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lv.1

「なーんかよく寝た気がする」


 心地の良い睡眠が取れたような気持ちで目を開く、周りを見ると同じく転移してきたであろうクラスメイト達が呆然としながら座り込んでいる。何故かクラスメイト達は俺をじろじろ見ているがどうでもいい。

 それよりも俺達がいるこの場所だ。壁も床も、天井ですら白一色。単色で影も無いとなると無限に続いているような気がして頭がおかしくなりそうだ。


 すると、重い音をたてて壁が開いた。そこから、煌びやかなドレスに身をつつんだ美少女を先頭に、重そうな鎧を装備した騎士が数人出てきた。

 こんな展開はテンプレもいいとこ過ぎて逆に裏切ってくれるのではないか、なんて思ったり。……まあ王女もしくは巫女とかそれらしい感じの人なんだろう。


「初めまして勇者様方。突然呼ばれて困惑しているでしょうが、ひとまず落ち着いて聞いてください」


 彼女は想像通りの台詞を口に出す。所謂陰キャラってやつは冷静で、陽キャラってやつは多かれ少なかれリアクションをとっている。


 自分で自分を陰キャラ認定してなんか気分が滅入るわ。




 ◇




「では状況を説明させていただきます」


 ……話が長がかったので割愛させて頂く。纏めるとこうだ。

 俺が召喚されたこの世界は『ベルフィール』。そしてここはその中にある『レブエル』という国だという。

 魔族と人間は戦争をしていて、手っ取り早く戦争を終わらせるには『魔王』を倒す必要がある。そして、『魔王』を倒すためにはお噺に出てくるような『勇者』が必要だった。

 その勇者を探して召喚魔法を行った結果、呼ばれたのが俺達だったということだ。


「勝手な話ですよね。……ですが、此方にも引けない理由が有るのです」


 哀愁漂う笑みで語っているが、結局は人任せだ。それで世界が救われても人類の勝利といっていいのだろうか……。


「すみません、自己紹介がまだでしたね。私はレブエル王国第一王女のアリアと申します。以後、お見知り置きを」


 と、スカートの端を摘み優雅に一礼する。予想通り王女でしたわ。周りを見るとクラスメイトたちのほとんどが目を奪われている。それこそ男子も女子も関係なく。一種のカリスマなのだろうか?


 数秒経ち、クラスの中心的存在の天海(あまみ)光輝(こうき)、所謂リア充というやつが沈黙を破った。


「軽い物言いなのは許してほしい。ただ、いきなり召喚しておいてすぐ魔王と戦えってのは無茶があるんじゃないかな? それに、戦いって言っても僕達は精々喧嘩位で、命のやり取りはおろか武器なんてまともに扱った事がないんだ」


「そうでしょうね。部屋に入ったときの皆様方はとても研鑽を積んだ方々とは思えませんでした」


 ……言いたい放題言ってくれるなこの王女様。勝手に呼んでおいて弱そうって。みんなの顔から見るからに元気が無くなっちゃったし。


「……ですが、皆様には女神様の加護が付与されています」

「その加護ってやつで本当に戦えるのかよ。ハッキリいって胡散臭い」

「ちょっと新羅!」


 リア充その二、望月(もちづき)新羅(しんら)と光輝、新羅とよく一緒にいる観父母(みほも)矢追(やおい)。なーんかしょっちゅう怪我をしている新羅と女にしか見えない矢追だが、光輝含めた三人がこのクラス、いや、この学校でいろんな意味で最強。新羅の怪我は明らかに喧嘩の傷……いやまあ、怖くてこの三人と話したこと無いんだけどね。


「勇者様方にはこれから魔力測定と身体能力測定、ステータス測定を行ってもらいます。加護にも種類が有りますので、非戦闘員は王国が責任もって保護いたしますからご安心ください」


 やっぱりか。と言うかハッキリと役立たずは飼い殺しって言われる当たり切羽詰まっているのだろう。

 にしてもステータスね。謎の少女にシエンって呼ばれたことといい、いやな予感がせんでもない。

 なーんて考えていると見慣れたステータス画面が頭に浮かんだ。



[名前] シエン

[性別] 女

[称号] 創造神 戦姫 

[スキル]【錬金術】【杖術】【薬学】【炎魔法】【雷魔法】【闇魔法】【光魔法】【】

[ステータス]

体力 1672

魔力 4069

攻撃力 798

防御力 816

魔法攻撃力 1098

魔法耐性 1123

敏捷 822

命中 966



 浮かんだのはいい、いやな予感してたしな。だがステータスが全て『―門―』での俺、シエンそのまんまなのはどういう事なんだ。……っていうかこれはもしかしなくてもチートキャラ何じゃないか? いやまて、あわてる時間ではない。他の奴らのステータスは不明なんだ、これで村人レベルなのかもしれんしな。


「あれ……大地が居ない」


 ふとこぼれた言葉を俺は聞き逃さなかった。いや、聞き逃せなかった。衣が口にしたのだ、他の有象無象ならわからんが衣の声だけは聞き間違えない。十四年の付き合いだからな。そして、その付き合いの長い衣にすら認識されていない。認めたくは無かったがこれはもう確実にそう言うことだ。

 周りに気を取られて自分の体を確認していなかったが、白めの肌にダボダボになってしまった学ラン、赤く染まった髪の毛。間違いない。


 俺は、シエンになっている。


 あの少女の言っていた俺じゃない俺になるとはこういう事か。イベントに参加できない喪失感でそれどころじゃなかったけど、よく聞いておけばよかった。まあ、今更後悔したところで変わってしまったと言う現実からは逃れられないので、とりあえず衣に事情の説明だけはしておこう。衣の秘密は十四年間で俺しか知らないものになっているからな。信じてもらえなかったらその時はその時。まあ、何とかなるだろ。


「衣、聞いてくれ俺が伊原大地だ」


 ステータス測定だかの集まりを横目に、衣の手を引っ張りその場を離れる。突然のことにかなり驚いているようだが、叫んだりしないでくれたので周りには気づかれていない。

 ……いや、少しくらい抵抗してくれないとそれはそれで不安になるんだけど。


「びっくりしたあ。……いやいや、大地は男だったような……こんな可愛い女の子だっけ?」


 俺がびっくりだよ。衣ってこんなアホの子だったっけ? 真面目で少し抜けた所のある……天然ちゃん? よく考えたらあんまり深くこいつのこと知らないな。まあ、信じてもらえるだろう。衣だし。


「問題デデン! 小学生の時に男子に虐められてた衣を助けたのはだーいち」

「ストップ。助けてもらったのは大地だけど、君じゃない」


 ちょっと弱かったかな。


「あ、そう言えば交換ノート無くしたは、悪い!」

「うーん……確かに交換ノートは大地の番で止まってたけど……」

「では問題ですデデン! 去年の夏祭り、チョコバナナ買って一口目で落としたのはこーろも」


 ウッキウキで買ったチョコバナナを一口目で手を滑らせて地球に食べさせた哀れな記憶でどうだ。


「……あれは悲しかったなぁ。ってこれ知ってるの一緒にいた大地しか知らない筈なんだけど」

「だから、俺が大地なんだってばよ」

「目の隈も無いし大地っぽさが欠片も無いんだよ……」

「……まあそれはしょうがないか。シエンとして呼ばれたみたいだし」

「大地が『―門―』で使ってた女の子の名前……よく見たら似てる? 左の頬に刺繍……ってことは本物?」

「だーから、本物の大地だって」


 まて、なぜお前がシエンを知っているんだ。


「おま、パソコン勝手に見やがったな」

「起こしに行ったら寝落ちしてたんでしょ!」

「それを言われると俺が悪いみたいになる」

「大地が悪いからね! ……てことは本当に本物の大地なんだ」


 なんだよ本物って。いや、今はシエンだから大地ではない? でも俺は俺で……よくわからんな。

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