三十五話 再会といさかい
体力が全く回復していないことに自覚の無いヤナギに私はとりあえずの処置としてご飯を食べさせた。すると、すぐに眠ってしまったので、昨日と同じ場所で剣の修行を行っている私のもとへ、その人はやって来た。匂いからして花を持ってきてくれたことが判る。そうだ。二代目はいつも私によく花をくれた。花の素晴らしさを伝えようとしていた。特に、今彼女が手に持っている雪柳は私によく似合うと言ってくれていた。そのせいか、私もこの花の香りを覚えてしまっている。
屈折して考えると、こういうのは洗脳と言うんじゃないの?
「久し振り」
二代目の相手をするのに形に拘る必要は無い。だから私は口調を昔の頃に戻す。その方が少しだけ気が楽になる。
「先に言われちゃったね。久し振り、秋ちゃん」と言って私の頭の上に花を置く。わざわざ冠にしてくれていたらしい。
相変わらずの温かい気配に私は目を細める。この人はどうしてこうも只人ならざる気配を持っているのだろう。
その全身に秘められた圧倒的な魔力――生まれ持った力――と長年の修行によって鍛えられた気の力が完全に一体となって現れるこの気配…強者としての絶対的な空気が、剣気を放っている訳でもないのに私の中で警鐘を鳴らしている。
これが、剣を捨てた者の放つ気だなんて未だに信じられない。
「それにしても随分と早いのね。ここに着くまでには大分時間がかかったと思うんだけど」
私が大陸からここに来るまでにかけた時間はかなりのものだった。それを思うと後から来た二代目が何故こんなにも早く来ることができるのか不思議でならない。実を言うと、それは頭の片隅にずっと引っ掛かっていた。
「わたしには魔法があるから」
明るい笑顔と共に言っているのがはっきりと判った。
「そうだったわね」
二代目は大抵の事に対する説明をこの一言で片付ける。実際、魔法が大抵の事を可能にしてしまう以上、私はその理由で納得する他はないのだから、無駄に言及することはやめ、仕事の話をすることにした。
「校長先生から大体の事情は聞いてる?」
「うん」
「もしかして、私よりも仕事の内容には詳しい?」
「うん。一通りの手筈とか他にも色々とね」
「説明してもらえる?」
「ごめんなさい。それは無理」
返事を断られた私は何故と問う。二代目は私が言葉と共に僅かに送った眼力にもまるで動じることなく答えた。
「だから、無理」と、ただ一言。けど、それで納得することはできない。
「そんな無理は通じない。訳も聞けずに納得しろと言うなんて、それこそ無理」
それは二代目も当然判っている。だから弱り切ったように小さく息を吐くと頭を必死に働かせている。けど、二代目が考えた末に出す答えはいつも強引に事を運ぶという実力行使になる。だから、頭を使うだけ無駄だと思う。
そう考えていたところで、二代目に異変が起きる。私の背後を見て呆然としている。
「ねえ、秋ちゃん」
「何?」
「えーと」二代目は私のことを気遣っているのか言葉をしばらく選らんで「フォルティスがいる」と言った。
「フォルティス?」
気配を消しているから判らなかったけど、どうやら私の背後に居るようだった。
それで二代目が驚いている理由にも得心が行った私が一つ頷いていると、背後から声が届けられる。
「久し振りだな。トキナ」
それは間違いなくフォルティスのものだったけど、声色はどこか低い。
「久し振り、フォルティス」
心なしか、二代目の心音が僅かに乱れたように感じられたとき、風向きが変わって、獣の匂いが鼻を刺激する。近くに馬車を待たせているみたいだけど、果たしてそれが私たちを待っているのかは判然としない。それでもそれが出発は急いだ方が良いかと思わせる。そんなときだった。
「その腕……一体どうしたんだ?」
この一言で空気の重みが変わる。それと同時に二代目の呼吸が一瞬だけど止まるのが分かった。無意識からなのか、二代目は失ってしまった左腕へと右手を伸ばしかけて、それに直ぐに気付いて止める。無いものには触れられない。当たり前のことだけど、元々無かったものじゃない。私の両目に光が無かったこととは違う。二代目は、当たり前のものを失ってしまった。掛け替えの無いものを、自分の弱さ故に失った。二代目ははっきり言って敗北者だった。
それは二代目自身分かっていること。けど、それは理屈の上での話で、気持ちの上ではまだ整理が付いていない。だから、今この人はきっと辛そうな表情をしている。私に表情が見えるはずはないんだけど。
「――失くしてしまったんです。私は――」
弱かったから。その一言を二代目は直前で止める。それを言ってしまうことが本当の敗北だと知っているからこそ、言う訳にはいかないんだろう。
「どうした?」
妙な間に対してフォルティスが疑問の声を上げると、二代目は苦笑いでも浮かべているようだった。
「何でもありません。フォルティスは随分傷を負っているみたいだけど、平気なの?」
「あぁ、平気だ。それよりも、よく来たなトキナ」
二代目の気持ちを察したらしいフォルティスは何か共感するものがあったのか、落ち着いた心音と共にそう言った。
そして、いつの間にか二人の間には私の立ち入ることの出来ない独特な空気が流れ始めていて、そこが酷く居づらかった私は剥き身となっていた『季節名』を鞘に納めて何も言わずにその場を後にした。
この時、二人のうち誰も私を引き留めようとはしなかったことが、どこか癪だった。
ともあれ、私もずっとあの場に留まっている訳にもいかない。『季節名』が言っていた、この島にいるという『季節名』を見つけること。その目的のために、少しの間ではあるけど時間を使ってみることにした。
心地よい陽射しが気を和らげるのを感じながら私は『季節名』の気配を辿って歩を進めて行った。その筈。けど一度立ち止まってしまうと、何だか歩く気が急に失せてしまって、その場に立ち尽くしていた。
「……」
分からない。何故そうなるのか疑問点すら出てこない私は空を見上げた。すると怖くなって、気が付けば私の部屋へと戻って来ていた。何かに怖気づいたということにいつしか愉快になって笑っていると、ヤナギは私を気味が悪いものとして見ていた。
「気持ちわりぃ奴だな。どこに目つけてんのかわかんねぇ顔しやがって」
「うるさいよ。それより少しは落ち着いた?」
ヤナギは何も答えない。
「不信感がよく判る返事をどうも」
ヤナギとはそう話す事もない私は会話を打ち切り、入手しておいた道具類を一通り並べてから膝を正して座る。すると道具が珍しいのかヤナギの視線がすぐにこちらに向けられてきた。
「興味があるのか?」
「別にそんなんじゃねぇ」
「そう」
話す合間に鞘から抜いた『季節名』から目釘抜きで目釘を抜き取って肩に担ぎ斜めに立てて右手の拳で柄頭を握る左手を軽く打ちなかごを緩め、適当に手首をもう二三度打ち、感覚に従って右手でなかごを掴んで柄を抜き取り、続いて切羽、鍔とハバキも取り去って、鹿のなめし革を使いひいておいた油を拭い、打ち粉を当てた後でもう一度、今度は別のなめし革を使い切っ先から拭う。それから備えておいた油を紙に染み込ませて刀身に隈なく油をひいていく。
開祖がどうだったかは知らないけど、二代目はこうした手入れを何もしていなかった。いくら『季節名』が手入れを必要としないようなものだとしても、こうした手間を惜しんでいるのは良くないと私は思う。
「?」
手入れを終えかけたところに不意に奇妙な気を感じて、一度刀身を鞘に納めてから柄を手に取って、思わず顔を顰めた。この柄、目釘を抜いた拍子に割れていたらしい。それも静かに。
ただの物だっていうのに、静かに。まるで、人が息を引き取るような。そんな気配で。
「壊れたか……」
壊れたという単純なことに苛立ちを覚えて、そのまま無遠慮に後ろへ放る。そしてそれをヤナギが手に取っていた。肉に群がる野犬並みの反応の速さに思わず感心する。
「どうした?」
「いらねぇから捨てたんだろ? それならあちきにくれよ」
図々しいようで、何も臆することなく物を言う。このガキ……嫌いじゃない。
「すまぬが、くれてやる訳にはゆかぬな。しかしまぁ、しばらく貸しといてやろう」
私には無用の代物。代えの柄もあるので、別にヤナギの手元に置いておくことには何の躊躇いも無かった。
代えの柄を取り付けて、少しだけ鞘から抜いて納めることで調子を軽くはかる。問題は無さそうね。
最後に柄頭を軽く叩いて注意深く音を拾う。鞘にも問題は無い。私はホッと息を吐いた。
しかし、これだけ時間を使ったのに、二代目はこれといって動いていない。気掛かりね。
「ヤナギ」
「何だ?」
私はヤナギを『心眼』でしっかりと見つめ、今の今までおざなりにしていたことについて考えが急に集中してきていた。
「少しついてこい」
「あ、あぁ」
私がヤナギを連れてやって来ると、二代目はヤナギのことを穴が空きそうなくらい見ている。少し違う。子供を見たことで、何か色々と考えているらしい。
「フォルティスはまだいるの?」
まだいるのではないかと思い訊いてみる。
「いないよ。それよりその子は?どうしたの?」
言いながらヤナギの傍まで来るとしゃがみこんでじっと、興味深そうに見つめている。
「お、おい、こいつ腕がねぇぞ!?」
ヤナギはわたしの方に視線を向けて声を潜めることもなく二代目を指差して言った。
「あははははは…」二代目は笑っていた。けど、その声は哀しそうだった。
「ヤナギ。口の利き方には気をつけろ」
私が責めることを筋違いと感じたのか、ヤナギからあのときと同じ強い熱気が放たれる。
「あちきが嘘でも言ったかよ!!」
「嘘は言っておらぬが、口に出して言うようなことではなかろう」
言って付け加えるように『心眼』で感情を当てる。それでヤナギから強い熱気は失せた。
「何だよぉ。そんな目でこっち見んな!!」
私の視線がかなり気に障ったらしく、ヤナギはそう叫ぶと二代目の後ろに隠れる。
どうやらこのガキの中では私は敵で二代目は味方ということに決まったらしい。
こういうとき、適当な目のやり場がある連中が羨ましい。私はどこへ目を転じても気分転換にはならない。
そよ風が櫛のように髪を梳いてくれるのが、今はささやかな気分転換ね。
「トキナ。私の方は準備できたけど、そっちはもういいの?」
「わたしは大丈夫だよ。ねえ秋ちゃん」
「何?」
「何だか、変わった着物を着てるね……」
続かない言葉を不思議に感じて二代目の方へ顔を向けると、二代目は私の目を徹すように見ていた。その視線、呼吸、血の巡り、全てが静かな水面と化していって、私という風を受けて波立つのが判る。私の心臓の鼓動を彼女から感じたような錯覚すら受けるほどに。
風になってはいけない。そう思って息を一つ吸い込もうとしたところで、二代目の指が私の眉間に触れていた。
「何か隠し事してるって、顔に書いてあるよ」
私が一番嫌いな文句を二代目は殺し文句に使ってくる。
「隠し事はしてないわ」
「本当に?」
訊かれて、心に迷いが生じ始めたのを感じた私は、それを即座に捨て去るようにして言った。
「約束を、破った」
人を殺すことへの振り切れない誘惑に、主君からの命という大義名分を得たことで、私は二代目との約束を――人を殺さないという約束――反故にしていた。だからこそ、二代目がここに来るということは心を騒がせて仕方がなかった。
そして、何よりも恐れていたことが起きてしまった。嘘がばれたことで、私は嘘吐きになってしまっていた。
「嘘吐いたんだね」
判っていても覚悟が足りなかったからか――自己非難して勝手に許された気になっていたのか――その言葉に腹を立てずにはいられない。それが身から出た錆びだったとしても収まらない怒りを身に宿した私はその怒りを無視しながら一応の理由を口にする。
「主君の命だから、仕方ないわ」
「命を奪っていいものじゃないの。何度も教えたのに」
頭が弱いと言いたいのかと、熱くなったところが喚くのを無視して私は言った。
「命って何?」
正直、これは私たち師弟のなかでは禁句とも言える一言だけど、言葉を選んでいられるほど今の私は冷静じゃなかった。
それほどまでに、私は嘘吐き呼ばわりされるのが我慢ならない。
二代目は時間を止めたように動きを無くして、小さく俯いている。
「解らないことを訊かないでよ」
それがようやくの返事だった。
「なら解らないもののことでああだこうだ言わないで」
「…………むむっ」
二代目の脈が一気に加速して体温も上がっていく。どうやらかなり頭に来たらしい。私も頭に来たし、これでおあいこよ。
「秋ちゃんはいつもいつも、やられたらやり返すのはダメって言ってるのに。誰かが手を止めなきゃ、争いは終わらないのに」
「手を止めたら負けるじゃない。私はイヤよ、負けるなんて。それに、私はやり返さないと相手が許せない性質なの」
「それは人として間違ってる」
「トキナ。オマエそんな無理して正しい人になりたいの?」
「間違っているよりも正しいほうがいいはずです」
「それは違う。トキナ。欠点だって強みに変えられるのが人の強みで、欠点は間違いじゃない。間違った人が正しくないって、やすやすと否定しないで欲しいわね。目の前を見てご覧なさいよ。ついでに自分の姿を見てみたらどう? 外も内も違っていたらそれは全て間違いだとは言えないでしょう?」
口調が随分と喧嘩腰になってしまっているけど、さて、二代目はどんな反応をするのかしらね。
その心の変化を慎重に量る。途端に静かになったことが、異様に不気味だった。
「スーッ……秋ちゃん。約束を破るのが良くないってことは分かってくれてるよね?」
「もちろん判ってる。はいどうぞ」
上手く笑顔を作って『季節名』を差し出すと二代目の魔力が私の眼を強く打った。当てられた気の強さに目元に手を当てると濡れていた。涙が滂沱の如く流れているかと思いきや、臭いは血のものだった。
頭蓋にヒビが入るような衝撃と怒りを以って、私は二代目を睨んだ。
「トキナ…オマエ、オマエ」
「こんなの罰にもならないのは判ってるけれど」二代目は私の手に握られた『季節名』を鞘から抜いた。「あなたはわたしから剣を習って、理を汲んで己を克してくれたと思った。だからあなたの手にあったこの剣、よくよく思うとずっと不思議だった。
けれど、わたしが誰かに受け継いでもらえるものがこの他にはなかった。
あの人の遺した大切なものだから、わたしも大切にしてた。型捨無流はきっと人の為になると信じて。
秋ちゃんの為になるものだって信じて、それがもっとたくさんの人の為になると信じていたのに。
この『季節名』はそれを裏切る。なら――」
そこまで言葉を重ねて、二代目の心音が刃のように鍛えられて一つの決断をしたことを私に悟らせた。
二代目は――『季節名』を折るつもりだということを。
「トキナァァァアアアーーー!!」
声を当て、二代目の位置、姿を心中に正確に描き出して『現在』の内に動き『季節名』の柄頭を掴んで奪い返す。そして僅かに間合いを離し、間を置かずに鞘へ納めた。
二代目は私の動きに動じることはない。動じず、開かされ、何も手にしていない自分の手の内を見つめている。
相変わらずの苦悩や葛藤を始めているのかしばらく動かずにいた。
「ッ、、、」
違った。耳では判らなかったけど、勘が働いてくれたおかげでギリギリでかわすことが出来た。
私を通り過ぎた攻撃は後ろの壁を砕いている。
まさか、戦うことになるのかと想像して、久々に胃が震える心地に知らず呼吸を乱してしまう。
間合いは得物を手にしている私が有利。技の速さでも私が有利。
それは二代目も先刻承知のことのはず。けど、それは今までの私の考えに過ぎない。
二代目は私の知らない技を使ってきた。今知ったその技は――
「指弾…」
「秋ちゃん。『季節名』を渡して」
二代目は腕を腰溜めに構え拳の中に親指を埋め込んでいる。間違いなく中は空っぽ。
それでいて弾かれた指から撃ち出されたのは間違いなく弾丸・・・それ以上の力を持っている。
けど、実際には何も使ってはいない。魔力の働きも無かった。
いや、使えるものはある。それは空気。二代目はただの空気で壁を砕いていた。
「それはできない」
お互いはまだ引き下がることができる。けど、私からは引き退がれない。
二代目も引き退がることはしない。限界の一歩手前に踏みとどまって私に譲歩しろと無言の内に言っている。
「待てよ待てよ!おめぇが誰だか知んねぇが、こちとらこいつに一宿一飯の恩があるんでね。恩人に手を上げようとしてるのを黙って見ている訳にはいかねぇよ。それにおめぇ!」ヤナギは私を指差した。「物騒な真似すんなよ。何でも喧嘩で済まそうなんてのは変だろう!どっちも構えを解けよ!」
ヤナギが上手く立ち回っている。意外なことだけど、好都合。何とかこの場を濁さないと血を流すのは避けられない。
まず私が構えを解いて『季節名』をヤナギに渡すのを見せる。二代目もそれを受けて構えを解いた。
「二代目。拙者はオマエに刀を渡すことはできぬ。しかし、オマエは拙者に『季節名』を持つ資格は無いと思い、
いっそのことと『季節名』を折ろうとした。だが、それは待たれよ。この刀は折らずともよかろう。
この刀はヤナギに預ける。拙者はもう『季節名』で命を奪う真似はせぬ」
咄嗟に出てくる言葉に、私は私が変わったことを改めて強く自覚した。
「…分かりました。けれど、わたしは秋ちゃんには人を斬って欲しくない。それが一番の願いだってことを忘れないで」
「判っている」
「ならそれを守って…お願いだから、わたしの手で秋ちゃんをどうにかしなくちゃいけなくなるようなことはしないでね」
「それが、師としての責任だから?」
「そう。わたしは型捨無流を単なる殺人剣にはしたくないんです」
私はこれ以上何も言うことはなかった。そうして黙る間、心の底では安堵していた。
この人を斬ることはしたくない。それは紛れもない本心だった。
この人は私に対して侮蔑や軽蔑の感情をもってはいなかった。常に優しく、私情はあったけど私の為を思ってくれていた。そんな二代目を私はいつしか母親のように思っていた。けど、優しいから殺したいとも思うこともある。
それでも二代目は殺さないし、殺せない。私は恩を仇では返さない。言い方を換えれば、それが弱みとなっているのが、今の私の心の中を窮屈にしている。
「ヤナギ、タオルを持って来て欲しい。顔を拭きたい」
二代目が遠ざかっていくのを計って私が言うと、ヤナギは『季節名』を持ったままタオルを取りに行った。
それからヤナギが戻ってくるまでの僅かな間、私は日の温かい場所を探し、そこに立ってじっと考え続けた。考え続けて、やがて何も考えなくなる。
「ほらよ。持って来てやったぞ」
「ああ……冷たいな」
「何だよ! お湯で温めろって言っておかないおめぇが悪いんだ!!」
私が顔をタオルで拭いている間、ヤナギは何事かを怒鳴っていたけど、私が顔を向けた途端に黙って顔を背けるということをする。
「何だ?」
「こっち見んな!」
「? まぁいいか。行くぞ」
「? 行くって、どこに行くんだよ?」
「オマエが今担いでいる物は何か言ってみろ」
「おめぇの刀」
「ならオマエは拙者について来い。そうしたら、しばらくは拙者がオマエの面倒を見てやる」
結局二代目には言いそびれたけど、私はヤナギに少しばかり剣の稽古を付けてみよう、そう思っている。
白状すると私自身の修行は大分行き詰まっているのが現状だ。
そこで、教える立場になってみれば何か掴めるだろうとのこの考えだけど、
さて、どうなるかしら?