祭りの夜へと集まる、準備初日の告知スターティング
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7月7日、ブレイブクレスト初の七夕祭り 開催☆彡
かつて現世の夜空を彩った星空は、厚い雲に覆われて今は遥か遠く。
されど今この時、このブレイブクレストの空と地に瞬く星々が新たな天の川となりて逢瀬を願う人々を祝福する。
さあ、皆で一緒に空を見上げてみよう。
小さな頃の思い出を、再会したい誰かを、在りし日の願いを胸に―――
7月7日(土)夜、フリークブルグの城前イベントスペースにて、七夕祭りを開催します!
短冊に願いを託し、夜空に掲げて皆で盛り上がりませんか?
当日は天の川に観覧席を設け、屋台とイベントステージを設置して七夕らしい夜をお届けします。
当日のイベントスケジュールや出展する屋台など、詳細は追ってこちらに追記します。
知人友人連れ立って、皆様奮ってお越し下さい☆
ユーザーイベント開催のため、協力して下さる方も大募集です。
・ お祭り騒ぎが大好きな方
・ フレや友達を作りたい方
・ イベント会場で屋台を出したい方
・ 歌や演奏等、発表の場が欲しい方
・ 普段と違う楽しみ方をしてみたい方
・ 七夕に思い入れがある方
イベント当日のスタッフでも、事前準備のアイテム集めなどでも、やる事はすごくいっぱいあります!
ほんの少しでもお力を貸していただけると幸いです。質問などもお気軽にご連絡ください。
いまだ果たせぬいつかの約束を。
いまだ叶わぬ誰かとの再会を。
皆で一緒に星空を望み、願いを世界に届けましょう―――
企画・主催 『宴会屋』ライナズィア
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みかんさんに見せたものから少し文章を付け足した、公式に登録したユーザーイベント告知。
画面に表示された文面を見て、大きく息を吐く。
「―――さあ、これで後戻りできなくなったぞ」
公式に投稿した以上、今この瞬間にも、不特定多数の誰かに見られている可能性がある。
緊張と興奮、武者震いとも恐怖ともつかず心が震える。
いつもこの瞬間は、怯えと昂ぶりがせめぎ合い、とにかく落ち着かない。
大きな深呼吸とともに、胃か頭か胸の内か、ぐるぐると回る何かを吐き出す。
大丈夫だ、やれる。
この世界で、ぼくなりのやり方で、どこまでいけるか。
「一つ、全力で駆け抜けてみようじゃないか!」
リアルメールの返信は、まだ三人中一人だけ。ラシャからの合流指定の返事もない。
でも送ったばかりだし心配はしていない、三人ともそのうち何らかの返事をくれるだろう。
どちらかと言うと、ブレイブクレスト内でどれだけ戦力を集められるかが問題だ。
メール文案も作ったし、ちょっと早いけどそろそろフリークブルグに戻るとするか。
レンタルした拠点、路地に面していない空き地にログイン。
フレンドリストを確認したところ、みかんさんはまだログアウト中。まあ想定通りだし、やることはいっぱいだからいい。
まず最優先に動き出すべきなのは、人集め。フレンド登録している人達へ、イベント案内だったり協力要請だったりのメールの送信だ。
協力してくれそうな期待値に従い、何パターンかの文面を作成する。
詳細の説明が不要とか、必ず協力してくれそうな人には簡潔にお願いする。ぶっちゃけ個人用にメールを書く。
面白い事が好きな人には、細かい事は書かず、好奇心を突く。
あんまり当てにならないだろうなーという期待値低めな人には、イベント案内を押し出し、協力要請は控えめに。
よく分からない人も、期待値低め組でいいだろう。
商売関係の人には、屋台を募集していることにも軽く触れておく。
本文は同じでも、一言や一文くらい、相手によって変えた序文や締めの文を添えて次々にメールを送り出していく。
フレンド総数、三十一名。
そのうち十名くらいは、もう一ヶ月以上ログイン状態になっていない『死に名刺』である。
引退とは言いたくないが、人が遊ぶ以上いつかは終わりがくるのは常。
そんな人達に対しても、期待値低め組の文面を中心にメールを出す。もしかしたら、戻ってくるかもしれないと願いを込めて。
七夕は、逢瀬の奇跡でございますからな。
で、例えば期待値低めの人達に送ったメールの一例がこんな感じ。
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To:リーリー
~ 7月7日、七夕祭りを開催します☆ ~
来る七夕の夜に、ユーザーイベントとして七夕祭りを開催します。
当日は短冊に願いを書いて夜空に掲げ、天の川に観覧席を設けてステージであれこれやる予定です。
屋台や花火も計画中、フレンドお誘いあわせの上、お急ぎでなければ是非見物に起こし下さい♪
公式のイベント告知にも宣伝を出してますので、追加情報や友人への案内にどうぞ。
イベントに向け、協力していただける方も大募集です。
当日のみならず準備などもやることはたくさんあるため、暇とか多少なりとご協力いただければ泣いて喜びます。
お気軽にご連絡下さい☆
追伸。
一昨日は遅くまで、カニ退治お疲れ様でした。
ベルンシア地方では次のランクアップも可能になりますし、手伝いでもお誘いでも雑談でも、何かあれば気軽に声をかけて下さいね。
七夕が終われば、また暇になるはずでございます。はず……
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リーリーさんの場合は一昨日ご一緒したばかりなので、追伸は少し長めになったけど。前半は他の人と共通で、こんな感じの案内メールをばらまきます。
総数三十一名、死に名刺も含めて全員に、次々にメールを送信。
ちなみにフレンド宛てのメールは、無料の場合到着まで3分ほど掛かる仕様。即座に到着する速達便は一回1000Fになります。ちょっとお高め。
リアルマネーで課金をすれば送受信する全てのメールが一ヶ月間速達になるけど、さすがにそれで課金するのもなぁ。
……いや、イベントのことを考えればここは課金もやむなしか?
遠距離とか別行動の相手とはメールでしかやりとりできないし、いちいちログアウトするのも面倒だ。全員とリアルのメールアドレスを交換するのも良くないしね。
よし、課金しちゃおう。リアルマネーで解決だ!
はい、課金手続きが完了しました。
ログイン時に本人確認は済んでいるので、実際はボタン一つと確認画面一つで終了。
電子の硬貨に羽根が生えて、軽やかに飛んでいきましたとさ。
速達課金はしたが、すでに送信済みのメールが到着するのは送信から3分後のはず。
どうせ些細な時間だし、他の作業の確認―――お。
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From:はるまき
分かったわ、任せなさい。リアルが忙しいとき以外は、優先して時間を取るわ。
今はフリークブルグかしら? 駆けつけるから場所を指定して。
今夜はリー達二人もログインする予定だから、時間があればカニ鍋をしたかったのだけれど。
ちょっと難しそうね。
ハルマキは、いつだってライナのそばにいるわ。
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「さすが」
小さく賞賛の言葉を呟きながら返事を書く。
感謝の言葉と待ち合わせ場所、ついでにメールの速達課金した旨を記載。
書きあがったメールを送信し―――すぐさま別のメールを受信する。
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From:ひげせんにん
ライナの坊主、面白いことやるようじゃなぁ。
来週になれば時間ができる予定じゃて、もう少し詳しい話を聞かせておくれ。
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From:わきざしまる
りょうかーい。
ライナ先輩が何かするなら、及ばずながら力になるよー。
屋台でも、販売抜きでスタッフでもやるから、今度詳しい話を聞かせてね。
初心者さんへのホットドッグの営業もありがとでーす。
とびきり安くするから、またいつでも買いに来てねー。
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「ひげさんと、わきさんもある程度協力見込みっと。ありがたい」
商人の二人からの返事に感謝しつつ返信。
さらに、通知機能をオンにしているので、リアルのメールの着信通知がきたから一度ログアウトする。
ログアウトしリアルに意識が戻ってきたが、メールの送受信もVRシステムで実行可能。
ゲームの姿勢としてベッドに寝転がったまま、届いたメールを開いた。
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[差出人]
ちづる
[件名]
お慕い申しております
[本文]
拝啓、愛おしい主様。
気候変わらぬ初夏の折、いかがお過ごしでございましょうか。
ちづるは日夜、主様にまたお会いできる日を夢見て、この世界で生きておりますわ。
さて、此度の主様のメール、拝見させていただきました。
ブレイブクレストの世界で、主様が為す武力に依らぬ覇業の手伝いをせよとのお申し付け、ありがたく頂戴致しました。
わたくし、一日千秋の想いで主様からお声が掛かるのを待ち侘びておりましたの。
引き裂かれた愛し合うものが再会する七夕―――嗚呼、なんとわたくし達の在り方にぴったりなのでしょう。
ですがちづるは主様に一秒でも早くお会いしとうございます。
主様がお望み下されば、いつ何時であれ、万難排し雲を払い天地を駆けて馳せ参じますわ。
ですから、いつでもお呼び下さいまし。今この瞬間、現実世界であろうとも。
今度こそ、誰よりも主様の役に立ち、お傍に立つことをお許しいただいてみせますわ。
主様へのお返事が遅くなったこと、このちづる今世紀最大の失態。深くお詫び申し上げます。
お恥ずかしい事に、主様からメールをいただいた事が嬉しくて、気をやっておりましたの。
もう少しで、主様にお声を聞かれてしまうところでしたわ。
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VRシステムを外して大きく深呼吸。それから近隣住民の皆さんに迷惑にならない範囲で、叫びとともに想いを吐き出す。
「ちっくしょう、ヤンデレ度が上がってやがったー!」
まず件名からしておかしい。全く関係ない。
詳細を書いてないのに、正確にこちらの要求を読み取ってることがおかしい。キャッチコピーを書いたのでブレイブクレストは通じると思ってたが、なぜ『武力に依らぬ覇業の手伝い』とか『七夕』とか分かるのか。
何よりも、最後の……いや、もう考えるのはやめよう。
ちづるは協力OK。
OKなんだが、とんでもなくヤンデレ進化していて、もうすでにメールしたことをやんわりと後悔している、帰りたい。
―――と、小さな電子音が響き、別のメールを受信。
帰りたい気持ちがいっぱいで、ちづるメールを棚上げするため、VRシステムを装着して新着メールを開いた。
差出人は『ちづる』……うえぇ。またかよ。
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[差出人]
ちづる
[件名]
愛ゆえですわ
[本文]
帰りたいなどとつれない事をおっしゃらないで下さいまし。
わたくしの全てを捧げて、絶対後悔などさせませんわ。
お疑いでしたら、試しにちづるをお呼び下さいませ。
主様の疑念を全て消し飛ばし、わたくしの有用性を骨身に沁みさせて差し上げますわ。
うふふ……一秒でも早く、今すぐにもお会いしとうございます。
わたくしはブレイブクレストの世界で何日でもお待ち致しておりますので、主様に心の準備とお時間ができましたらお声掛け下さいまし。
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「メールを受信してから読み終わるまでのペースや、独り言というか声に出してない感想まで何もかも読まれてる、もうやだぁ……」
ほんともう、こいつ何なの。
何もかもスペックが高すぎて、やっぱり帰りたい。
……でも、なぁ。
確かにぼくの方に、やや苦手意識的なものはあるんだけど。怖い程の美人過ぎて見てるだけでおかしくなりそうなんだけど。
一応知人と言うよりはやや辛うじてほんの少し友人寄りだし、ちづる自身は何も悪いことはしていないんだよなぁ。
もちろん(?)ゲーム内ではかつて敵対したが、それはあくまでゲーム内での話。
システムとルールに則り、互いの価値観と意志に従ってぶつかり、決着した。そこに遺恨や不満はない、むしろ良い思い出の一つだと思っている。
千羽鶴と名乗っていた当時のちづるは、勝敗が決した後にこそ本領発揮し、表面上は敗北を素直に認めて驚くほど従順になり、本人が作り上げた巨大組織を速やかに解体、条件付きながら人類側の傘下に下って世界全体のゲームクリアに多大なる貢献を果たすと共に、気が付けばぼくの支援者としての地位を作り上げ陽の当たる場所で堂々とストーカーになっていたのでした。
うん、本当に意味が分からない。
そんな感じで困らされることも多いんだけど、どういうわけかちづるは引き際も完璧にわきまえていた。
基本的にヤンデレでありつつも、ぼくが本気で怒ることは絶対しない。
自分の身勝手で他人を害したりしないし、ぼくの邪魔になることも一切しない。
その上プレイヤースキルは完璧で、いまだになぜあの時に千羽鶴に勝てたのか、ぼく自身分からない程だ。
実際は徹夜のテンションでぶっちぎって、撃破後は丸一日爆睡して細かい部分は覚えてないんだけどさ。
ともあれ、いろんな意味で恐るべき人物、それが千羽鶴ことちづるなのだ。
今回だって、メールで得た情報を元に隠れて観察したり、正体を隠して近づいてきたりせず、きちんと……きとんとはしてないけどメールで返事をくれて、ぼくが呼ぶまで待つと言ってきている。
つまり、やっぱりちづるを頼るのはやめようと決めてしまえば、これ以降ちづるに振り回されることはないというわけで、その判断を全面的にぼくに委ねているのだ。
人手が欲しいとは言え1人2人の存在で成否がひっくり返るほどの綱渡りはしないつもりで、でも少なくとも今この時点ではちづるはぼくに対して誠実であり、過去の戦いも遺恨を残すものではなく、かと言って何もなかったかと言えばあの支援者と称した一夜城のインパクトは今より数段低レベルなVRシステムに警告されるほどだったわけで、あの絶世の美貌で垂涎もののスタイルの妖女に言い寄られたらぐらつく自信があり、今回のイベントはあくまで人助けが主目的で、でもちづるのゲーマーとしてのスペックはぼくの知り合いの中でも最高峰で、今回は別に無茶なボス戦とかあるわけでもなく、だけど敵が弱いからって断る理由でもなくて、だから―――
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[宛先]
ちづる
[件名]
(件名なし)
[本文]
返信ありがとうございます。
またメールするので、少し考える時間を下さい。
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「先送りにしちゃえー☆」
ぼくは、笑顔でちづるメールを先送りにすることにした! 完璧!