれくらい離れているのだろうか。

場合によっては、野宿を考えなければならないが。


などと考えながら、ふと今の状況を懐かしく思う自分に気付いた。


・・・ああ、そうだ。俺がこの世界に来たときの状況だ。

3~4日ほど森で彷徨ったな。あの時は一人だったが。


山で始まり、山で終わるのか。


大きく、ため息をついた時だった。


「ぎゃぁあああああああああああ!?」


喉が破れんばかりの絶叫だった。


咄嗟にその声の方を向くと、一人の奴隷が、松明を持ったまま、浮かんで、いた。


いや、違う。

その奴隷の腹を――――何かが貫き、それがその男を持ち上げていた。


「『ラングラー』だ!!」


周りの奴隷が口々に叫びながら、逃げるように後ずさった。


ラングラー?


すぐにナイフを構え、観察する。


闇が実体を持ったかのように、茂みからゆっくりと出てきたそれは、まるでイノシシのような獣だった。

だがその尾は細長く伸び、先が槍のようにとがっている。

宙づりにされている哀れな犠牲者は、その尾によって貫かれていたのだ。


「・・・っひるむな!!」


やむを得ない。

恐怖が完全に辺りを支配するまえ、俺は怒号を上げる。


びくりと体を震わせ、こちらに視線をやる他の奴隷に見せつけるように、ナイフを片手に飛びだした。


「おらぁああっ!」


こちらに気付いたラングラーが尾を男から素早く引き抜くと、こちらに突きだしてくる。


速い!―――が、見えないほどじゃない!


体をひねると同時にナイフを走らせ、その尾を断ち切った


『ぎゃぁうっ!』


ラングラーが鳴くのを無視して駆け寄り、そのまま首筋にナイフを突き立てた。


『ぐるるるうぅぅぅう!』


 低いうなり声を上げながら暴れまわるラングラー。

 それに負けないようラングラーにしがみつき、さらに深くナイフを突き立てる。

 

 ぬるりとした不気味に温かい液体が体をに濡らし、不快に臭いが鼻をつく。

 だがそれにひるまず、さらに深く深くナイフを突き立てた。

 

 猛然と暴れていたラングラーは次第に力を失い、とうとうばたりと倒れ、動かなくなってしまった。

 

 念のためナイフをひねり上げるようにさらに突き刺した。

 

 反応は・・・ない。

 

 それを確認して、ナイフをゆっくりと引き抜き、荒れる呼吸を落ち着けながら立ち上がった。

 

「おお!」


他の奴隷から歓声が上がった。


だが、そんなことよりも。


「そいつは大丈夫か?」


腹を刺され悶えていた男を見てそう言った。


「あ、いや・・・うん、これは駄目かもな」


周りにいた奴隷が顔をしかめてそう言った。


近づいて見てみると、口と腹から血を流し、呼吸は弱弱しいものになっている。

治療道具もないここで、助けることは不可能だ。


「治療魔法を使える奴は・・・いないよな?」


俺がそう聞くと、何当たり前のこと言っているんだとばかりに皆激しく首を振った。


「・・・何か言い残すことはあるか?」


その男の横に膝をついて、口元に耳を寄せる。

だが、聞こえてくるのはか細い、隙間風のような不規則な呼吸音だけだった。


「・・・」


俺はこいつのことを何も知らないし、悲しんでやることもできない。


俺ができるせめてものことは・・・。


「―――」


その男の手を強く握ってやった。強く強く、薄れゆく意識に刻むように。

逝くときは独りとはいえ、見送りくらいしてやるのが人情だろうから。


男の目から涙が流れる。

そして、ゆっくりと目を閉じて、二度と開くことはなかった。


「・・・」


男の手を外して、立ち上がる。


周りを見回すと、皆俺に注目していた。俺の指示を待っているかのように。


どうやら、さっきので本格的に仮のリーダーになったようだ。


しかたないか。


「みんな、聞いてくれ」


俺のその言葉に、皆急いで俺の周りに集まってくるのだった。


・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。

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