三話
私が手を取らないでいたら光明はふうむと唸った。
「……姫。先ほどは失礼した。謝ってもやはりダメか?」
「……私を何だと思っているんです。あなたが王族であろうとも狼藉を働いた事には変わりありませんから」
はっきり言うと光明はそうかと言い、口ごもる。私はそのまま用はないとばかりにこの場を去ろうとした。が、光明は待ってくれと引き留めようとしてきた。
「何よ。まだ言いたい事があるんですか?」
「いや。姫。ちょっと女官の方を呼んでいただきたいのだが」
「……はあ。じゃあ、私付きの奏季を呼びます。他の女官でもいいんだったら今からでも呼んできましょうか?」
光明にそう言うと彼は頷いた。
「……申し訳ない。お願いするよ」
私はではと言って自室に戻る。棚に置いてある銀製の鈴ーー呼び鈴を鳴らした。りいんと鳴り室内によく響いた。すぐに扉が鳴らされて女官が声をかけてくる。
「涙鳴様。お呼びでしょうか?」
「……ああ。鳳音かしら。お庭に地上からのお客人が来ているの。確かフォン国の方で光明様と言ったわ。呼んだのはね。その方を出迎えてほしいからなんだけど」
「まあ。お客人ですか。フォン国というと現陛下の故郷の国ですね。わかりました。わたしめがお出迎え致します。お教えくださりありがとうございます」
お願いねと言うと鳳音は扉を開けて中に入ってきた。
「……で。お客人はどちらにおいでかわかりますか」
「確か牡丹が咲いている一角の辺りにいたはずよ」
「ああ。そちらにいらっしゃるんですね。では通らせていただきます」
鳳音は私に一礼すると庭に繋がる扉を開けて外に出た。玻璃の窓から光明に鳳音が声をかけるのが見えた。私はやっとあの失礼な男と話さなくてすむと思うとほっとする。鳳音はそのまま光明を連れて天帝と后妃の居所である鳳凰殿に行く。それを窓から見送ったのだった。
「姫様。只今戻りました」
奏季が戻ってきた。私は頷いた。
「……そういえば。姫様。鳳凰殿に地上からのお客人がいらしてました。ご存知ですか?」
「知っているわ。さっき、お庭で会ったもの」
「なっ。姫様のおられるこの殿舎内のですか?!」
頷くと奏季は絶句してしまう。どうしたのだろうかと思っていたら頭を抱えて考え込んでいた。
「何という不届き者でしょう。この天帝陛下のおられる殿舎内。しかも皇女である涙鳴様のお部屋の内庭に入り込むとは。捨て置けませんね」
「……確かにいきなり口を手で塞がれたりはしたけど。それ以上はされていないわよ」
「それでもです。確か光明様と言いましたか。地上では王族でも天界では関係ありません。陛下にお伝えしておきます」
はあと言うと奏季は「姫様もお気をつけください」と厳しく注意する。仕方なく頷いておいたのだった。




