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「まーだパーティー勧誘祭り続いてるよ……」


 早朝4時。俺、伊原大地はオンラインゲーム『―門―』で魔女シエンとして活動している。

 今はサーバー間戦争イベントというPvPイベントでマッチング中なのだが、非常に勧誘が多くて個人チャットのログが勢い良く流れている。野良でボス待ちしててもこの有様なので基本的には無視しているが、たまに取引が混じってたりするので待ち時間はログを漁るのが癖になっている。

 このイベントもボス狩りも、『シエン』をパーティーに入れたい気持ちは分からんでもない。自分で言うのも何だが、俺は強いからな。最初の頃はパーティーでも遊んでいたけど、PC(プレイヤーキャラ)のスペックの差が開きすぎて足手まといになっていたからパーティーで遊ぶのは止めた。現実から逃げたくてはゲームで遊んでいるのに、そのゲームで惨めな思いをするのはアホくさいからな。

 そのうち、逆にパーティーに誘われるようになって、俺は嬉しかった。けど、対等な関係が築けそうなプレイヤーはだいたいが固定面子かギルドメンバーと組んでるため、勧誘してくるのは無差別に勧誘してるやつか寄生目的しかいないことが多かったので、今ではリア友以外とパーティーを組むことはない。尤も、リア友ともイン時間が合わなかったり、そもそもレベル差が酷いので基本的にはソロプレイ何だけど。

 ……おかしい。ゲームでもぼっちとはこれ如何に。


「やっとマッチング終わったか」


 画面上には無数のPCが表示されている。パーティーのライフとかが表示される所にはいつも通り俺の名前しか表示されていない。

 インベントリを開きアイテムを確認。……回復系、バフ系共に有り余る位はあるな。生産職はこういう時にアイテム不足になることが少ないからいい。無論、素材が無ければ作れないのだが、店売りなんかとは比べものにならない効果のアイテムが作れるので戦闘職よりも気軽にアイテムを使える。……まあ、俺みたいに前線で戦える程強化するなら戦闘職PCを育てた方が手っ取り早いが。


「うわ、回復された。このゲーム……いや、このゲームだけじゃないだろうけど、パーティーに甘いよなあ。だからパーティー組むんだろうけど」


 ヒール一つでも、パーティーメンバーにかけるのと、その他では指定する手間が違うからな。ショートカットのあるパーティーメンバーはツークリックで回復出きるけど、他のPCを回復しようと思うと直接PCを指定してから何をするか、どれを使うかを決めないといけないので、面倒なのだ。

 まあ、ソロで戦ってる俺には関係のない機能だけど。


「やっぱ深夜帯はガチ勢が多いな」


 如何に強いPCだろうとそれなりに強い戦闘職PCをガチ勢がパーティーで使ってたら俺でも手間を食うし、一つ間違えると直ぐにやられる。こういう人達と戦ってると、ああ俺はシエンとして生きてるんだって錯覚に酔えて楽しいけど、やられるとやっぱりパーティーを組みたいかなー何て気にもなってくる。まあ、俺に着いてこれるようなパーティー事態少ないし、既に満員の場合が殆どなのでやはりソロで遊ぶしかないんだけど。


「あ、これ詰んだか?」


 考え事しながらマップを駆け回ってたら見るからに廃課金パーティーに囲まれていた。

 こうなると基本はやられるのを待つだけ何だが、俺の中のシエンはせめて一矢報いたいといつも叫ぶ。無駄になるかもしれないと頭では分かっているのだが、割とレア度の高いアイテムを湯水のように使って戦うのだ。多少でも削ればポイントも貰えるし、偶に勝てたときの喜びが半端ではない。


「……あら、もう一パーティーいたのね。ヒーラーとタンクだけってことはギルドで俺を潰しにきたのか」


 こうなったら俺の負け。後は味方が勝つのを信じてアイテムを使わずに戦うだけだ。戦争イベになると必ずと言っていいほどリンチにあうので強いっていうのも考え物だ。

 こうでもしないと止められないって思ってもらえるのは純粋に嬉しいんだけどね。


「流石に八対一は勝てんか」


 剣で胸を貫かれたシエンを見て呟く。……三十分程度しか戦えてないのは流石に消化不良なのでログを流し読みながら孤独な戦いに明け暮れた。




 ◇




「……今何時だ? やっべ、朝飯食う時間もねえじゃん!」


  気づいたら七時半を回っていたので急いで着替えて学校へと向かう準備をし、自転車で家を出た。

 若干の信号無視をすれば、コンビニでパンを買う時間位はある。


 幸いレジ待ちも無かったので息切れを整えながらクラスのドアを開けると、冷ややかな視線を感じた。時間的には五分位余裕な筈なので奴の視線だろうな。


「……大地また寝てないの?」

「んーまあね」

「そんな生活してたらいつか死んじゃうよ」

「そん時はそん時。それに、やりたいことが有るのに寝るのは時間が勿体ない」


 どーせゲームでしょ。なんて言ってくれるこいつは幼稚園の頃からの腐れ縁。所謂幼なじみの藤野(ふじの)(ころも)。衣はそれなりに可愛いので、冴えない俺は男子からもある意味熱い視線を受けるのだがまあ恋仲ではないのでスルー。

 そんな様々な視線を受けながら自分の席に座り授業を受ける。

 今日も日本は平和やなぁ。なんてアホくさい事を考えて、居眠りしてたら衣や先生方に注意されて。


 そして授業が終わり、昼食の時間。学食や他クラスの友達を求めて食堂へ向かう人に紛れて屋上の入り口へと向かう。

 屋上が解放されている訳でもないので人がこない此処は、昼寝するにはちょうどいい穴場スポットなのだ。今朝買ったパンも食べ終わり一眠りしようかと言うところでまたしても奴が現れる。


「休み時間だし寝るのは構わないけど、授業に遅刻したらそろそろ先生も怒るよ」

「大丈夫、既に怒ってるから」

「それ、大丈夫って言わないよね」


 衣に論破され、気まずくなった俺は最強のガードスキル無言を発動。五秒位で眠たくなってきたのでそのまま寝ようと思ったとき、突然ピシリと何かに皹が入る音がした。そして、直ぐに悲鳴も聞こえ目を開けると、衣と俺の足元に幾何学的な模様の円が描かれていた。


「衣。俺が寝ようとしてるからってこういうイタズラは感心しないぞ」

「わ、私じゃないよ!」


 衣じゃないならクラスメイトの誰か。そう思った俺は自分のクラスへと全力で走った。徹夜でバテるのも早かったが屋上の入口から俺のクラスは近いので到着も早かった。


 そして、自分の目を疑った。移動したにも関わらず、俺の足元に謎の円が描かれていること。追いかけてきた衣の足元にも円が描かれていて、それが動いていること。クラスメイト全員の足元にも同じものが描かれていたこと。


「いよいよ白昼夢ってやつを見るまでになったのか?」

 

 教室にいるクラスメイト達は突然足元から出て来た魔法陣に驚き騒ぐ者もいれば、ケータイで写真を撮る者もいた。夢にしてはリアル過ぎる現状に呆然としていると、いっそう強く発光し――そこで意識が落ちた。




 ◇




「お目覚めかな『シエン』」

「……ここは?」


 呼びかけに応えるように目が覚める。視界にはどこかで見たことある気がする少女が立っていた。いや、浮いているのかもしれない。俺と彼女以外になにも存在しない。言葉にするなら無の空間だろうか。やはり俺は夢を見ているようだ。


「人は己の許容を越える情報を与えられると無意識にそれを無かったことにする癖がある。余り期待した答えではないかもしれないが、此処は外の世界としか私には言えない。だが、どのような答えだろうとすぐに意味がなくなるのだから、貴方にはこれで妥協してもらうしかないね」

「先に釘を刺すってことは夢じゃないって言いたいってこと?」

「そうとってもらって構わない。時間がない、早速だが本題に入ろう」


 目の前の女性はペラペラと喋る割にせっかちらしい。


「貴方は死んだ、これは現状覆しようのない事実。だが、現状と付けたからには蘇生――」

「あ、そういうのいいんで」

「……私達の加護を与えるので、召喚に応じてほしい。尤も、既に魔法は発動されたから貴方に拒否権はない」


 あーね。だいたい理解したわ。


「ふざけるなよ……。まだイベントも終わってないのに」


 初日から三日間戦い続けたのにこの仕打ちは酷い。どうせだったらイベントが終わるまで待っていてほしかった。いや、そもそもこうならないのがベストなんだけど。


「きっと貴方は感謝する。なぜなら貴方は貴方。でも貴方じゃない貴方」

「今度こそ一位になれるって思ったのに」


 このイベントに備えて上位のアイテムを作りまくった苦労が水の泡。それに、久々に課金して武器も強化したのに……。


「……人は憎しみに囚われると周りの声が聞こえなくなる生き物。これはこれで私にもいい勉強になった。礼を言うぞシエン」

「!? シエンってどういう――」


 言葉を発し終える前にまたしても意識が黒に塗りつぶされた。

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