五話
めっちゃ久しぶりの更新です。
光明が私の部屋にやってきた。
鳳音も一緒だが。奏季に言って人払いをする。鳳音を退出させた。これで三人になる。深呼吸をした。
「……光明様でしたね。何かご用でしょうか?」
「……ふむ。君に用があってね。俺も縁談があったからこちらに来たが。君はどうなんだ?」
「どうなんだとは」
「言葉通りだよ。縁談についてはどう考えているんだ」
「……私は。嫌で仕方ないわ。何だったらこのまま独身でいたい」
ぽつりと呟いたら光明は驚いたのか少し目を見開いた。ちょっと考え込む素振りを見せる。
「……そうか。君はそう考えていたのか。だったら俺は帰ったほうがよさそうだな」
「え。あなた、私と結婚できなかったらまずいのではないの?」
「確かにそうだが。けど君が全然乗り気でないのなら話は別だ。無理強いして嫌われても俺が困るしな」
あけすけに言うので私は驚く。そういうものだろうか。光明は苦笑いしながら椅子から立ち上がる。さらりと彼の黒髪が背で揺れた。
「……涙鳴姫。君には悪いと思っている。もしよかったらちょっとだけ外に出ないか?」
「わかったわ。では行きましょうか」
私は心配する奏季に言って二人きりにさせてほしいと頼む。渋々、奏季は頷いてくれた。私は光明と共に庭に出たのだった。
外では牡丹や芍薬などが燦然と咲いていた。私はそれに慰められながら顔が綻ぶのを感じる。光明も目を細めて見入っていた。空は晴れて澄み渡っているし日の光も丁度いい。良い天気だと素直に思った。
「姫。天界では考えられないだろうが。今、地上では民が飢饉や餓えによって多くが苦しんでいる。全く雨が降らず、大地は乾ききっているんだ。川や池も枯れて。フォン国はこのままでは滅んでしまうだろう」
「……そうなの。あなたの国ではそんな酷い事になっているのね。知らなかったわ」
「……そんな時に神託があった。天帝の姫を妃に迎えたら苦境を脱することができると。占でもそう出た。だから俺の兄達が天への扉があるというコーロ山に登った。けど一人を除いて皆帰って来なかった」
私は光明が何故、わざわざ地上から天界に来たのかという理由がはっきりとわかった。彼の肩にはフォン国のたくさんの人々の命と生活がのし掛かっている。私の気持ちだけで断ってはいけない。そう強く感じた。
「わかったわ。あなたが天へ来た理由はちゃんと理解しました。でしたらこのたびの縁談はお引き受けしましょう」
「……いいのか?」
「私の身一つで国難を解決できるのなら喜んで嫁ぐわ。十人前で悪いとは思うけど」
苦笑いしながら言うと光明はちょっと困ったように眉を下げた。でも色男だと思う。
「……昨日の事は本当に悪かったと思ってる。でも嫁ぐと決めてくれてありがとうな」
「礼には及ばないわ。これからよろしくね。光明さん」
「ああ。よろしく。涙鳴姫」
光明はそう言ってにっと笑う。ぐいっと引き寄せられて抱きしめられた。頬に接吻をされる。私は慌てて離れようとしたが。嬉しそうな光明は余計に抱きしめる力を強めたのだった。