第四章 人の海 ─8─
────助けて──
──たすけて────
──助けを呼んでも誰も来ない──────────────────────────
『────!』
目が覚める。
全力で駆けた後のように息が荒い。
叫び過ぎたのか喉がカラカラだ。
そう、これは、夢だ。
いつもなら夢か現か分かるまでしばしの時間を要するのだが、今夜は、目を覚ました瞬間に、はっきりと、理解した。
とはいえ、悪夢を見て全身汗だらけだし、すぐに眠れそうにもなかった。
ソフィアはそろり、そろりと足をベッドから降ろし、立ち上がる。
『──!』
くじいた足が、体重をかけた瞬間にひどく痛んだ。
「キュウゥゥン?」
目を覚ましたウルルがこちらに寄ってきて、鳴いた。
シャーリーを起こさないように、静かに、という合図を送ってみたが、キュウキュウ、と高い声を出し続けている。
隣で眠るシャーリーは、相変わらず、ぐっすりと眠っていた。
ソフィアが気づいた限りでは、よっぽどのことがない限り夜中に目を覚ましたりしないようだった。
──おいで、外にいこう
左足に体重をかけないよう、慎重に、静かに外へ抜け出る。
ウルルは音もなくベッドから滑り落ちると、嬉しそうについてきた。
夜風に当たるために裏庭に出ると、今夜も、晴れた、静かな夜だった。
深く息を吸い、ゆっくりと夜空を見上げる。
夜空には相変わらず、無数の星が輝いている。
あんなに多ければ、そのうちのいくつかが無くなったりしてても気がつかないだろうな。
今日は、あれほどいろいろなことがあって、正直ほとんどが、気が下がるものばかりだった。
どれから考えればいいのか分からないほどに。
しかし、ソフィアは、あまり気分が暗くないことに気がついた。
いつもだったら、星空の欠片の一つにでもなれたらと思うのに。
星は、ただの傍観者。
何も感じず、何も関わらない。
そんなあり方であれば、どれほど楽だろうかと。
瞳を閉じる。
己の内側にも暗闇はあれど、星は消える。
『──ソフィア』
──ああ、そうか。
夢の中では、誰も来てくれないけれど、この世界では、呼んだら答えてくれる人がいるのだ。
同じ大地で、ぎこちなく歩くあの人の姿が瞼の裏に浮かぶ。
今夜は、不思議と、少しだけ、この世界にいることを受け入れられる気がした。
第四章 了
第五章へ続く