序章 炎の中で
「─────────」
炎、また炎だ。
灼熱の塊が私を襲う。私の髪と肌を焼く。
喉が焼けついて、息をするのすら苦しい。
私は、歩いている。倒れないように、すんでのところで足を踏み出している、そういった方が正しいのかもしれない。
「──────」
声が聞こえない、そもそも声など出ていないのか。私は、どうしてこんなところにいるのだろうか、どうして、全てを諦めて、逃げ出して、終わりにしないのか。どうして歩き続けているのか。
「──────」
思い返せば私から何もかも奪っていくのはいつも炎だ。過去も現在も、己自身の在り方も。全てを無くしたはずなのに、どうして私は歩いている?
「誰か!誰か生存者はいるのか!」
「この火の勢いだともう無理だ!さっさと下がれ」
声がする方へとゆっくり向かう。大差はないが、かろうじて、火の勢いが弱いところを通る。そんなことをする私は、まだ、生きたいと思っているのだろうか?こんなになり果ててまで?
「──────」
今いる地獄から逃げ出したい。でもどこに?
「────────────」
そうだ、故郷だ、あの、どこまでも透き通った青い空と、碧い瞳を持った大切な人たちがが待つ場所。あそこだけが、私の寄る辺。
故郷に、帰るのだ。ただそれだけ、その為だけに今日まで生きながらえているのでは、なかったっけ?
故郷、私の故郷、海を渡り、ここから遠く離れた場所、わたしのこきょう。
「──────」
そうだ、そうだった。私を縛るものなどもう誰もいない。今なら、やっと、故郷に帰れる。ほら、出口だ。
炎の森を抜けた先には、多くの人がいた。中には兵士も混じっていて─────ああ、また、繰り返しだ───
ドサリ──燃え盛る炎の中から出てきた人影は、火の手から少し離れたところで倒れこんだ。
「おい!生存者だ!」
「誰か、水を持ってこい!」
「怪我をしているな───こいつ……奴隷か」
火の手から抜け出したその人物の首にはひどくしっかりとした造りの──それは持ち主を飾るためでなく、戒めるための──首輪が嵌っていた。
序章 了