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砂の中をおよぐ  作者: センガ
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第一章 新しい首輪

挿絵(By みてみん)



「──最近別の方が大量に買い上げたばかりでして、少々数が足りないのですが、こちらのモノはみな健康です。男達は力仕事、女どもは家事や掃除に最適です、旦那様。」

 奴隷商は檻の中を示して言った。アイザックはしばらく考えた後、答えた。

「ふむ、悪くはない、が、数が少々足りないな、こちらの檻の中に居る者達もか?」

「ええ、ただ、そっちは余り健康状態が良くなかったり少々難ありのモノたちですな……お安くはいたしますが、あまりオススメは出来ませんな。」

 確かに、奴隷商の言う通り、その牢の中に居る人々は、あまり顔色がよくなかったり、働き盛りを過ぎた年齢の者たちだ。

「かまわん、彼らも含めて、全員引き取ろう」

「ありがとうございます、旦那様。それにしても、少々物好きでいらっしゃいますな。わざわざ、傷物を買い上げるなど、確かに、そういうのを好まれるお客様もいなくはないですがね……」

「貴様、旦那様に対して無礼だぞ」

「パルム」

 横手で聞いていたパルムが憤る。

「おっと、口が過ぎましたな。これは失礼」

「かまわない。先日都合で多くの奴隷を失ったばかりでな、人手が足らんのだ。パルム、彼らを馬車に頼む」

「了解しました、旦那様」

 パルムは牢から出された奴隷たちを外で待機している荷馬者に連れていく作業に取り掛かった。

「では、旦那様、お支払いはこちらの方で」

 奴隷商が事務所の方へ向きを変える。今日奴隷商に来たのは、労働力となる人々を探すためであったが、歩きついでに追加で尋ねてみた。

「駄目元なのだが、誰か、文字の読み書きができる奴隷はいないか?先日私の補佐をしていてくれたものが、年なのもあって、故郷で帰ってしまってね」

「あいにく、うちはそういう高技能の奴隷は扱ってないのでねぇ」

 ジャラ───と鎖の音が牢の奥から聞こえてきた。音のした方には、小さな檻があった。覗いてみると、隅の暗がりには、一人の女性が、膝を抱えて座っている。この辺りでは見かけない、異国の、長い白銀の髪の女性だった。あの髪色と碧い瞳の色は日の下では輝いて見えるだろう──もっとも、だろうと言うのは推測に過ぎず、その際立った特徴も、今は体のあちらこちらに巻かれた包帯や、生気のまるで見られない表情の所為で、路地裏などでよく見かける、死にかけた奴隷に見えた。それでも、自分が牢に近づいた音に気がついたのか、こちらの方へ顔を向けてきた時の碧色の瞳はとても惹きこまれた。

「ああ、旦那様、そいつ、珍しいでしょう?先日入ったばかりで、けどねぇ……」

「彼女は売ってはいないのか?」

「そういうわけではないんですけどね。そいつ、たぶん、異国から来たやつなんでしょう。何らかの芸をするか、夜伽用のはずなんです。」

 随分とあやふやな言い方だった。一度、奴隷商が言葉を区切る。

「でもねぇ、首についた傷の所為だかなにか分からないけど、一言も喋らない。だから歌とかは歌えねぇ。一応、こちらから声をかければ反応はします。それだけならいいんですが──奴隷は喋らない方が都合がいいって方もいらっしゃいますからね──入荷して以来、ほとんど飯も食わねえで、ああして呆けてる。ですから日毎に衰弱して、使い所がなくて困ってるんですよ。とても珍しい人種ですからね、廃棄もできなくてねぇ」

 途方に暮れたように、奴隷商は語った。彼からすれば、悩ましい『在庫』なのだろう。なまじ売りつけても、すぐに病気などで役目を果たせなくなったら、買い手に文句をつけられる。

自分の身の上の説明をされている間も、当の女性はまるで他人事のように、無反応だった。ただ、ふと目があった瞬間──覗いた瞳の奥に、微かな感情が、見えたような気がした。アイザックは、その感情を、知っているような気がした──もう一人ほど人手が欲しかったところだし──そして──決めた。

「彼女、売ってはいるんだな?」

「え?ええ、ですが鑑賞用でお探しなら他に上等なモノがありますよ」

「いや、彼女を買わせてもらおう」

「ああ、ありがとうございます旦那様。割引にさせていただきますよ」

 傷物で安く買おうと思われたのか、奴隷商は媚びるように語る。牢を開けて、奴隷商の使いの者が、彼女を、先程パルムが連れて行った方へと誘導する。彼女がアイザックの前を通り過ぎた時、その顔には、買われたことで処分を免れた喜びも、または売られた主が自分に何を要求するのか分からない哀しみも、なんの感情も見られなかった。




 奴隷商は主人と、奴隷たちをそれぞれ乗せた馬車を入り口から見送った。随分と風変わりな主人だった。すこし「傷んだ商品」を安く買ってすぐに使い潰したり、いたぶってダメにする貴族も少なくはない。だがあの主人はどうもそういう目的ではないような口ぶりだった。

「まあ、主人があんな体だと、違う趣味があるのかも知らないけどねぇ、こちらとしては、ありがたいお客様でしたなぁ」

 馬車が去った道からは、埃が舞っていた。

 



「どうかしたのか?フィデル?」

 馬車に乗り込んだ後、しばらく道を進むと急に止まってしまった。新しい奴隷たちを乗せた後続の馬車も止まる。御者のフィデルに窓越しに尋ねると、フィデルは分からないと首を横に振った後、傍らで交通整理をしているらしき兵士に聞いた。

「どうも、行きに通った道は荷車が倒れたか何かでふさがっているみたいです。迂回します。」

 馬車は道をそれ、横道を抜け、別の大通りへと進む。先ほどの道とは異なり、やや落ち着いた、商人や貴族の住む区画だ。

「あれれ、この屋敷、火事でもあったのでししょうか?」

 フィデルは右斜め前方の区画がぽっかりと空いているのを目にして話しかけてきた。よほどひどく燃えたのだろう、屋敷の姿は跡形もなく、建物の土台まで燃えている。

「ああ、そういえばこの区画だったな。先日大火事があったと聞いたな。宝石商だったそうだ。本人も屋敷の者も、奴隷を含め、ほとんどのものが助からなかったそうだよ。いやなものだな。」

「……最近は乾燥してますからね。今日から来る新しいやつらにも、火の取り扱いには注意するように警告しないとですね。うちの屋敷、ただでさえ燃えやすそうなんですから」

「……それはうちの屋敷が古いという皮肉か」

「自分はそこまで言ったつもりはないですよ。さ、こんな辛気臭いところから早く屋敷へ戻りましょうね。もたもたしていたらお昼を逃してしまいますから」

 あまり暗い話に興味がないためか、最後の会話は元から暗い話からそらすためものだったようだ。フィデルは鼻歌を歌いながら、馬車の速度を一段と上げた。火事の現場はすぐに遠ざかった。




「ほうら、お前たち、ここが今日からここがお前たちの新しい屋敷だ」

 パルムが奴隷たちを馬車から降ろし、玄関前の広場に集合せる。太陽が真上にきており、少しまぶしい。

「アイザック様、いつもの、なされるんですよね?」

 馬車から降りた俺にパルムが尋ねる。

「ああ、そうだ」

 ジャラジャラと、手と足枷の音が広場に反射する。全員馬車から降りたのを確認し、声をかける。

「私はアイザック・オズワルド、今日から新しいお前たちの主人となるものだ。お前たちには私の屋敷の者として働いてもらう」

 奴隷たちの顔に、特に感情巻いたものは見られない。むしろ、どれほど過酷に扱う主人なのだろうかと、こちらを測るように見るものも少なくない。

「ただ、私はお前達に無理は強いたくはない、悪いことようにはしない。出来るだけ普通の人々のように扱うと約束しよう。食事も、衣服も、眠る場所も与える、5年以上つつがなく働いたものには市民権を得る機会も与えるつもりだ」

 徐々に、ざわざわと、奴隷達の間でささやきが起こる。この主人は一体何を言っているのか? そんなのはまやかしに決まっている、と。一応、5年以上つつがなく奉仕したものは、主人の許可さえあれば市民権を得られると法律上は決まっているのだが、実行されることはほとんど皆無だ。奴隷の労働意欲を上げるためにある法律だったが、市民になれば税を納めたりしなくてはならず、今までただ指図されるだけだった奴隷は、自ら奴隷の地位にとどまるものも少なくない。

「それまでは、私の屋敷の者として、私がお前たちを守ろう。ただ、私が守れるのは、私のの奴隷だ、という首輪をつけたものだけだ。残念ながら、それがないと外のものからお前達を守ってやれないものでな」

 貴族の奴隷となると、市民といえども、その奴隷を許可なく害することはできない。

「屋敷の他の者たちに害を加えない事、互いに協力し合う事、その他、悪しき行いをしないと約束出来るものは、今日からこの新しい家へ迎えよう。私の、奴隷となってくれるか?」

 『私の奴隷となるか?』などという言い回しは、自分でも滑稽だと、毎回思う。だが、彼らの身分を保証するには、貴族の奴隷として属すのが手っ取り早く、最も安全な方法だった。奴隷たちの様子はと言えば、言っている事は信じられない様子だった。そもそも選択権など、買われた時点で、中には生まれた時点から無かった奴隷たちは、ある者は自発的に、またある者は仕方なく、こちらを見て頷く。一応、互いの同意はした、隣に立っていたパルムに合図する。パルムは無言で頷くと、

「そいじゃあようこそ、新しい兄弟達! とりあえずこっちについてきな。暖かい食べ物と風呂を用意してあるからな、その手足の重い鎖も外さなきゃなんないし」

 パルムは明るい声で、新しい奴隷達を誘導する。よく分からないが、そこまで酷い待遇ではないらしいと分かった奴隷達は、やや緊張がほぐれた面持ちでついていく。──と、その時、ドサッと、一つの人影が、奴隷達の間で倒れた。駆け寄って見ると、それは最後に買った銀髪の、異国の女性だった。

「おい、君、大丈夫か? 」

 うつ伏せになっていた彼女を抱え起こす、先程奴隷商の檻の中で見た時より、さらに顔色が悪くなっていた、どうやら意識を失っているらしく、反応がない。

「誰か、メリッサを呼んでくれ!彼女の手当をしなくては! 」

 集まってきた他の奴隷達をかき分けて、屋敷の者たちがやってきた、急いで彼女を母屋の方へ運ばせた。檻の中で見た碧色の瞳を一瞬思い出し、あの瞳をもう一度見れなくなるのではと、不安が脳裏を横切った。




「主に火傷と切り傷のようだな」

 仕事柄、医学に心得があるアイザックは、世話人のメリッサと共に、異国の女性の手当てをしていた。

「首の怪我、かなりひどいようですね。誰かに絞められたような、痣ですかね」

 奴隷商でそれなりに手当てされていたようだが、一応改めて全身の検査をしている。メリッサの言う通り、彼女の首には、誰かにつかまれたような、指の痣がはっきりと残っていた。

「首を絞められるとは平穏でないな」

 体罰で鞭を打たれたりする奴隷はいなくもないが、首を絞められるなど、一体以前はどんな生活をしていたのだろう。今度は背中を検分しようと、ゆっくりと彼女をうつぶせにする。

「──っ! ──これはまた、ひどいな」

「────」

 傍らのメリッサも絶句する。うつぶせにした際、背中に刻まれた鞭の痕もさることながら、目を奪ったのは、首筋と背中の間に、くっきりとした焼印の痕だった。焼印自体は随分と昔につけられたものらしく、肌になじみかけていた。

「……焼印など当の昔に廃止になったのじゃありませんでしたっけ?」

「ああ、今は奴隷にはつけない、首輪になったからな。だが、主人の趣味でつけることもあると聞いた」

 焼印は、花をかたどったものだろうか、細かい装飾が彫られており、焼印にあるまじきその美しさが、いっそう気持ちの悪さを引き立てる。

「前の主は、よほど悪趣味な人物だったのだろうな」

「なおさら内の屋敷に来れてよかったですねぇ、この子」

「そう思ってくれればいいんだがな。これで大体の治療は済んだか。あとは頼んでいいか、メリッサ。俺は他の者たちの様子もみなくては」

「ええ、任せてください」

 彼女のことはメリッサに任せ、部屋を後にした。




 新しく屋敷に来た者たちの名簿やら事務作業を済ましていたら夕刻になってしまった。奴隷たちはみな、アイザックの屋敷のものであることを示す新しい首輪をはめた。首輪、か。焼印よりマシだが、個人を他人の支配下に置く象徴であることには変わりない。アイザックの気分次第でどうともなってしまう人々。アイザックは自分が握っている命の重さをかみしめて、暗い気分に陥った。訳あってアイザックは奴隷たちに寛容な立場の貴族だが、果たして自分の行いは正しいのだろうか、といつも疑問に思う。こんな行いは、貴族として生まれたものにしかできない、ただのわがままだ。──ともかく、先程の彼女の様子を伺いに、メリッサいる医務室へと向かう。

「メリッサ、入るぞ」

 ノックをすると、部屋から了承の声が聞こえた。

「アイザックさま、先程の娘の様子を見に来たんですか?彼女なら奥で眠っていますよ。」

 机の上で薬剤でも調合していたらしいメリッサが奥の部屋へと目をやった。奥には小さな部屋が続いており、目を離せない病人などはここで面倒を見られるようになっている。

「彼女の具合は?」

「今は安静です、熱があって時折うなされている以外は」

「ならよかった。商人曰く、あまり食事摂ろうとしないらしくてね、うまく介抱してやってくれるとありがたい」

「きっと前の主人に手酷く扱われたりしたんでしょうね……任せてくださいな」メリッサは先ほどみた傷を思い出しているらしかった。

「様子を見ても? 」

「ええ、どうぞ」

 隣の部屋に入ると彼女が隅のベッドで眠っている。額には水で冷やしたタオルが乗せられている。静かに近寄ったつもりだったが、隣部屋での会話が聞こえたのか、彼女はゆっくりと、瞼をあけた、よかった、と心の中で安堵した。彼女の碧色の瞳は暗い牢の中で見るよりも、明るく見えた。

「ああ、すまない、起こすつもりはなかったんだ」

声をかけられた事で目が覚めたのか、体をベットから起こそうとした。

「熱があるんだ、まだ眠っていたほうがいい。それとも何か飲んだ方がいいかな?必要ならメリッサを読んでこよう」

 起き上がろうとする彼女を助けようと、右手を彼女の背中に触れた瞬間──

「─────?!」

 彼女は驚き、叫びとも似つかない息を喉から吐き出しながら、こちらの胸元押し倒した。あまりにもとっさのことでバランスが取れず後ろに尻餅をついてしまう。酷く派手な音を立てて倒れた音に気がついたのか、メリッサが隣の部屋から駆けてきた。

「アイザック様!どうかなさいました?」

「大丈夫だ、少しバランスを崩しただけだ、いつもみたいにね」

メリッサに支えられて立ち上がった。痣ぐらいはできているかもしれないが、それ以上の怪我ではない。

「それより、彼女になにか飲み物を」

 心配そうにこちらを覗くメリッサをベットにいる彼女へと意識を向けさせる。彼女はと言うと、驚いた顔していた。俺を倒してしまったこともあるが、それ以上に、視線の先を辿ると、どうやら俺の左手を見ているらしかった。転んだ際に服の袖がめくれていて、それが露わになっていた。

「ああ、『これ』か?義手なんだ、見るのは初めてかな?右足もそうでね、だから今みたいに、たまにうまくバランスが取れなくて倒れるんだ。転び慣れてはいるから気にしなくていい」

合金でできた義手を振る。彼女は、言葉を発するつもりで口を開けるが、声は出ない。商人が言った通り、本当に、話すことが出来ないようだった。

 驚いている彼女を落ち着かせようと生身の右手の方で、彼女の手に触れようとする、しかし、触れる前にますます縮こまられてしまった。

「俺のことが怖いのか……?」

 それとも、前の主人に酷い事でもされた記憶からなのだろうか。

「きっとまだ気が動転してるんですよ、ここは任せて下さいな、アイザック様。落ち着いたときにまたいらしてください。さ、おまえさんは、まだ熱もあるんだし、まだ安静にしなさいな」

 メリッサが有無を言わさない調子で彼女を解放する。相手が女性だからなのか、抵抗する力もないのか、彼女はベッドに再び横たえられた。ここは、メリッサに任せた方がよさそうだった。そっと部屋を抜けて、書斎の方へ戻る。



──書斎へと向かう廊下の途中でパルムとすれ違う。

「ああ、ちょうどよかった。アイザック様、新しくきた連中にはひとまず部屋を割り振り終えました。、まだ何人か調子の悪いのがいますが、回復しそうですし今は休ませてます。」

「そうか、いつもながらご苦労だったパルム。みんな初日は特に気が立っているから、お前みたいな兄貴分の奴が世話してくれると助かるよ」

「兄貴分だなんて、下に兄弟が多かっただけですよ。それに、ここの家はみんな家族みたいなもんですからね。面倒見るのは当然です」

 パルムはもともと奴隷から市民となった身であるのと、生来の明るさと親しさから誰とでもすぐに打ち解けやすい。いつもこうやって新しくきた者たちの世話を担当してもらっている。

「そういえば、さっき倒れた彼女は大丈夫ですか?」

「今見てきたところだ。熱はあるが、養生すれば良くなるらしい」

「よかったですねぇ。それにしても見たこともない国の子ですね。ここの屋敷のみんなは優しいとはいえ、目覚めたらうまくなじめるようにしてやらないとですね」

 ややカールがかった赤毛の生えた頭をひっかくパルム。奴隷は一律同じ奴隷とはいえ、出自や人種で文化や解釈の違いなどを巡って、様々な揉め事があることも少なくない。パルムはそれを心配しているのだろう。かく言うパルム自身も、サーン人であり、奴隷のなかでは少数派だった。

「お前のそういう所が兄貴分なんだよ。そんな態度だったら彼女もきっと打ち解け──そういえば」

「どうしたんです?」

「いやな、そういえば、彼女、名前を知らないな。奴隷商がくれた名簿にも商品番号しか書いてなかったし。」

 先程は名を聞く余裕はなかった──それに、言葉が話せないなら名を名乗れないのではないか──名前が分からない、その事実は先程拒絶されたことと相まって、彼女との隔たりを感じさせた。廊下の外では、風が庭の木々の間を通り、音をかき鳴らしていた。

「名前、落ち着いたら分かりますよ。きっと素敵な名前なんだろうな。それにしても、この風の音と匂い、雨みたいだ。今夜は久方ぶりに雨かもですよ。」

「──だといいが。ああ、おそらく嵐になる、義肢の付け根がうずくからな」

 アイザックはそういって、右手で左の義手の付け根を無意識に握りしめた。





第一章  了


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