闘技序曲 求むる魔具の障害に、戦の狼煙が今あがる
一夜明け、翌日。授業は2時間目からだったにも関わらず、寝坊しました……!
出席を取らない授業でセーフと思いつつ、昼休みにもひと眠りして何とか睡眠時間を確保。
午後一の授業も乗り切り、何とか大学終了。
夕方には、懲りずにブレイブクレストにインした。
昨日は、夜の作業後に急いでギルド作成したからなぁ。
改めて、設定内容とか確認しておこう。
ギルド『宴会屋』
作ったばかりだからレベルは1、加入可能な上限は今のところ20人。イベントスタッフに参加してくれてる人たちと、フレから希望者を募ればちょうどいいだろう。
ギルドの拠点は未設定。レンタルスペースを拠点に設定することもできるが、クエをクリアしたら解散するつもりなので別にこれでいい。
イベント用にレンタルした空き地は、ギルドではなくぼく個人の契約なので問題ない。あ、でもギルドメンバーにも入場制限を与えるように設定しておこう。
メンバーに入場制限を与えたが、今のところギルドに所属するのはぼくだけ。
でもユニーククエストはちゃんとギルドで受けてあるので、あとは週末の開催日程の決定とお誘いを済ませれば問題ない。
うん、だいたいこれで大丈夫かな。
それじゃぁ今日もぼちぼち活動を始めるとしましょう。
低ランクの農作物の栽培を回して、収穫したものを素材箱へ。
手では農業をしながらも、頭の方はメールやギルド関連に動かす。
まずは、説明が不要なはるまきさんとみかんさんにギルドへの招待メールを送信。
今インしてるフレをざっと確認し……お、絢鶴さんが居るな。
こちらもメールでお誘いしつつ、浴衣の製作状況も伺う。
週末、完遂、見込? ありがたい、じゃあ来週は浴衣以外の事も手伝ってもらえそうですね。
だいぶ製作関連の準備は順調だ。
そろそろ、製作よりも屋台の出展者とステージの演目の方に集中しないとなぁ。
それと、花火か。どうしたもんか……
そんなことを考えていると、一瞬はるまきさんがログインして、ギルドに参加だけしてログアウトした。
そんなに慌てたり急ぐことないだろうに……でもまぁ、ありがとうございます。
2名になったギルドのメンバーリストを見ながら、ふとこれが、またゼロになったり消滅したりすることを考えて重い息を吐き出した。
うん、しっかりしよう。ユニーククエのための期間限定だし、みんなで楽しむために作ると決めたんだからな。
しばらく作業して、夕方の活動を終えて一旦ログアウトする。
入浴を済ませ、適当に肉と野菜を炒めて夕食。
掲示板を確認してちらほら書き込み、準備をしてから再びフリークブルグの空き地へインすると、そこにはみかんさんが待っていた。
「ライナさん、こんばんはです!」
「こんばんはでございますよ。
昨夜は遅くまでお疲れ様でした。朝、起きれましたか?」
「お母さんに起こされて、ちょっと朝から慌てちゃいました」
えへへとばかりにはにかむみかんさんが可愛くて、思わず頭を撫でる。
「わぅ、ど、どうしたんですか?」
撫でられて、ちょっと恥ずかしそうな上目遣いで聞いてくるみかんさん。可愛らしいなぁ。
嫌そうではないので、とりあえず手が離せません。
「このさらさらの手触り、癖になりそうでございます」
「そうなんですか?」
「そうなんですよ」
アニマルセラピーとか、こんな感じなのかなぁ。癒される。
「……なんだか、また失礼なこと考えてそうな顔してます!」
「やはりエスパーか!?」
大げさに驚いて笑いながら、やっぱり頭を撫でる。
「困ったことがあったら、きちんと相談してくださいね。
例えば、突然頭を撫でられてキモいとか」
「キモくないです、嬉しいです!」
「あ……う、うん、それなら良かった」
いや、その。
まっすぐな眼差しで嬉しいとか言われてしまうと、結構照れるんですよ?
思わず手を止めて引っこめると、ちょっと寂しそうな顔をするみかんさん。
「あの……」
「な、何でしょうか?」
少しぼくを見つめて言葉を探した後。
名案だ!とばかりに頭上に電球を光らせ、みかんさんは輝かしい笑顔で言った。
「ら、ライナさんが勝手に頭を撫でるのをやめるから、髪がぐしゃぐしゃになって困ってます、困ってるんです!
髪を整えるの、手伝って下さい!」
「なん……だと……
よもや、相談をそのような使い方してくるとは。この子天才か!」
「こっ、子供じゃないです! 高校生だから、その、立派に……だ、大学の人と一緒に、健康の授業だってできます!」
あー、そうだな。めったに見ないけれど、規則上は高校生が大学の健康の授業に参加することもできるんだよな。
そういう意味では子供ではないのか。
健康の授業。
みかんさんとグループ活動をして、その後も―――
いやいや、いかんいかん。何を考えてるんだ。
「それはさておき、髪は梳かしますね。櫛とかございます?」
「さておかないで下さい、もう……
櫛なら、一応ありますけど」
みかんさんから手渡された、量産品の安っぽいブラシと櫛。
それを受け取り、みかんさんを座らせて短い髪を丁寧に梳る。
「ふわぁ……気持ちいいです。ライナさん、上手です!」
「それは良かった。
ぼくは髪が長くないから、自分では櫛を使う機会なんて全くないんですよね」
「そうなんですか?
……じゃあ、やっぱり、彼女……さんの髪を、とか……?」
「ははは。いませぬよ」
伺うようなみかんさんの声に、苦笑を返す。
生まれてこのかた、リアルで彼女が居たことはない。
ただし、ゲーム内でカップリングや結婚的なことをしたことならある。ちづるの策略にはまった時とか。
「さぁお嬢様、こんな感じでいかがでしょうか?」
「はい、ばっちりです! とても嬉しいです!」
さらさらの髪を揺らして振り向いた満面の笑みに、言葉に詰まって無言で櫛とブラシを押し付ける。
……不覚にも、どきっとしてしまった。思わず言葉が出なくなるほどに。
一瞬目を閉じ、息を吐いて心を整える。
うん、大丈夫。久しぶりだからちょっとテンション上がってただけで、何も問題ない。
「それでは、まだ二人ですが活動を開始しましょう。
七夕の準備に、明日の闘技大会のための肩慣らし。今日もあれこれ、お付き合い下さいね」
「はいっ。
今まで遅れた分、今日からしっかり頑張りますから───」
そこで言葉を一度切ると、えいっとばかりにこちらの手を強く握り、目を反らしたまま言葉を続ける。
「これからもずっと、どうぞよろしくお願いします!」
「ええ、こちらこそでございます」
そうして送る金曜日は、ユニーククエストに向けてギルド加入の確認をしたり、途中で恋愛ダンジョンに出かけたりしつつ過ぎていき。
迎える、6月30日、土曜日。
七夕まで、残り一週間。
ぼくらの七夕祭りの趨勢を決める闘技大会が、いよいよ開幕する。
そう、祭りの趨勢だ。
ここでの頑張りにより、祭りの盛り上がりは変わるのだから。けして予選落ちなんて情けない真似はできない。
さあ出陣しよう。
自前の装備もレベルも意味を為さない制限戦は、むしろぼくにとって非常に有利な戦場と言える。
静かに、心の中に炎を燻らせて。
ぼくはフリークブルグの闘技場へ、戦いの場へと向かう。
主催者として、祭りのための闘いが、今ここに幕を開けるのだ―――
不安定な日曜日から引きずる問題も、深夜の大捕り物を経てようやく収束。
とうとうちづるさんもフリークブルグに参戦し、第五章はこれにて完了です。
気がかりを乗り越え、少女達の全力の声援を受けて立つ主催者。
だがしかし、立ちはだかるは何れ劣らぬ歴戦の猛者。
果たして主催者は、己が剣を貫き、目指す場所まで至れるのか。
闘技大会、間もなく開幕です!
残る準備もあとわずか。闘技大会を終えれば、いよいよ準備もラストスパート。
星降る夜を目指し、どうぞ今しばしお付き合い下さいませ。
偶然でも手を取り、今この文を読んでいる皆様に深い感謝を。
長らく休みつつも、引き続き見守って下さった方々に感謝を。
細々と、陰ながら。もう少しだけ、頑張っていきたいものでございます。
それではまた、続きは次話、フリークブルグの闘技場にて。
お相手は、岸野 遙でした。
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