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六話

  あれから、私は光明と二人で話し合って両親に婚約する旨を伝えに行った。


  鳳凰殿に行き、父上と母上、光明に私の四人だけで会った。兄様達はいない。父上と母上が隣り合って座り私と光明も隣同士で座る。向かい合わせで私と光明は父上と母上を見た。


「……涙鳴。お前が嫁ぐのを決めるとはな。まさか、こんな早くになるとは」


「けど。後悔はしていません。光明殿とも話し合いました」


「そうか。では別れの餞別に降雨の木と水瓶を授けよう。お前の役に立つはずだ」


  父上が言うと母上も涙ぐみながら立ち上がる。私の所まで来ると両肩に手を置いた。


「……ついこの間まで小さかったのに。もう嫁ぐのね」


「母上」


「私からも簪と櫛など細々とした物を贈るわ。王宮に着く頃には必要となるでしょうから」


  母上は優しく微笑むと私を抱きしめた。ふわりと花の香りが鼻腔に入る。懐かしい母上の好きなお香の薫りだ。もう、嫁ぐと会えなくなる。切ないような寂しいような。胸がしくりと傷む。


「……父上と母上には色々とお世話になりました。私が地上に降りてもお元気でいてください」


「ああ。涙鳴も達者でな」


「何かあったらいつでも帰ってきていいのよ。父上と母上がいる限りあなたを助けるから」


  母上の言葉にじんわりと涙が出た。私はしばらく別れの時を惜しんだのだった。


  父上は早速、宮殿の庭に出ると降雨の木の苗と枯れずの水瓶を用意させてくれた。使い方などを丁寧に説明してもらう。


「……まず、降雨の木だが。これは王宮に着いたら庭の一角にでも植えてくれ。そうして毎日水を欠かさず与えるんだ。朝になったら祈りも捧げる事。この二つを続けていれば、いずれ雨を降らせるだろう」


「なるほど。陛下、他には何かありますか?」


「水瓶だが。これは本当に水を欲している者に与えたらいい。体力と気力を一時的に回復させてくれる。ただし、むやみやたらと使わないように。使い過ぎると水が枯れてしまうからな。一日に百人までならいいだろうが」


「……わかりました。姫だけでは心配ですから。私も注意はします」


「光明殿。皇妃が与えた簪などの品を売ったりはするなよ。もし、人の手に渡れば。国はたちまち滅びる。心してくれ」


  父上の言葉に光明は神妙に頷いた。私も肝に銘じようと思った。こうして私と光明は天界の宮を出たのだった。


  母上が与えてくれた神馬に乗って傾斜のきつい道を降る(くだ)。光明は手綱を握っているが。私は彼の前に乗っているから正直恥ずかしい。


「……ねえ。光明殿」


「どうした。姫」


「なんで私。前に乗らないといけないの」


  顔に熱が集まるのを感じながら言った。すると光明はクックッと笑った。


「……なんでって。君、馬に乗った事がないだろう。落馬されたら嫌だしな」


「……まあ。それはそうね」


「すまない。けど前に乗ってもらった方がこっちも守りやすいしな」


  はっきりと言われて余計に顔が熱くなる。ちなみに授けてもらった降雨の木の苗と枯れずの水瓶は両手に乗る大きさになっていた。腰に下げる袋に入れてあった。天界と地上を隔てる門を目指してひたすら進むのだった。

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