エピローグ
エピローグ
「昔々、あるところに二人の魔術師が居ました」
薄暗く本が立ち並んだ部屋で少女が本を読んでいた。絹の様なさらりとした銀色の髪の少女は部屋にある椅子に座って続きを読み始める。
「一人は白の魔術師と呼ばれ、平和な世界を望み魔術を多くの人々のために役立てようとしました」
少女の透き通るような蒼の瞳は流れるように文字をを読み連ねていく。
「もう一人は黒の魔術師と呼ばれ、魔術によって人々を支配する世界を望みました」
その時、近くに積み上がっていた本の山が音を立ててを崩れる。しかし、そんなこと気にすることなく少女は本を読み進めていく。
「やがて対立した白と黒の魔術師は自分を従う人々とともにのちに「魔導大戦乱」と呼ばれる戦いを始めました」
すると、先ほど崩れ去ったはずの本の数々が突然浮かび上がると独りでに本棚へと収まっていく。しかし、少女はこんな事にも目もくれず、視線はその本に向けられていた。
「長く続いた戦いは白の魔術師の勝利で終わり、世界には平和が訪れました」
少女が次のページをめくろうとすると、部屋のドアからノックの音がして、老人が入ってくる。燕尾服を着ていていかにも執事の様な服装の老人は少女を見るなり
「お嬢様、そろそろ出発のお時間でございます」
「分かりました。すぐに片付けますので先に外へ出て待っていて下さい」
「かしこまりました」
老人は一礼すると立ち去っていく。
「・・・続き読みたかったなぁ」
続きを読めないことにがっかりした表情を浮かべ、少女は持っていた本を机に置く。
再び本が意思を持ったかのように浮かび上がり本棚へと戻っていく。それに応呼するかのように周りにおいてあった残りの本も独りでに動き出す。
本が一通り棚に戻ったことを確認すると、少女はうなずき、部屋を出て行く。
明かりが消され、部屋のドアがバタンと閉じられると本棚の陰から人影が出てくる。
人影は先ほど少女が読んでいた本を手に取ると、ページをペラペラとめくり始める。
やがて少女が先ほど読んでいたページにたどり着く。
影はそのまま次のページをめくるとそこでめくる手が止まる。
その視線の先には乱暴に破られたページが映っていた。
影は落胆が混じったようなため息を付き、パタンと音を立て本を閉じる。
その時、ガチャっというドアを開ける音がする。
「・・・っ!」
本を元の棚に戻しかけていた影はその音に驚いた拍子に持っていた本を落としてしまう。慌てて口元で何かを唱えると霧のようにその姿を消した。
「誰かいらっしゃるのですか?」
ドアから金色の髪の少女が部屋を覗き込み、小動物の様なくりくりっとした目で視線をめぐらす。
「気のせい・・・ですかね?今この部屋に誰か居たと思ったのですが・・・おや?」
金髪の少女は床に落ちてる一冊の本を見つける。
「ああ、本が落ちた音でしたか。棚の立て付けが悪かったのでしょうか?後で直さないとですね」
少女は本を拾い挙げ、表紙についてしまった埃を払うと机の上に置く。他に異常が無いかと再び確認をするとそのまま部屋を出て行った。
ドアがパタンと音を立てて閉じたと同時に消えていた影が再び姿を現す。
「・・・」
影は先ほどの本ではなくドアの方へ視線を向けて少し考え込む。
やがて、何か納得したかのような様子で頷くと机の本を手に取り今度こそ姿を消し、再び現れなかった。