勲闘褒価 戦いに得る報奨は、難を解く鍵となるか
「じゃんけん大会をしたいと思います」
今日の分の農作業を終え、一段落したところで。
大工班が山へ木を伐りに行く前、空き地に人が多く居るタイミングで考えてることを切り出した。
「ステージがあれば、あとは景品さえあればやれるっチョ」
「まあ、場つなぎとしては順当である」
イベント参加経験のあるリアル友人ずはその一言で粗方理解するが、他の人達の理解は追いついていない。
なので、改めて―――
「知らないが、農業終わったんだよね?
みかんちゃん、今日こそ牛鬼の洞窟へ稼ぎに行こう」
「あの、稼ぎはその、今はライナズィアさんが話してるますから、お話が終わってからにしましょう」
改めて話そうとしたら、興味のない人の割り込みが。
うん、人の話は黙って聞こうか。
「あー、うん。
作業は順調ですし、お暇のない方やイベントに興味のない方々は聞かなくても大丈夫でございますよ。
これ用に何か準備が必要なものでもございませんので」
比較的、落ち着いた心持ちで。興味のない人には退席許可を出す。
少し残念には思うけど、ゲームそのものの方が楽しいのなら仕方ないだろう。
ぼくみたいな楽しみ方が、異端児だってのはよく理解している。
「いいってさ。それじゃあ行こうか」
「わた、私はその、話が終わるまでは待って下さい」
「……じゃあ、最後まで聞いてから出かけようか」
露骨に不満顔ながらも、みかんさんの要望は聞くらしい。
こちらを向いてみかんさんが小さく頭を下げたので、詳しく説明。
ステージの出し物として、じゃんけん大会をする。
じゃんけんを知らない人は居ないだろうし、手さえあれば誰でも参加可能。
ステージ上から適度にしゃべるだけで、事前の準備もステージ上の出演者も極少数でやれる。お手軽にステージの演目が一つ出来上がりという素敵プラン。
先日調べたところによると、会場を借りてのイベント時は、一部の判別や判定をVRシステムに任せることができるらしい。
つまり、勝ち負けの判定とか、後出しとか、そういった確認を人の目でやる必要がない。
まさに、じゃんけん大会を行うために実装されたかの如き機能!
使わない手はないですね。もちろん、当日事前に動作の確認はしますけど。
ステージ上の進行役とじゃんけんして、勝った人だけを残す。何度か繰り返せば、すぐに勝者は決まるだろう。
観客席には座布団から立ち見まであるので、負けた人の座るスペースが苦しいが……VR判定に頼れば、敗者だって必ずしも座る必要はない。
注意点も、座布団や畳は土足厳禁、ってくらいだろうか。
ああ、進行を妨げるような騒ぎは、遠慮なくご退席いただきます。そういうイベント機能もありました、ブレイブクレストすごい!
「なるほど、概ね分かったわ。
で、ライナ。景品はどうするつもりなの?」
「そこまでは、まだ決定しておりません。
本来であれば、あまり金銭的価値の高いものは好みじゃないのですが……今回は集客力が欲しいので、価値の高いものもありだろうか、と考えてございますよ」
ぼくの主催するイベントは、稼いだり戦うだけじゃなく、普段と違う楽しみ方を感じて欲しくて開催している部分はある。
日頃から、常に稼ぎ続けたい、ひたすら戦ってレベル上げしたい、そういうプレイヤーはイベントのターゲットにしていない。
あくまで、非日常な、物好きな、普段の生活では知ることのないような楽しみ方を広めたいのだ。
だから、景品が豪華な金目の物だから参加する、というお客様はお断りしたいわけなのです。
とは言え、今回のイベントの一番の目的は、ぼくの自己満足ではなくて人探し。
多くの人を集めるために、集客力としては豪華な景品は効果的なわけで。
そこら辺、ぼくがどう判断するかってことなんだよねぇ。
「あ、じゃあさじゃあさ!
ライ兄、これ出てみればいいんじゃない?」
昨日、暫定的に妹の地位を勝ち取ったリーリーさんが取り出したのは、週末に開催される闘技大会のチラシ。
そう言えば、あることは知ってたけど詳細は気にしてなかったなぁ。
何の気なしに、リーリーさんから渡されたチラシを受け取り―――
「これだーっ!」
「きゃうっ」
チラシを掴んで、思わず歓喜の叫び声をあげる。
「何事!?」
「チョっ、らあイカれた!」
チョリソーに天誅……も、後でいいや。
参加の申し込みは───今日まで、いける!
「ちょっと大会の参加申し込みしますので、今日の作業はひとまずこれで中断で。
リーリー様、ナイス情報でございました。愛してる!」
両手を握って感謝を伝え、チラシを返してウインドウを開く。
「あ、あわわ、ライ兄が、ライ兄が、お兄ちゃんじゃなくなっちゃうぅ!?」
「……リー。良かった、わね?
洞窟の時と言い今日と言い、お姉ちゃんは何だかとても納得がいかないわ」
「ひいい、ごめんなさいはる姉!?」
参加受付はゲーム内じゃなく公式サイトって書いてあるから、受付画面あるはずだよな。よし。
「リーちゃん……」
「なんだか知らないが、終わったから行くよ、みかん。
友達も誘う?」
「いえ……一人で行きます」
前ちょっと見ただけだし、改めて出場条件とか大会ルールも詳しく確認しておかないとな。
「まあいいわ。
決勝トーナメントに進めば、初戦負けでも宝石、その後は消耗品にアクセサリーに上等な武器などなど……
優勝賞品は、ギルドの強化アイテム? へえ、収納量とか活動にボーナス効果。他じゃ全く手に入らないようだし、なかなか豪華ね」
「でもぉ、トレード不可って書いてあるからぁ、これじゃ景品にならないですよねぇ?」
今回は装備支給の30制限戦、参加や職業の制限もなし。ほぼ、参加無条件みたいなもんだな。
職もスキルも、30で覚えられる範囲であれば使用制限なしか。
となるとスキル構成は―――
「準優勝、高級ケージ?」
「高級ケージなら、相場で数百万はするっチョ。現状では超レアドロップだし、最高級の景品になるチョ」
「それなら、簡単に多量の客を罠に掛けれ───釣れそうである」
「確かにぃ、これが景品だったら、ちょっと欲しくなっちゃいますよねぇ」
ともあれ、参加申し込みは済ませた。
まずは土曜の予選、勝ち上がれば日曜の決勝。
「でもぉ、ライナ先輩、準優勝……できるかな?」
「できるわ。むしろ、優勝してしまわないか心配ね?」
参加申し込みは済んだので、ウインドウから顔をあげて盛り上がる皆に声を掛ける。
「優勝なんかするわけないじゃないですか。ギルド強化とか、必要ないですし」
ギルド強化アイテムは、あくまで所有者の所属ギルドに効果がある。
ぼくのように、ギルドに所属していないプレイヤーには何の価値もない。
……精々、ギルドへの勧誘が多くなって面倒なくらいか。デメリットしかないですな。
「あら。手に入れたら、ギルドを作る良い切っ掛けになるわよ?」
「……それについては、後ろ向きに考えさせていただきます」
ギルドであることが問題じゃない。そう分かってはいるんだけどね。
どうしてもあの時を思い出してしまうので、心理的にはギルドに対して抵抗がある。
確かに、強力なギルド強化アイテムとか手に入れたら、ギルドを立ち上げる切っ掛けになるんだけどさぁ。
「そもそも、いずれ劣らぬ猛者だらけですからね。流石に優勝は厳しいんじゃないでしょうか」
「世間一般の廃人と比べて、ライナには戦いへの貪欲さが不足しがちなのは確かね」
「ええ。ひたすらレベル上げとか周回作業とか、大嫌いですから」
単調な作業は眠たくなるし、飽きるよね。
誰かと話すついでにとか、友人の手伝いなら平気なんだけど。
「さて、出場すると決めたわけですし、予選落ちではちと困る。少し鍛錬を積んで参りますよ。
今日の全体活動は終わりにしますが、大工班は作業を進めておいて下さるとありがたいです」
「人使い荒いチョ」
「チョ使いなら荒い自覚はある。えっへん」
「我の扱いも酷いのである」
「よろしく、頼りにしてるぜ!
あ、ぼく以外にも大会参加したい人が居れば、それもそれでご自由にどうぞですよ。
どうせ大会で試合のある時間は、ぼくが参加してるから全体的な活動はございませんので」
「興味ないわ。
自分が出るより、最前列でライナの応援をしている方が有意義ね」
「お弁当持ってライ兄の応援に行きましょー!
……みっちゃん、また出かけちゃってるのか」
明るい声をあげたリーリーさんだが、周囲を見回してみかんさんが居ないのを見ると、ちょっとテンションを下げた。
参加申し込みの数分で出かけたらしく、みかんさん達は居ない。
昨日は久しぶりに一緒に活動できたのに、今日はすでに出かけていてちょっと残念。
でも、今日の準備活動は一段落してるし、あとは自由時間だ。出かけたいなら、引き留めることもできないか。
「そろそろ、真剣に向き合ってもらわないとね」
「はるまき様?」
「こっちの話よ。
勘を取り戻すということは、今日はどこかに出かけるのかしら」
「ちょっとソロで、対人勘を鍛えてきますよ」
「わかっ―――まさか、ライナは恋愛ダンジョンに行こうとしているのかしら?」
『恋愛の精霊ファーシアのドキドキ☆恋ダンジョン』
カップルが互いの仲を深め合うことを目的としているはずなのに、なぜか地獄でひたすら骸骨軍団と戦闘をし続けるという武闘派ダンジョンである。
個人で戦闘勘を養うには、とても近くて良い修行場です。
良い修行場なんだけど───
「だとしたら、一人では行かせないわ。
でないとまた、新しい女とマッチングできゃっきゃうふふしてそうなんですもの」
「はるまき様、それ言い方酷くない!?」
「酷くないわ。事実」
ジト目のはるまきさんに、言い返すこともできずとりあえず目を反らした。
そんな緊張感漂う空き地に―――
「キタキツネさん、美人でした」
「!?」
今までほとんどしゃべってなかったクルスさんが、一斗缶で油を注ぎこんだ!?
「へえ……クルスさん、詳しく」
「はい。
昨日は光る花の種を採取するために呼ばれたのですが、スタッフが4人しか居ないということで───」
淡々と、感情の乗らない声で昨日の様子を告げるクルスさん。いや、どことなく楽しそうか?
それを興味深そうに聞く、はるまきさんを筆頭にした、主に女性陣。
一度こっそりと逃げ出そうとしたら、はるまきさんにアースコネクトで捕獲されて動くに動けない。
時折ラシャが余計な補足をするのをハラハラしつつ見守っていると―――聞きなれたメール着信音が響いた。
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From:チョリソー
やあやあ、素晴らしい
酒とツマミ買ってくるチョ
らあの分も買ってきてやろうか?
お仕置き直行コースで、空き地から逃げ出せないだろうから
プークスクス
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て、てんめぇぇぇっ!
すぐそばでにやにやしているチョリソーに、昨日食堂で撮った『チョリソーのだらしない夕方の部』の証拠写真を送り付けつつ(慌てふためいて青い顔になった。ざまあ)
ぼくは恋破れ紋十郎の動きを思い出して、イメージトレーニングに現実逃避するのでした。
その後?
予定通り、恋愛ダンジョン行きましたよ。
なぜか、空き地に居た女性陣全員と順番に……!
目的はぼくの修行だったので、一人一周とは限らず何周もしたけど、流石に推奨レベル50オーバー。30制限&NPC売りの装備では、地獄めぐりのクリアは一度も出来ませんでした。
ボスまで行けたのも、クルスさんとペアを組んだ時にまぐれで一回だけという体たらく(出現したのは恋破れ紋十郎ではなく通常ボスだった)
でもおかげで、NPC武器での腕ならしとステータス差に押されない戦いの練習ができたので成果は上々といったところでしょう。
それはそれとして。
50レベルとは言え、筋力や体力が高くない巫術師のステータスでこいつらを殴り壊してたんだから、やっぱりキタキツネさんはかなり強かったんだな。
もしも闘技大会でぶつかったら、結構苦戦しそうだ。
……フラグじゃないですよ?
VRシステムさん。気を遣っていただかないで大丈夫でございますからね?




