第14話「タルタルソースを添えて」
狩り場を目指して、森の中を進む俺たち。
歩きながら、カツサンドを口にしたりと、雰囲気はのん気なピクニックだ。
「お兄ちゃん、トンカツって何でこんなに美味しいのかな? きっと、あたしはトンカツを食べるために生まれてきたんだと思うな~」
「ワンワンッ!」
トンカツつながりで、すっかり意気投合のマリンとシフォン。
マリンよ、ドラゴンの存在意義はそんなところには無いと思うぞ……。
「目的地が見えてきたわよ」
ローザが前方を指差して教えてくれる。
そういえば、川を目指していたんだっけ。
「なんだこれ!?」
眼前には、想像をはるかに超える大きな川があった。
川幅が広くて、対岸が薄っすらとしか見えない。
小川で釣りをするのを想像していた俺は言葉を失った。
「何って川よ」
「アマゾンじゃん?」
実際に見たことないけど、俺の中ではアマゾンだった。
絶対にヤバい魔物とか生息してるよ。
揚げ物に使えそうな魚の特徴を伝えたら、なぜかアマゾンに連れてこられてしまった。
「アマゾン? まあいいわ、早く揚げ物食べたいし、早速狩りを始めるよ」
ローザは、川に向かって歩みを進める。
マリンとシフォンも、どことなくワクワクしている感じが伝わってくる。
そうだった……、弱肉強食のピラミッドの中でも、上位のやつらだった。
「けど、狩りってどうやって? 川に潜るの?」
「そんなことしなくても、ここの奴らは……」
ローザがそこまで言葉にしたところで、ザパーっと水面が盛り上がる。
そして、巨大な何かがローザに覆いかぶさるように飛び出してきた。
「おいっ! ローザ!」
俺は慌ててローザに声をかけるが、元魔王っ娘には要らぬ心配だったようで。
「ふむ、潔し。イツキが揚げやすいように捌いてやるわ!」
ローザには、飛び出し襲いかかってくるのが分かっていたかのようで、まるで慌てた様子は無い。
飛び出して来たのは、巨大な魚だった。
大きさは鯨ほどあろうか、ごつくて頑丈そうな表皮はまるでワニのようだ。
陸上のローザに飛び掛かってくるとは、異世界の魚は非常識だが、その迫力は陸の上でも問題なく暴れられそうなものだ。
「お兄ちゃん、デビルサーモンだよ! 冒険者を船ごと丸呑みにする魔物だよ」
マリンの魔物解説だ。
言われてみると、なんとなく鮭を大きくしたものに見えなくもない。
魚って、巨大化すると想像以上に凶悪そうで怖いものなんだな……。
まあ、昆虫なんかも巨大化したら絶望的な凶悪さになりそうだしね。
戦いは一瞬だった。
俺にとっては一瞬だけど、ローザにとっては数多の刹那が重なった長い時間なのかもしれないが。
「えいっ!!」
ローザの可愛らしい掛け声の直後、地面が揺れた。
俺はふらついて、何とか態勢を整えてからローザに視線を戻したところで、戦いは終わっていた。
戦いですら無く、一方的な狩りと言った方が正しいかもしれない。
俺の視界に映ったのは、地面が大きく突起し、それがまるで串のように、デビルサーモンを貫いている光景だった。
串刺しにされた川魚よろしく、デビルサーモンはビチビチともがいている。
「ローザ、凄いな……」
凄いのは分かっていたけど、その強さは俺の想像を超えている。
デビルサーモンの攻撃は、トラックが突っ込んで来る以上のものだった。
あらためて、ローザの戦闘力を見せつけられた。
「イツキが、料理しやすいように、炎を使わずに仕留めたよ」
ローザが、ちょっと得意げな、そして嬉しそうな笑顔で告げてくる。
「ああ……、そういえば食材のために来てたんだっけ……」
巨大な魚と料理が、俺の中でいまいち結びつかない。
厨房にあったのは、切り分けられた食材としての大きさだったけど、巨大な獲物そのままだと食材という気がしないのだ。
俺は、価値観を揺さぶられるのを実感しながらも、調理を開始したのだった。
◇
俺たちは河原で、食事をすることにした。
「はい、お待ちどおさまっ! サーモンフライの完成だ!」
今回作ったのは、“サーモンフライのタルタルソースかけ”だ。
味見したところ、ちゃんと鮭の味だった。
タルタルソースは、揚げ物に合いそうと思って、材料を持ってきていたのだ。
「イツキ、この黄色いソースは何?」
「お兄ちゃん、食べてもいい?」
「ワンワンワン!」
皆が同時にサーモンフライを口にする。
「…………」
「…………」
「…………」
一瞬訪れる無言の時間。
美味しくできているか、少し不安に感じる瞬間だ。
サクサク、モグモグと、三者の咀嚼する音が聞こえる。
「……美味しい。美味しすぎて食べるのがもったいない……。もう10体ほど、デビルサーモンを狩ってくるわ」
ローザの言葉だ。
たしかに美味しいものって、食べて無くなるのがもったいなく感じるけど、すぐそこにデビルサーモンが大量にまだ残っているでしょ。
川に向かおうとするローザを押しとどめる。
「上に乗っかってる黄色いのが凄く合ってる。悔しいけど、このサーモンフライの為なら一ヵ月ペットドラゴンになることもやむを得ないかも……」
マリンにも好評なようだ。
相変わらず大げさだけど。
なんだよ、ペットドラゴンって。
「ワンワンッ!」
シフォンは自分の分のサーモンフライをすぐに食べ終わり、俺の周りを駆け回っている。
もっと食べたいってことかな。
皆が喜んでくれて良かった。
魚の揚げ物は、多少の臭みとか気にならなくなるし、焼くとパサパサになりがちな魚の身も、旨みが閉じ込められるんだよね。
タルタルソースの程よい酸味も、サーモンフライにとても合っていた。
食材が巨大だったので、皆が満足するまで食べても、持ち帰る分も十分に確保できた。
まだ、巨大な魔物は怖くて慣れないけど、こうして皆で狩りに来るのは楽しいものかもしれないと思ったのだった――。




