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1、日常

初めての投稿となります。のんびりと投稿していきたいと思いますのでよろしくお願いします。


じりりり! じりりり!


「・・・んあ?」


じりりり! じりりり!


「あ~・・・」


じりりり! じりりり!


「はいはぃ・・・」


じりりり! じり―――


けたたましく鳴り響く目覚まし時計を手探りで探し当て、アラームを止める。


重たい瞼をなんとかこじ開けて、視線を宙にさまよわせた。

カーテンから漏れた弱弱しい光が、見慣れた自分の部屋を照らしている。


その視線はやがて天井に吸い込まれていき―――そうするのが当たり前のようにゆっくりと瞼を閉じた。


じりりり! じりり――


「はい、おきます」


スヌーズ機能により再度怒鳴り始める時計を止めて今度こそ、はっきりと夢の世界からの帰還を

果たしたのだった。


・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。


あくびを噛み殺しながら二階の自分の部屋から一階のリビングに下りてくると、

いつものように母さんが朝食の準備をしていた。


「おはよう母さん」


「あら、おはよう光示こうじ


俺に気付くと肩越しに振り返り、朗らかな笑顔を向けて応えてくれる。


「まだ静流しずるが起きてないの、起こしてきてくれない?」


「静流ももう高校生になるんだから、一人で起きられるようにならないといけないんじゃないの?」


「そうなんだけどねぇ。一応、言ってはいるんでけど・・・。

 でも、もう起きないと遅刻する時間だし。

 お願いね、お兄ちゃん」

 

「年頃の娘さんの部屋に無断に入るのは気が引けるんだけどなー」


そうぼやきながらも、俺は今しがた降りてきた階段を上っていった。


階段を上って一番手前が俺の部屋で、その隣が俺の妹、静流の部屋だ。


自分の部屋を通りすぎて目的の部屋の前に立つ。

とりあえずノックをして様子をみてみるか。


「静流、起きてるか?起きてないなら入るぞ」


・・・うん、特に反応なし。


そうだろうな、と思いながら、ゆっくりと扉を開く。


可愛い小物がたくさん飾られている少し子供っぽい、でも女の子らしい部屋。

物がいっぱいあるにもかかわらず、きちんと整理整頓されているのは母さんの教育の成果だろう。


そんなカーテンがかかったままの薄暗い部屋のベッドの上、膨らんだ布団からにょっきりと細い手だけが外に出ていた。

その手は自分の眠りを妨げる邪魔者に振り下ろされている。


ピピ――


スヌーズ機能でアラームが鳴り始めるや否やちょこんと手が動きそれを止めた。


意識は夢の中、体が自動的に動いているのだろう。


まったく、困った妹である。


小さく笑いながら、俺はその布団を無慈悲に引っぺがしにかかるのだった。


・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。


「お兄ちゃんひどいんだよ!

 起こし方乱暴だし!パジャマ脱がそうとするし、エッチなんだよ!?」


家族が朝食のために食卓につくのを見計らって、静流は父さん、母さんにむかって抗議し始める。


「失礼な、『着替えさせて~』って甘えてきたのは静流の方だろう?

 兄に脱がせさせるとは、実にエッチな妹である」

 

「ち・が・い・ま・す~!

 わたし、そんなこと言ってないです~!」

 

「言いました~。

 『着替えさせぇ~』って」

 

「そんなくねくねしてないもん!言ってないもん!お兄ちゃんのばかぁ!」


「国立大学判定Aのこの私に馬鹿とはいったい?」

 

「う~~~~!性格悪いもん!いじわるだもん!腹黒だもん!」


「高校入試のために自分の勉強時間を削っても勉強を教えてあげた私がいじわるとはいったい?」


「うっ・・・その節はありがとうございました!」


「どういたしまして」


ちゃんとお礼が言える子で、お兄ちゃん嬉しい。


「こら、光示、あまり意地悪言ってやるなよ」


「お父さん!好き!大好き!

 もっと言ってやって!」


呆れたように俺をいさめる父さんに、これは勝機と静流が飛びつく。


「はっはっは、光示、父さん、静流に大好きと言われちゃったよ。

 もっと好きって言われたいから、もっといじめていいぞ~」

 

「お父さん!?」


すぐに手のひらを返されて、驚愕の表情をつくる静流。

表情をころころと変える静流は、身内贔屓を差し引いてもかわいらしいと思う。


学校でもさぞモテることだろう。


付き合っているとか、そういう話を聞かないのはそういったことに興味がないのか、

あるいは家族に秘密にしているのか。


・・・いや、こんなにわかりやすい奴が秘密になどできまい。

なら前者か。


「もう、誠司さん、意地悪言っちゃダメでしょ?」


「こらっ、光示!静流をいじめるのは父さんが許さないからな!」


恐ろしいまでの手のひら返しである。

感心すらしてしまいそうだ。真似はしたくないけど。


へーい、と適当な返事をしつつ、朝食をとっていく。


そんな賑やかな朝。

これがいつもの日常だ。


だが、うまくいったらあとひと月ちょっとで進学のために、独り暮らしだ。

こんな賑やかな日常が、がらりと変わってしまうのだろう。


それは楽しみであり、寂しくもある。


でも・・・これが大人になっていくってことなんだろうな。


そんなことを考えながら、箸をすすめた。


・・・。

・・・・・・。

・・・・・・・・・。


「あー、授業も終わりっと。

 なぁ光示、ゲーセンにでも行かね?」


「いいな、行こう行こう」


授業が終わるや、自分のカバンを肩に引っかけるようにしながら寄ってきた隆太りゅうた

こと隆に笑顔で答えた。


「う・・・冗談だよ、俺、特別講義があるから行けねぇし、言ってみただけだ」


「だろうな」


疲れたように肩を落とす隆太に肩をすくめて見せる。


「根をつめるのはよくない、ってさすがに今週末に入試があるのに言ってられないもんな」


「光示はいいよな、合格間違いなしだろうし」


「馬鹿野郎、油断は大敵だ。

 何が起こるかわからないんだぜ?

 試験前に事故にあう可能性もあるしな」

 

「試験で落ちる心配はないのかよぉ」


妬ましそうに睨んでくる隆に、にやりと笑って見せた。


「これまでの積み重ねの差ですよ、隆太君?」


「腹ったつわ!!」


「はっはっは!」


肩に割と力を入れてパンチしてくる隆からひらりと身をかわしながら、隆とクラスを出た。


二人で他愛無い話をしながら玄関に向かっていると、隆が声を潜めてこちらに身を寄せてきた。


やめて、噂されたら恥ずかしいから、なんてふざけてみるも、あっけなく黙殺されてしまった。


「光示、お前やっぱり三瀬さんと付き合うのか?」


「あぁん?なんでだよ」


「いや、ぜってぇ三瀬さん光示のこと好きだろ?

 いつも光示のこと見てるし、何気なくお前の近くに寄ってきてるし。

 お前と話すとき顔赤いし!

 あれは卒業式に呼びだして告白する腹積もりだね、間違いない」

 

「隆、また意味のわからないことを」


「意味はわかるだろう!」


「と言っても、あんまり関わりないしな」


「重い荷物代わりに持ってやったり、足をくじいた三瀬さんをお姫様だっこで保健室に

 運んだり、何かに悩んでいる三瀬さんに気障なセリフで励ましたり・・・してないよな?」

 

「隆、お前・・・」


「じょーだんだよ!冗談!そんな顔すんなって!」


「まったく、こいつは」


・・・どこで見ていたのだろうか。俺のストーカーか何かなのだろうか?

いやそれはともかく、気障なセリフははいていないはずだ、うん。


などと話していると、校門前についていた。


塾に行く隆とはここでお別れである。


「光示、また明日なー」


「おう、またな隆」


夕日の朱に染まりながら、ひらひらと手を振る隆に軽く手を上げて別れた。


珍しく一人か。


さすがに入試直前ともなると、みな忙しそうだ。

もちろん、俺も帰ったら勉強をするのだから、暇なわけではないけど。


うん、油断は大敵だ。

しっかりと入試に備えよう。


入試が終わったら、思う存分遊ぶとして、今は何をおいても勉強だ!


決意を新たに、一歩足を進めて、




「―――え?」




ぐにゃりと、景色が歪んだ。


不規則に不安定に不気味に、世界が崩れていく。


落ちているような、引き上げられているような、ぐるぐると回されているような、止まっているような。

矛盾する感覚が、なぜか同時に成立していた。


さらに、さらにさらに、世界の崩壊は、俺の崩壊は続いている。


立っているのか、しゃがんでいるのか、倒れているのか。


叫んでいるのか、黙っているのか、笑っているのか。


怒っているのか、悲しんでいるのか、恐怖しているのか、楽しんでいるのか。


全身を粉々に砕かれているのか、皮膚をはぎ取られているのか、焼かれているのか。


全部、ぜんぶ。


わからないわからない。


なにもわから、わからない?わからない。


いみが   わからない

わらかなくて      じぶんが

        なにを、か    えている?


いま   な  にがおこって


ふあんて   べんきょ       しないと

 おいしそ、まわて、

      しぬ?   し ししし   し  ぬ

とうさ、かあ、しず―――


きえ、きえきえきえてい、お―――――――――


しにたくない。


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