二十六話 三代目
記されし暦474年。
魔王が忽然と姿を消し、大陸に平和がもたらされてからしばらくの時が流れた頃、ある記録が大陸に伝えられた。
あるとき異界の神が現れた。
異界の神は我らの神の許しも無くこの地に降り立ち、七日七晩のうちに神の大地の多くを奪う。
奪われた地に君臨した数多の王たちは我らの神を見限り、異界の神へと魂を引き渡した。
我らは異界の神を悪魔と呼ぶことにした。あれはあってはならないものだ。
悪魔は陸たちの間に陸を生み出して神の大地をいいようにして遊ぶと人手を借りることなく自らの威光を示そうとするかのように大きな教会を作り、塔を作り、城を作り、そして、学び舎と呼ばれる巨大な何かを作った。
悪魔が奪った大地に息づく者どもは悪魔に与えられる恵みに正しき心を失い、悪魔を称えるようになる。
もはや、あの大地は神のものではない。悪魔の眷属が住まう卑しく穢れた大地なのだ。
我らは我らの神の判決を待った。
そして、裁きは下された。悪魔の大地は一夜にして消え去ったのだ。
我らは歓喜して大海原へと船を漕ぎ出して行った。そこで、驚くべきものを見た。
悪魔は異界の神へと立ち戻った。異界の神は我らの神の許しを得て小さな島に住んでいるらしい。
ここで我らは迷った。我らの神の許しを得てここにいるのだからあの島を我らのものとしてよいのか。
それとも、あれは異界の神のものとして神が認めたものであるから、我らの立ち入っていい場所なのかどうかと。
やがて、我らの中の不信信者たちが悪魔の大地へと半日ほど滞在して戻って来たという。
その話はおかしなものだった。彼らの言う話では、その島が広大に過ぎたのだ。
我らはよく分からかったが、そこは仮にも異界の神が住まう場所。人の理では理解できるはずもあるまい。
長い時間が過ぎた頃、我らの前に異界の神の使いがやって来た。
我らはそれを迎え撃とうとしたが、異神の使いから感じられる神性を前にして、それが愚かであると悟った。
神の使いは我らの地で困っている者たちがいないかと聞いた。我らはそんな者たちはいないと言った。
ここは神の地である。その矜持からの言葉だった。異神の使いも納得したような顔をすると去って行った。
またしばらくして、我らの争いが終わったちょうどその頃、また異神の使いがやって来た。
今回の異神の使いは我らと話をせず、迷える者たちへと問いを重ねた。
やがて、我らの神を敬う心を捨てて異神の使いへと救いを求めた者たちは異神の島へと導かれて行った。
我ら、いや、我はもうこれ以上のことを語ることはできない。ここから先の話はいずれまた・・・・・・
大陸の人々はこの記録に関心を持ち、海の向こうへと今までよりも強い関心を持つようになる。
そして、人々と同じようにこの記録に関心を持った者がいた。
妖刀『季節名』を真に継承した盲目の三代目。トキナ=アウヌムトゥス。
剣士『季節名』の名を継いだ彼女は今、独り大海原を進む船の先端に立ち、太陽を見上げていた。