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飽きっぽい廃人ゲーマーによる宴会屋式MMO攻略術 ~七夕に交わした姉妹の再会の約束を叶えるとか面白そう~  作者: 岸野 遙
『七夕の約束を叶えるために』 ~害なすものと支える三花~

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遇湧限話 悪意集いて害となし、欲の行きつく鶴の声

          ■ ■ ■ ■ 



 深夜遅く。酒場に集まったのは5人の冒険者。


「5人集まったな。ではユニーク受注の前に神殿契約に行く」

「よろ」

「へっへ」


 神殿にて、前金の受け渡しと共に契約を結ぶ。


「契約内容に、金額が600万。確認を」

「きちんと前金を含めた金額で記載しろや。

 掲示板で提示額を嘘ついてまでぼったくったんだ、そのくらいの契約金額でけちけちすんな」

「ちっ。いいだろう、800万で前金200万だ。ほら」


 全員と取引および契約を終え、今まで見たこともない額の所持金襴を見てほくそ笑む魔術師。


「800万、810万、850万、1000万。契約内容に間違いはないな、よし」

「しめて3460万Fですか。

 クエストをクリアできれば、随分と荒稼ぎになりますわね」

「ふんっ、ぼくの才能なら当然の結果だ。

 なんならぼくの女」

「お断り、ですわ。絶対に」

「ちっ! ふざけやがって。いくぞ」


 向かう先は、大通りから外れた路地裏の、細い入り口から続く無人の空き地。


「この空き地の、土管の下だ」

「路地裏にこんな場所があるんだな」

「土管の下ってことは、どかしゃぁいいんだな?」

「ああそうだ。力仕事は任せるぞ」

「へっへ、あらよっと!」


 軽々とどかした土管の下には、隠し扉を開くための取っ手。

 土管をどかした傭兵風の男は、そのまま取っ手を掴んで扉を引き開けると迷わずその中へ飛び込んだ。


「おっ、おい、何勝手に進んでんだ!」

「へっへー、お先!」


 穴から響く男の声に、慌てて魔術師がはしごを掴んで下りていく。

 そうして後を追った魔術師が床に足をつけて見たものは、はしごから下り立った通路、そのすぐ前にある扉を掴む傭兵の姿だった。



 傭兵の目の前に、傭兵のみに見えるメッセージが映し出される。



『これより先は、ユニーククエストとなります


 ユニーククエストは世界で一度限りのクエストとなり、破棄や再受注、再戦などはできません


 クエストを受注しますか?


クエスト名:ラシャリソーの罠

推奨レベル:30


 [はい] / [いいえ]』



 表示されたメッセージを読む間も惜しみ、文字を突き破る勢いで迷わず[はい]を叩く傭兵。

 そうすると見えていた1ページ目のメッセージが消え、続く2ページ目のメッセージが表示された



『クエストを受注しました

 おめでとうございます』



「うおおおっしゃぁぁ、ユニークゲーット!」

「な、なんっ、ふ、ふざけるな! それはぼくの見つけたユニーククエだ!」

「ああん、知らねぇなぁ。この扉を掴んでクエストを受注したのは俺だ、お前なんか用はねぇよ」


 にやにやと、それはもう楽しくて仕方がないという風に笑う傭兵。

 顔を真っ赤に染めて怒り狂う魔術師が、唾を飛ばす勢いで絶叫する。


「ふざっ、ふざけるなぁぁっ!

 ぼくのクエストを返せ、ふざけるな!」

「へんっ、知るかよ。クエストを受注できるから受注した。俺はそれだけだね」


 ユニーククエストを受注できるのは、最初の一名のみ。

 合流後、まだクエスト受注前であることを明かされた時点で、傭兵は魔術師を出し抜いて自分がクエストを受注することを決めていた。

 例え、目の前の若造をPKすることになってもだ。


「きさま、きさま殺してやる!」

「はん? 30程度の魔術師が俺を殺すだと?

 おもしれぇ、かかってきてみろや。てめぇが魔術を撃った瞬間に、正当防衛で俺がぶち殺してやるよ」


 狭い通路の中で対峙する二人の冒険者の言い争う声。

 後に続いていた三人は、あらかたの事情を理解し、どちらへともなく問う。


「それで、おれはユニーク参加できるんだろうな?」

「あ、あいつを殺してユニークを奪い返す。そうしたら、きちんと参加できる!」

「何言ってんだ、PKしたって何も奪えねぇよ。俺が受注したクエは、俺しかやれねぇんだ。

 そうだな、俺に即金で800万払えば、ユニークに参加させてやるよ」


 明らかに勝者の余裕を見せる傭兵と、どう見ても怒りで沸騰している負け犬の魔術師。

 下りるスペースがないため、はしごに捕まって話していた騎士風の男は一度上を指さした。


「何にせよ、とりあえず上がらないか?

 流石にこの体勢ではトレードも難しい」

「「いいだろう」」


 勝者と負け犬は、正反対の表情ながら、同時にその提案を受け入れ───片や笑み、片や憎々しげに顔を歪めた。



 交渉、というほどのこともない。

 魔術師は、傭兵を殺すために力を貸せとわめくが、もはや誰も聞いていなかった。

 当然である。先ほど傭兵が言った通り、PKで奪えるものなどない。受注されたクエを、外部から他人が破棄させたり奪うことなど不可能なのだ。

 傭兵は他の参加者三人に対し、800万払えば参加を認めると言った。

 ユニーククエストに参加したいだけであれば、主催者が魔術師である必要はない。多少は煮え切らない思いはありつつ、傭兵に支払って参加すれば目的は果たせる。

 だからこそ三人―――いや、傭兵を含めた四人は、契約破棄として魔術師に前金を返せと迫った。


「な、何を言っているんだ、そんなのがまかり通るわけがないだろう!

 ユニーククエストはぼくのもので、あいつが無理やり奪ったんだ。だからあいつから取り戻さなきゃいけなくて、クエストはそれからだ!」

「どうわめいたって、もう無理だろ。受注された時点で、覆しようがないんだから。

 がめつく取り立てた200万、きっちり返せよ」

「そ、そんなの! 神殿契約をしたんだから、もう返せるわけないだろう!」

「ああん?」

「契約費用だけで300万以上かかって、ぼくが払っているんだ。前金を返すわけがないだろう!」

「……なら、契約不履行で借金ということだが、いいんだな?」

「そ、そんなの、ふざけるな、ふざけるな!

 すべてあいつが、あいつがぼくのクエストを奪ったんだから、あいつからクエストを取り返してからだ!

 それまではびた一文返さない、返せるわけがない!」


 実際、今の魔術師の所持金は、4人分の前金から契約費用を引いた分に、多少毛が生えた程度しかない。

 もともとの資産から言って、あのような大規模な取引をできるだけの財産がなかったのだ。

 受け取った前金を使って神殿契約を行った以上、今ここで三人に前金を返せるだけの所持金がなかった。


「経緯は関係ない。

 お前はユニーククエストを提供する、それに対しておれ達は対価を支払う、そういう契約を結んだんだ。

 期日までにユニーククエストを提供できなければ、お前は契約を違反したとして、前金の返却と違約金の支払い義務が発生する」

「かっ、関係ないわけないだろぉっ!」


 真っ赤な顔で叫ぶ魔術師。

 他のプレイヤー達には分からぬことだが、魔術師の見る画面の中では、高ストレスによる警告表示(アラート)が鳴り響いている。

 それほどの負荷の中でどれだけ叫ぼうとも、しかし契約は契約であり、契約でしかない。

 その契約が守るのは、契約書で結んだ内容の順守、ただこの一点のみなのだ。


「へっへ、お前はもうどうわめこうとも、金を返すしかねぇんだよ。

 この契約書がある限り、返金を拒めば自動的に借金で払い戻されるだけだからな。

 ああ、俺は今すぐ返してくれなくてもいいぜぇ? みんなに返金するのに必死だろうし、不履行で違約金の方がもらえる金が多くなるからな」

「なんっ、なっ、……っ、……っ!」

「へはは、いーい顔だなおい。

 怒り過ぎて頭がおかしくなったってか? いや、最初っからおかしかったか。へーははは」


 傭兵の言葉に頭をぐらつかせて俯くと。

 魔術師は、無言で杖を装備した。


「おー、やるってのか?」

「このままで済ませることなんかできるか、できるかぁぁっ!」


 叫びとともに杖を振りかざし───


 しかし、魔術を使うことはできない。

 この場所は、戦闘禁止に設定されているのだから。


 何度も魔術を使おうとし、全く発動せず。

 杖を振るって殴ることもできずに。


 魔術師―――イグニスは、とうとう膝をついた。

 VRシステムの制約により涙を流すこともできず、高ストレスのアラームが鳴り響く中で泣き叫んだ。


「うあああ、ぅああああぁぁああぁ」


 そんな魔術師の姿に、いびるのも終わりかと舌打ちをして傭兵も武器を下ろす。


「なんだ、結局口だけかよ。何もしねぇのか、なっさけねぇ」

「な、こんな、こんなことさえ……ちくしょおぉぉっ、どこまで馬鹿にしてやがるんだ!

 あいつだ、全てあのライなんとかのせいだ! あのくそ野郎のせいで、死ね、死ね死ね死ねぇぇ!」


 荒れ狂う激情を吐き出すこともできずに。

 ただただ口から漏れ出るまま、本来は関係のない他人を、諸悪の根源のように呪う。


 だがこの場でその発言は、間違いなく───引き金であった。




「―――それ以上の暴言、誰が何と言おうと、わたくしが許しませんわ」



 契約神殿を出て以降、一度として口を開いていなかった参加者の一人。

 威風堂々と立つ着物姿の妖艶な美女が、魔術師を見下して口を開く。



「主様の手伝いをせぬどころか、裏切りて害をなし、あまつさえそのような悪口雑言。

 例え主様が許そうと、このちづるが死さえ生ぬるい処罰を与えましょう」


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