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第15話「犬猿の仲」

 巨大鮭ことデビルサーモンは、ローザの持っていた魔法バッグに収納された。

 空間魔法が付与されているこのバッグ、大きさや重さを無視して収納できるらしい。

 生物は収納できないとのことだが、今回みたいに狩りや素材集めのときはとても便利だ。


 ただ、収納量には上限があるらしく、デビルサーモンを入れたら残りの空きは三分の一くらいになったそうだ。


「少し寄りたいところがあるんだけど、寄ってもいい?」


 収納が終わったところで、ローザが聞いてくる。


「行先は任せるよ。ただ、食後に激しい空の旅はちょっと……」


 今ドラゴン旋回したら、吐きそうだ。


「じゃあ、私が優しく抱えて走るね」


「えっ!?」


 俺が問いかける間もなく、ローザは俺をお姫様抱っこする。


「あっ、ずるいー。あたしもお兄ちゃんを抱えて走りたいのにー」


「来るとき、背中に乗せてたでしょ。今度は私の番よ」


 そんなやり取りがありながらも、俺の意見は聞かれることすらなく、森の中の疾走が始まった。

 

 …………。


 あれだ……。

 車のボンネットに(くく)り付けられて、高速道路を走ったらこんな気分なんだろうか……とか思ったよ。

 せめてもの救いは、すぐそばのローザから良い匂いがしていたことだろうか。


 ちなみに、マリンは言うまでもなく、フェンリルのシフォンも遅れることなく並走していた。

 




「着いた~!」


 ローザの声で、目的地に到着したことを知る。

 

「ローザ、ここは何……? なんか家らしいものがいくつか見えるけど……」


 なぜか俺が一番ぐったりしている。


「ここは、コボルト族の村よ」


「コボルト?」


 コボルトという言葉を聞いて、犬頭の獣人が浮かぶ。


「そう。ほら、私たちに気づいて出てきたよ」


 ローザの指差す方を見ると、ほぼ想像していた通りのコボルト族が数人出てくるところだった。

 頭部は犬だけど、身体は人族と同じといった姿で、どこか愛嬌(あいきょう)が感じられる。

 背が、俺よりも少し低めだからか怖い感じは全くしない。


「魔王様っ! 今日は遊びに来てくれたのっ?」


 コボルトの中でも小柄なコボルトが、嬉しそうに寄ってくる。

 子供コボルトだろうか。


「もう私は魔王じゃないのよ。それに今日はお仕事で来たんだ」


 ローザは、ゴメンね、とコボルトの頭を()でる。


 落ち着いた雰囲気のコボルトが、奥からゆったり出てきてローザに声をかける。

 なんとなく村長コボルトの予感だ。このコボルト、凄く村長している。


「ローザベル様。お連れの方々は初めて見ますが、皆只者ではありませんな。はっ!? 『魔王ではない』というのは、ついに魔帝になられたということですか!? 古代より、竜の威を借りて繁栄を築いた例は多いと言われていますが」


 村長コボルトは大げさによろめきながら、どこかわざとらしい驚きの表情を浮かべている。

 わざとらしく見えるのは、このコボルトのキャラなのか、それとも犬顔だからだろうか。

 それに、なんだよ魔帝って?

 マリンの正体が竜だって気づかれてるみたいだしさ。


「違うわよ、『魔王』の地位はこのイツキに(ゆず)ったの。今日は仕事の依頼で寄ったのよ」


 ローザは、さあ家の中で話すわよとズンズン歩みを進める。

 村長コボルトは、魔王を譲った?どういうこと?みたいな顔をしながらも、家の中に案内してくれた。





「なるほど、仕事の依頼というのは、人手を借りたいということでしたか」


 ローザが、コボルトに仕事を頼みたいということを伝えた。

 コボルト族は手先が器用で真面目だから、何人かを魔王城に住み込みで雇いたいということだった。


「そうよ、すぐに何人か借りられるかしら?」


「いつもでしたら、人手を出すこと自体は構わないのですが、実は今この村に問題が起こっているのです。それが解決しないことには、なかなか厳しい状況で……」


 村長コボルトが心苦しそうに語る。

 そういえば、見立て通りこのコボルトは本当に村長だった。


「私に解決できることだったら力を貸すわよ」


 ローザが頼もしく見える。

 こういうところが国民から好かれるんだろうな。


「ワンワンッ!」


 シフォンが村長を励ますように()える。

 

「はい、実は……、ハヌマーンが村の近くに出るようになってしまいまして、先日も若い衆が襲われて大ケガをしてしまったのです」


 ハヌマーン?

 魔物の名前かな?


 マリンがハヌマーンのことを知っていたようで、話に入ってくる。


「ああー、ウキーって言いながら作物を荒らしたりする魔物だよね。たしかにコボルトの天敵だよね」


 猿の魔物だろうか。

 こんなところで、犬猿の争いが起こっていたということだろうか。


「そうね、集団で行動するから結構厄介よね」


 ローザもハヌマーンのことを知っていたようだ。


「そうなんです。しかもハヌマーンのリーダーが、狂暴で狡猾(こうかつ)で……」


 村長は思い出したのか、ガックリとうなだれる。

 ボス猿みたいなのがいるのだろうか。


 村長は、ハヌマーンの被害を語ってくれた。

 作物が荒らされ、狩りに出ることもできず困っているということを。

 保存してある食糧で、なんとかしのいでいるけど、それもその内限界を迎えるであろうということを。


 そんな時にローザがやってきたから、コボルトの大人たちは皆期待しているのだという。


「ウウゥゥ…………」


 シフォンが怖い顔をして、うなっている。

 何かに対して怒っているかのようだ。

 

「シフォン、どうしたんだ?」


 シフォンに声をかけるが、その怒りは収まらない様子だ。


「あっ、もしかしてシフォンに怪我をさせた魔物って、ハヌマーンなのかも」


 マリンが、シフォンの心中を察したかのように(つぶや)いた。

 そういえば出会った時、シフォンは大ケガをしていた。


「ウー、ワンワンワンッ!!」


 その通りだ、許せんとばかりに()えるシフォン。

 まだ子犬?だけど、その心意気は魔狼フェンリルだ。


 こうして俺たちは、ハヌマーンの討伐をすることになったのだった――。


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