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祭りの夜へと始まる、準備初日の二人組プレリュード

 告知や募集ほどではないけれど、時間と期間が必要になるために早めに動き出したいことの一つ。それすなわち、就職だ。

 求める腕前次第にはなるけれど、職人に就職すれば終わりではなく、その後にスキル上げをしてランクアップもして欲しい。

 その修行期間に必要な時間を考えれば、就職は早めに済ませておきたいもんである。


「大工さんか、裁縫職人か、農家さん……うーん。

 どれがいいんでしょうか?」


 基本的に、やりたい職を選んでくれればいい。

 まずはそれぞれの職人が、七夕で何をするかを教えよう。


 大工は、特設ステージの作成が一番の作業だ。

 その上で司会がしゃべり、各種催し物をするので、それなりの広さと誰からも見える高さが必要。

 でも、ぶっちゃけ台を作るだけなので、大した作業ではない。最悪、スタッフとして確保できなくても、家具屋などに依頼できると思う。

 もしくは、ぼくが大工に転職して作る。


 裁縫職人は、観客席にするための座布団を大量に作る役。

 長いベンチにまとめて座らせる手もあるが、嵩張る、力仕事が増える、終わった後ゴミになると三拍子揃ってぼくの中で不評。

 七夕祭りだからできるだけ和風に寄せたい気持ちもあり、ゴザ+座布団のような形式を考えている。

 敷地、つまり『天の川』の長さを考えると、作る数はざっと二百は欲しい。多ければ多いほどいいが、作り過ぎて客が少ないと悲しみは半端ない。


 最後に農家だが、ある意味でこれが一番ハード。

 天の川を作るための特別な植物と、座布団に使うための綿。余裕があれば、イグサや食物の材料も欲しい。

 それと、立派な竹も育ててもらいたい。

 このうち、竹は就職クエで必要になるので旅人(無職)でも育てられる。なので、メインは特別な植物だ(最悪の場合、綿はお金の力でなんとかする)


 細かく言えば、家具職人や調理師、その他借りたい力はいくらでもあるんだけど。

 イベントスタッフの中核たるみかんさんには、できれば作業としても重要な部分を任せたい。

 責任と、イベントを自分の事として頑張ってもらうために。


「じゃあ、裁縫職人か農家さんですね。

 ライナズィアさんは、何をするんでしょうか?」

「ぼくは全部でございますよ」

「……はい?」


 全部。

 全て、やる。


「いえ、専門家の協力があれば大工は任せますし、調理や屋台までは手を回せないですけれど。

 基本は指示出しや確認、折衝になりますが。空いた時間は、採取も裁縫も農家も何でもやるつもりでございます」

「え、っと……

 あの、生産職も、戦闘職と同じで、一人一つしか就職できない、んですよね?」

「ええ。その辺は、ブレイブクレストのスキルと転職の仕組みからご説明いたしましょう」


 ブレイブクレストでは、プレイヤーは戦闘職と生産職に1つずつ就職することが出来る。

 この2つは独立していて、例えばぼくなら『剣士』で『薬剤師』だ。必要とされるステータスや用いる道具の傾向など、ある程度親和性のある組み合わせもあるが、原則として職業組み合わせは自由。

 また、一度就いた職業を転職することも自由である。


 では自由に変更できる職業、各職業に就職すると何が変わるのか?

 戦闘職では、固定部分のステータス値と、スキルおよび装備の適正に個性が現れる。

 例えばぼくの剣士なら、STRが高く、次いでVIT&AGIが高い。

 また、名前の通り剣および大剣の適性が最高で、盾の適性も非常に高い。次いで短剣や刀など、刃のある武器に対し高い適性を誇る。反面、魔術系の適性は低く、またペットによる戦闘も苦手である。


 それじゃぁ、生産職の場合はどうか?

 こちらは戦闘職よりシンプルで、スキル適性がほぼ全て(木こりの持つ斧など、ごく一部の職には若干の装備適正なんかもある)

 大工なら、木工関連のスキル適正が高く、制限なしにレベルを上げられる。他にも伐採や彫刻、栽培系もある程度の適性がある。

 裁縫職人なら裁縫の他に機織り、剣職人なら剣鍛冶の他に武器全般の鍛冶や修理も可能、といった具合。

 基本的に、本職のスキルの適性が高く、制限なしにレベル上げができる。また、本職と関連していたり似たような作業の適性も得られる。

 これが、生産職の仕組みだ。

 なので、木材を加工して台を作るくらいなら、大工以外にも、木こりや家具職人だって可能。多分、大変だけど無職でも可能だ。


 というか、厳密にはスキル適正は『スキルで何かをする時にどれだけシステム的な補助を受けられるか』を表す適正値。

 スキルがなくてもプレイヤー(中の人)の知識や技術があれば、木材から簡単な椅子や机くらいは作れるわけだ。


 で、これに転職がどう絡むか。

 大工から裁縫職人に転職した場合、木工関連のスキルの適正値はほぼなくなる。

 裁縫で木材を扱うことはないんだから、適性がなくなるのは当然。

 じゃあ転職した人は木工が出来なくなるんですかと問われれば、答えは否。

 例え転職しても、一度上げたスキルレベルは削除するまで保持される。成長することはないし、実力も発揮できないけれど、高めた力量は勝手に下がらない。

 だから、裁縫職人が木工をしたければ、もう一度大工に転職し直せばいい、ということだ。


 とは言え覚えられるスキル数および預けられる(・・・・・)スキル数には上限があるので、全ての職人を一人で!なんて事は出来ない。

 それでも、スキル数が許す範囲ならば転職は有効だし、要求されるレベルが低い範囲ならば似たような職のサブ技能でも十分実用的。

 大工と木こりを転職で行ったり来たりすれば、自分で伐採して木工できる便利キャラの出来上がりというわけです。


「まあ転職にも成長におけるデメリットはございますし、本格的な職人をやるにはいくつもスキルを覚えないといけませぬ。

 例えば木こりだって、木々を伐る『伐採』の他に、木材として使えるようにする『材木加工』や、木々の状態を把握し適切な木を選ぶ『木鑑定』なんかのスキルが必要になります。そういう補助的なスキルも覚えて居ないと、ランクアップが出来ませぬ。よく出来ておりますな」

「なるほどぉ。

 つまりライナズィアさんは、転職を使って裁縫職人と農家を両方するんですね」

「ええ、裁縫職人も農家も、就職クエは終わってございますので。

 と言うか生産職、一通りクエは全部終わってますので、いつでも転職可能でございます」

「すごいです、流石です!」

「ははは、暇人だっただけでございますよ」


 職業の中にはほぼ同じような内容のクエもあるが、場合により結構変わったクエもあったりして。

 色んなNPCとも話せたし、なかなか面白かったのです。

 これが全く同じ作業の繰り返しだったら、間違いなく途中で投げてるね。飽きるし。


「分かりました!

 それじゃ、私もライナズィアさんと一緒に、裁縫職人と農家を両方やります!」

「……おおう、アグレッシブ。

 でも、そうですね。このイベント(祭り)はみかん様が主役、良い覚悟だと思います。

 えらいから、褒めて差し上げましょう」

「は、はう……ありがとうございます……」


 柔らかい頭を撫でる。なんかこう、たまらない癒し感があるね。

 かつてあったという動物園とかペットを飼うと、こんな感じなのかもなぁ。


 ちなみに、ぼくがやるのは裁縫職人と農家、だけではないんだけど。

 大した数じゃないし、特に今説明しなくてもいいよね? 記者クエとか、結構手間が掛かるし。それほど人数が欲しい作業でもないし。




 そんな風に今日やることを決め、結構長い時間ゲームをしていたので一度休憩ログアウト。

 みかんさんは夕食とお風呂だそうで、1、2時間ほどはオフラインで別の準備だ。


 まずはぼくも夕食にするかな。

 あ、でも夕食を作る前に、先に協力者募集のメールだけは出しておこう。



―――――――――


[件名]

今、世界が君の力を求めている!


[本文]

電脳化を続ける世界の中で想像力の翼を手に入れた人々は、さらなる可能性を求め川を渡り飛躍する。


今、この時!

世界が君の力を求めている!


立ち上がれ、宴会勇士よ!

今こそ内なる殻を破り『果てなき世界で、自分だけの何かを見つけよう』


―――――――――



 ブレイブクレストのゲーム内のメールではなく、VRネットワーク上でのメール。三人に、全く同じ文面を送りつけ。

 さて、それじゃぁ夕食の用意を―――


 電子音が、メールの受信を知らせる。

 返信? 早いな、おい。



―――――――――


[差出人]

ラシャ


[件名]

Re: 今、世界が君の力を求めている!


[本文]

つまり、働けと言うことですか。

ニートは駄目ですか。


詳細求ム。


―――――――――



 本当に返信だった。相変わらず反応の早い奴だ。

 食事の用意をしながら、適当に返事を書く。



―――――――――


[宛先]

ラシャ


[件名]

今、ぼくが君の力を求めている!


[本文]

ブレイブクレストオンライン。

7月7日。

求む労働力。


―――――――――


[差出人]

ラシャ


[件名]

Re: 今、ぼくが君の力を求めている!


[本文]

了解。働きます、ボス。


ブレイブクレスト、興味があったのでちょうどいい。

今から買ってきます。でもガチ初心者なので、戦闘が必要ないところに回して下さい。


―――――――――



「よし、一人確保!」


 宛てにしていた戦力を、期待通りに確保。

 ほとんどノータイムでの協力承認、流石であり感謝であり。


 お礼代わりに、お前のモチベーションに核燃料を注ぎ込んでやろう!



―――――――――


[宛先]

ラシャ


[件名]

今、ぼくが君の罠を求めている!


[本文]

職業『工作員』になると、罠が設置できて爆弾が作れて破壊工作ができます。


―――――――――


[差出人]

ラシャ


[件名]

Re: 今、ぼくが君の罠を求めている!


[本文]



―――――――――



「……本文ねぇよ」


 興奮のあまり、誤爆したようだ。

 だがやる気が燃え上がったことは間違いあるまい、メールの本文(文なし)が文字以上に雄弁に教えてくれる。

 しいて言えば、テンション上がり過ぎて拠点をいきなり爆破されたりしないかだが……


「ま、そんな心配は要らんか」


 これでも高校時代からあれこれ一緒にやってきた仲だ、本当に迷惑とかぼくが怒ることはしない。

 そのくらいには信頼があるからこそ、宛てにしてたし一番にメールしたわけだからな。


 高校時代からと言えば、小金井もゲームやってたらしいがブレイブクレストとかやってんのかね?

 ちらっとそんなことを考えつつも、見込み戦力と配置を決めながら夕食を済ませ。

 ゲーム内で一度フレンド登録するために、合流場所と時間を指定してくれるようラシャにメールを送り。

 公式へのユーザーイベント登録と、イベントスペースの予約を行うのだった。


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