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エスパーガール

掲載日:2019/06/14



 最近悩みがある。

 寝不足なのだ。

 夜、寝ていると『ほーん、ほーん……』となにかに呼ばれているような感じがする。

 決まって夜。

 人が寝静まった、夜だ。

 さすがに一週間も続くと気になるから、その日ついに悪の組織の制服に着替えて呼び声の主人を探しに出た。


『ほーん、ほーーん』


 私が住むのは郊外だ。

 声を頼りに河川敷の方へと進むと、オンボロの社があった。

 小さい頃は誰かが毎年磨いたり、壊れたら補修していた『お地蔵さん』の社。

 目を見開いた。

 お地蔵さん、倒れてる。


『ほーん、ほーーん……』

「ああ、起こして欲しかったのね。……まったく! どこのどいつよ? お地蔵さんを倒すなんて!」


 自然でこの重たいお地蔵さんが倒れる事はないだろう。

 人類に超能力が発現して五十年。

 特に幼い子どもは発現した超能力をなにかで試したくなる。

 きっと発現したての近所のガキね。


「ほっ」


 幸いに、私も優秀な超能力が発現した。

 でも、だからこそこの力が忌まわしい。

 この力のせいで、私は——……。


『…………』

「さ、元に戻してあげたわよ。社を直したのはおまけ! また倒されたら言いなさい。何度でも直してあげるわ! でも次からお金取るわよ」


 私の超能力は『巻き戻し』と『念力』と『催眠』と『瞬間移動』と『読心』。

 そう、五つもあるのだ。

 幹部の男連中にはこの内の三つ。

 一番王道な『念力』『瞬間移動』『読心』しか教えていない。

 残りの二つは私の隠し球なのだ。

 さて、それはそうとして、恐らくこのお地蔵さんの『声』が聞こえたのは『読心』の能力によるものだろう。

 ちらりと見下ろすが、なんと感謝の言葉もない。

 私を呼ぶぐらいだからしっかり心があるのかと思ったけど、そうでもないのだろうか?


「……じゃあ、おやすみ」


 頭を撫でて、自宅に帰ろうとした時だ。

 お地蔵さんに触れたところから、強烈な『なにか』が流れ込む。

 それは私と志を同じくした幹部、同志たちが、五人組の奇怪な連中に倒されていく様子。

 そして、その中のピンク色のスーツを着た女に私の部下たちが骨抜きにされる『シナリオ』!


 なんなの、これは?




『エスパーガール』!

 それは20XX年、アクションありの女性向け恋愛スマホノベルゲームとしてリリースされた!

 ヒロインは五人組の『超能力戦隊、エスパーファイブ!』の紅一点、エスパーガールとして悪の超能力集団『アヴィゲイル』と戦う!

 ちなみに!

 記述した通り女性向けの恋愛ゲームであるので!

 敵である『アヴィゲイル』の主要幹部メンバー四人もまた攻略対象である!

 そして!

 その『アヴィゲイル』を率いる女王こそ!



 …………このわたし、黒蝶ユリアである。




「………………………………」

『………………』


 その場に座り込む。

 今のは、なに?

 お地蔵さんを見上げると、表情がどことなく苦々しいように見えた。

 相変わらずの無表情のはずなのに。


「まさか……貴方にも超能力が?」

『…………』

「……そう……そうだよね……心があれば……超能力は芽生える。……今のがお礼って事? ……そう…………私、負けて死ぬのね…………」

『…………』


 今のがなんなのかよくは分からない。

 ただ、はっきりと……この世界はその乙女ゲームとやらの世界であり、私は悪の組織の女王。

 幹部の男たちの情報も完全に一致。

 解せないのは五人組の奇怪な連中。

 あれのピンクのやつが、うちの幹部の男たちを骨抜きにしていくいくつかの『ルート』。

 もしかして、あれは未来?


「……もしかして、未来透視……?」

『…………』


 お地蔵さんはなんにも言わない。

 でも、お地蔵さんならそのぐらい特殊な能力を持っていても不思議じゃないわよね?

 なるほど……これは少し調べてみるのもありかもしれないわ。


「ありがとう、心配してくれて。じゃあね」


 携帯を取り出す。

 電話したのは幹部の一人。

 そう、さっきピンクに骨抜きにされていたうちの一人である、ジェラド。

 もちろん、これはコードネーム。

 本名はお互い知らない。

 ああ、私のコードネームは『アヴィゲイル』よ。


「もしもし、ジェラド。調べて欲しい事があります」

『なんだよ、こんな夜中に』

「未確認の情報です。政府が私たちの動きを察知して妙な連中を集めているらしいの。その真偽の確認をして欲しいのです。……超能力戦隊、エスパーファイブとか言ってたかしら?」

『…………なんだその時代遅れなネーミング……』

「私もそう思います。そんな奴らに私たちの計画を邪魔されるわけにはいきません。調べて可能なら叩き潰してください」

『……了解』


 通話を切る。

 夜風が私の黒髪を撫ぜていく。


「……………………」


 この世界に。

 人類に……超能力が現れ始めて五十年。

 突貫で整備されたグズグズの法。

 毎年数千人規模で、超能力による傷害、強盗殺人、猟奇殺人、無差別殺人が起きている。

 この国だけではない。

 世界中でだ。

 身を守る能力のない者は、強い能力の者に文字通り捻り殺される。


 ……私と両親のように。


 私の両親はとても弱い超能力しか持たない人たちだった。

 ここのような田舎で、慎ましく穏やかに生きて、幸せな出会いから結婚。

 そして私が生まれた。

 なのに、あんなに穏やかで争い事を好まない、優しい両親から……どうして私のような化け物が生まれたのだろう。

 私は両親を早々に捻り殺した。

 いつも血みどろの両親は、私が小学校に上がった年に……バラバラになって死んだのだ。

 そう、私の能力の制御が不安定だったばかりに。


 ——そうして私は政府が管理する施設で育てられた。


 今更ながらに己の能力の恐ろしさに気付いた私は、極力能力を制御し、隠して生きた。

 歳を重ねて能力が安定したと判断された私は十六歳で施設から出され、今はこの郊外で一人暮らし。

 笑ってしまうでしょう。

 こんなご時世に、歳若い小娘を一人暮らしさせるのよ?

 親戚からは恐れられて引き取り手もないし、無理もないけどね。

 そりゃ、政府が生活費を半分以上出してくれているのには感謝してる。

 ここまで育ててくれたのも施設だしね。

 でも、このままではダメなのよ。

 このままでは…………。


「…………ああ、また……風に乗って血の匂いがする……」


 川向こうの都市からは、こうして夜、血の匂いが風に乗ってくるのだ。

 政府の対応は後手後手。

 案の定、次の瞬間爆発が起きた。

 燃え上がるビル。

 星空は黒い煙に覆われる。

 超能力者を制御出来ない国。

 この町だけではない。

 あんな光景は、この国中、世界中で起きている。

 私のような小娘にこの現状をなんとか出来るとは…………正直思えない。

 けれど、やらなければ。

 誰かが『裏側』から『統治』しなければ——!


「…………」


 今は、好きに暴れているがいいわ。

 近く必ず、手始めにこの町を私の支配下に置く。

 その為の準備は進んでいるの。

 歯の奥が震え、拳を強く握り込む。

 大丈夫、やり遂げるわ。

 その『エスパーガール』の『シナリオ』の先に『敗北』と『死』があっても構わない。

 いくら血を浴びる事になったって構わない……!


 私がやるのよ。






 ***




「そう。本当に結成されていたのね」

「はい、まだ小競り合いを収める程度のようですが」


 拠点として使うのは近郊外れの森。

 幹部の一人、ガイアスの作り出す方向感覚を狂わせる霧で隠す。

 そこに集まる私と幹部たち。

 黒い軍服のような衣装と、それぞれの個性に合わせた仮面を着けて、私たちは対峙する。

 天井ガラスより月の光が落ちる玉座に座り、ジェラドの報告をため息交じりに受けた。

 どうやら『シナリオ』はこれから始まるみたいね。

 まあいいわ。


「そいつらが有効と分かれば、政府は増強していくでしょうね。分かりました、不安の芽は早々に潰さねばなりません。わたくしが直接出向きましょう」

「え、ク、クイーン自ら⁉︎」


 驚いた声をあげたのは金髪癖毛の幹部、ルーカス。

 他の三人も動揺した様子だ。

 玉座から立ち上がり、四人を見下ろす。


「地盤固めの邪魔立てをされたら厄介です。私たちは、計画を必ずやり遂げなければなりません。傷付けたくない人間が、誰も傷付けなくて済む世界を作る為に」

「…………」

「『表』の世界を整えるぐらいならば尽力してもらいましょう。けれど、それで私たちの邪魔をするのであれば話は別。その辺りの区別は付けてもらわなければ」

「なるほど。確かにそうですね」


 笑みを浮かべたのは黒髪のアイレス。

 彼はとても私に従順。

 腹の中はどうだか分からないけれど。


「しかし、それならばわざわざ敵対を表面化させる必要はないんじゃないのか?」


 口答えするのは緑髪のジェラド。

 まあそうね、貴方の意見はいつも的確だと思う。

 索敵と情報収集能力にも、いつもお世話になっているし。


「誘導が可能だと思いますか?」


 なのでジェラドに問う。

 すると真剣な眼差しで頷かれた。

 ……多分、四人の中では彼が一番……まともね。


「俺が連中を計画の邪魔にならないよう、情報で撹乱する。あんたがわざわざ出向く必要はない」

「クイーンのご意向を蔑ろにするつもりか?」


 ジェラドに噛み付いたのはアイレス。

 睨み合いが始まってしまう。

 他の二人は顔を見合わせ、どちらに付くか検討中、かな?


「クイーンは俺たちの切り札だ。おいそれと外へ出させるわけにはいかない。頭を安売りする組織が闇の世界で生き残れるわけねーだろう。頭っつーのは必要な時に働くもんだ。政府が出してきた妙な連中にわざわざツラ見せする必要がどこにある」

「……そうですね、僕もその意見には賛成です」


 ルーカスはジェラド側に付いたみたいだ。

 この子も私へ従順なところがある。

 期待を寄せてくれるのは嬉しい。


「……クイーン、俺もジェラドの考えに賛成だ。頭ってのはドンと構えてるもんだ。その奇怪な連中がそれほどの脅威ではないのなら、あんたはまだ動くべきじゃないだろう」

「…………」


 黙っていたガイアスもジェラド派。

 彼は一番大柄で慎重。

 ふむ、部下の意見を無下にするのはダメよね。

 とはいえ言い出してしまった事を覆すのはボスとしていかがなものかしら?

 という事で、私は立ち上がる。


「いいでしょう。ジェラド、そこまで言うなら私の目の前で連中を倒して見せてください」

「!」

「! お待ちください、クイーン! なぜそこまでその奇怪な連中を気にかけられるのですが!」


 前に出るルーカス。

 その意見は尤もね。

 でも、私は見てしまった。

 貴方たち四人が、ピンク色のスーツを着た『ヒロイン』に骨抜きにされて奴らをここまで連れてくるのを。

 それは個別の『ルート』であったり、『ハーレムルート』とやらであったり。

 この玉座の間で、私は私を裏切った貴方たちと奇怪な連中に追い詰められて死ぬ。

 目を閉じればその光景がありありと蘇る。

 ……でも不思議ね、全然悲しくないの。

 貴方たちを信用していないからなのか、それが自分の運命として……とても相応しいと感じるからなのか……それは分からないけれど。


「見ておきたいのです。政府の希望を」

「希望?」

「ガイアス、貴方も来る?」

「…………お伴しましょう」

「ふふ、じゃあみんなで見に行きましょうか。……エスパーファイブとやらを」


 私は黒蝶ユリア。

 悪の組織『アヴィゲイル』の女王。

 この町を、国を、世界を、いつか手に入れる。

 裏側からこの世界を支配する者になるの。

 この町で躓いて倒されるのならその程度。

 ええ……『シナリオ』が現実のものとなるのなら私はその程度の女。

 でも、それで良いと思っている自分もいた。


 町で暴れる能力者。

 それを止める五人組。

 ジェラドが彼らと戦い始め、赤いスーツの男が仲間を守る為に炎を発する。



「………………………………」



 炎を、発する能力。

 ————……カズマ君……。


 政府の施設で育った私。

 彼もまた、両親をその炎で殺してしまった超能力者。

 うん、あの赤い炎は間違いないわ。

 そう、貴方は政府の犬に成り下がったのね。

 政府の味方になって、正義の味方ごっこを続けるのね?

 なにもしてくれない世界に、まだ希望を抱くのね?

 小さな正義を叫ぶ彼がなんとも滑稽だ。

 いや、一周回って愛おしさすら感じる。

 でもその横にはピンクのスーツの女。

 ああ、あれが私を殺す『ヒロイン』ね。


「ふふ」

「クイーン?」

「ええ、もういいです。満足しました。帰りましょう」


 明日も学校あるし。

 それは言わないけどね。







 ***




 さて、昨日はとても有意義だったわ。

 気分良く歩いていると、私に付いてくる女生徒たちがなぜかため息をつく。


 国立帝東学園。

 私の通う、国が運営する超能力者育成機関。

 この学園ではのちに政府が『職員』として雇いたいレベルの超能力者を『安全に管理』する為の教育が行われている。

 私を施設から追い出し、一人暮らしをさせておきながら……政府はこんな風に私を『安全に管理』する為に無料で学園に通わせる提案をしてきた。

 まだ未成年の私に、選択肢は少ない。

 それに、この提案を突っぱねたところで学ぶ機会が失われるだけ。

 政府は私の能力を『ランクD』以下、と誤認しているだろう。

 実際通知表には超能力の欄だけ『D』となっていた。

 長い髪を手で梳く。

 あまり成績がいいと、別なところで採用になってしまうかもしれないのよね。

 だから、次のテストもほどほどに手を抜かないと……。


「はぁぁぁん……! ユリアお姉様が今日もお美しい〜っ!」

「ユリアお姉様! おはようございます!」

「ユリアお姉様、おはようございます!」

「……おはよう、皆さま。今日もよいお天気ですわね」

「「「きゃぁぁあああぁ!」」」


 ……女生徒たちは暇なのだろうか?

 彼女らのお遊びは私には理解に苦しむ。

 お姉様、だなんて……漫画やアニメの世界だけにしておけばいいのにね。


「おはようございます、副会長」

「おはよう、橘君。会長はもう生徒会室かしら?」

「はい」


 女生徒の垣根を乗り越えて近づいてきたのは一年生生徒会役員の橘春香君。

 金髪の癖っ毛。

 声も同じ。

 ……ルーカス、だろうなぁ、と思っている。

 きっとこの子も私を『アヴィゲイル』だと思ってるんだろうな。

 女生徒たちに挨拶をして、彼を伴い生徒会室へ行く。

 生徒会長の椅子で仕事をこなす黒髪赤目の男。

 三年生徒会長、永津(ながつ)龍(りょう)。

 ……絶対アイレス、だろうなぁ……と、思っている。


「おはようございます、会長」

「おはようございます、黒蝶さん」


 そしてその横でファイルを整理する大柄な男。

 三年生生徒会役員、左道(さどう)澪(みお)。

 絶対ガイアスだよなぁ……と、思っている。


「おはようございます、左道先輩」

「ああ」


 彼は私に気づいているのかしらね?

 ガイアス……いや、左道先輩は無口だから分からない。


「あーもー! なんで資料室の掃除を今やんなきゃなんねーんだよ!」


 バン、と乱暴に隣の資料室から出てきたのは須田(すだ)萊男(らいお)君。

 緑の髪をガシガシと掻き、文句を言っている。

 …………絶対ジェラドよねぇ。


「ん、ああ、黒蝶と橘も来たのか。お前らからも言ってくれよ! 会長が急に資料室の掃除しろとか言い出してさ」

「本当はこまめにした方がいいんですけどね。……どうしてですか、会長」


 と、永津会長に問い合わせてみる。

 仕事の手を止めると、微笑まれた。


「転校生が来るんだそうだ。それで、しばらく生徒会で面倒を見て欲しい、と言われてね」

「まあ、今の時期にですか?」

「それも五人も」

「五人も?」


 わざと頰に手を当て、笑ってみせる。

 ああ……『シナリオ』ね。


「ちょうど人手不足だったし、構わないだろう?」

「わたくしは構いませんわ。まあ、楽しみ。どんな方々が来られるのかしら」

「えぇ、僕は嫌だな〜。知らない人が増えるなんて……」

「仕事が減るならそれに越した事はないだろう」

「俺は面倒なんざ見ないからな」


 どうやら『ゲーム』が始まるらしい。

 昼は学園で普通の女生徒。

 夜は『エスパーガール』として、悪の組織と戦う『ヒロイン』。

 彼女を中心とした『乙女ゲーム』。

 ふふふ……学園でも、夜の世界でも……私と『あなた』は徹底的に敵対する運命。


「……黒蝶さん、なんだか楽しそうですね」

「ええ、だってとても楽しみですもの」


 生っちょろい『乙女ゲームのシナリオ』に私が負ける。

 それならそれでも構わない。

 私は黒蝶ユリア。

 私が負けるのなら、それでもいい。

 その代わり…………



 私を踏み越えていく程度には


 当然


 この町を、国を、世界を



 良くしてくれるのでしょう?



 ヒロインさん?




「ふふふふふふふふふ! 楽しみね、どんな方が来るのかしら! きっととっても、たのしませてくれるのでしょうね! ふふふふふ、ふふふふふふふふふふふふふ!」

















 私の狂気を飲み干して。

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[良い点] 悪の女リーダーが高飛車な女生徒なところ。 主人公に負けフラグを立てたところ。 [気になる点] 超能力設定があるのに生かしきれてないとこ。 不遇な境遇に置かれて、悪のリーダーになっ…
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