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読んでくれてありがとうございます。ブクマ、評価もありがとうございます!



 疲れたような様子の精霊に思わず声を掛けた。


「大丈夫にゃん?」


 だけど、精霊は声が聞こえないのかふらふらと歩いていき、ある場所で止まった。不思議に思って後をついて行くと、そこにあったのは照明魔道具。その魔道具の前でふっと消える。


「にゃん!」


 驚きに目を見開いた。慌てて消えたところにあった魔道具の周りを尻尾を立てたままうろうろと歩いた。見るのが怖かったのもある。

 しばらくそうしていたが、息を飲むと思い切って覗き込んだ。


 恐ろしさに唖然とした。中に閉じ込めてあるのは先ほどの精霊だった。この魔道具の動力にされているようで、精霊たちは疲れてしまって、顔色も真っ白になり横になっていた。外に出ていたのはもしかしたら助けを呼ぶためなのかもしれない。この精霊を助け出そうと思ったが、徐々に精霊の姿が薄くなっていった。


「にゃん?」


 精霊が完全に消えてしまうと、ぱりんと球が割れた。


「にゃん……」


 精霊が死んでしまった。わたしは呆然と割れた球を見つめていた。

 

「こっちも死んじゃった!」


 一緒についてきた精霊たちの悲鳴があちらこちらで聞こえる。他の照明魔道具も皆で手分けして急いで確認するとどこも同じ。


 ぐったりと中で蹲っていたり、倒れてしまっていたり。ひどくなるとそのまま消滅。


 意識がある精霊はいないの?


 どくどくどくと嫌な耳鳴りがした。心臓が落ち着かない。

 内心、焦りながらも一つ一つ確認していくと、何とか意識のある精霊がいた。とんとんと優しく閉じ込められている球を肉球で叩く。その音に気が付いたのか精霊が顔を上げた。


「聞こえるにゃん?」

「……誰?」

「ここから出してもいいにゃん?」

「出られないよ」


 か細い声だ。ものすごく小さいから、きっと生まれてすぐに捕まってしまったのだろう。ぐっと力を注いで球を割る。ふわりと中にいた小さな精霊が出てきた。


「うそ、出られた」


 驚きながらも、恐る恐る飛んでいる。初めての外なのかもしれない。ゆっくりとこちらに降りてくる精霊にちょんと触れた。少しだけ、わたしの力を分け与える。ほんのちょっとだけれども、まだ小さい精霊には十分だったようで、顔色が明るくなった。


「良かったらどうしてこうなっているのか、教えて欲しいにゃん」

「よくわからないよ。生まれてすぐになんかここに閉じ込められて。この中にいると、体から力が抜けるんだ」


 やはり精霊の力を吸い出すようになっているようだ。壊した魔道具を見つめ、そっと精霊の入っていた球を退けてみた。

 中にはやはり何かの魔法陣が描かれている。魔法陣の勉強はしたことはないが、これが魔道具を動かすものであることは知っていた。この中のどこかに精霊から力を借りるためのものがあるのだと思う。


「お姫さま」

「精霊を使い捨てにするなんて、許せないにゃん!」


 怒りがぶわっとわいてきた。同時に悲しくて辛くて涙も溢れる。


 誰だろう、こんな使い方を始めたのは。

 生まれたばかりの精霊たちはこの魔道具に封じ込められて力を吸い出されているのだ。きっとここだけじゃない。王都全体に広がっているはず。田舎の町に住んでいたわたしはまだ見たことがないけど、このまま放置していたら田舎でもこれが当たり前になっていくのだと簡単に想像できた。


 精霊の力は精霊と契約をして初めて使っていい力だ。強制的に奪っていいものではない。少なくとも人間だった時のわたしはそう教えられた。だから、上位の精霊たちとも契約できたし、使いたいときには精霊の力を借りることができた。


「どうするの、お姫さま?」


 不安そうにこちらを見る精霊たち。これはわたしの力を使い果たしてもやるべきことだろう。


「一人は精霊王に報告に行ってにゃん。精霊王に判断してもらうにゃん。でも、精霊たちを人間達から引き揚げた方がいいかもしれないにゃん」

「僕が行ってくる」

「お願いだにゃん」


 人は悲しいことに便利なことに慣れてしまうとそれが当たり前になってしまう。だから学校でこれだけ使われているのだ。これほど王都で普及しているのなら田舎の方までこの魔道具が広がっていくのに時間はかからない。そうなってしまったら、どのくらいの精霊たちが犠牲になるのか。


「空に行くにゃん」


 そう一言いうと、空高く舞い上がった。空から王都を見下ろし、耳を澄ませる。じっくりと精霊たちの居場所を探った。魔道具に封じられている気配が小さいが確実に捉えることができる。


「よし、いけるにゃん!」


 対象は捉えられている精霊たち。その精霊たちの中で望んで魔道具になった者は外す。解放された精霊たちは力がもうないだろうから、そのまま眠らせ、精霊の森へと運ぶ。

 イメージはばっちりだ。


「精霊たちよ! おいでにゃん!」


 なるべく暖かく感じられる様に力を降り注ぎながら、弱った精霊たちを呼び寄せる。小さな光の玉がいくつもいくつも舞い上がってきた。一体どれほどの精霊がいるのだろう。小さな光は一塊になるとやや強い光となった。だけど、その光には力がない。


「こちらにおいでにゃん!」


 わたしの周りに沢山の小さな精霊たちが集まってきた。皆疲れ果てていて動けていないが、とくとくと生きている音がする。ちょっとずつ、わたしの力を分け与えると、皆、少しだけ顔色がよくなってきた。命の危険がないと分かったところで、力を与えるのをやめる。


「この子たちを精霊の森で休ませてあげてにゃん」


 近くにいた精霊にお願いすると、すぐにくるりと泡に包まれてふわりとどこかに消えていった。


「うにゃにゃにゃ! これで丸っと解決だにゃん!」


 ふんと鼻息荒く叫ぶと拳を振り上げた。猫手だけど。


「お姫さま、頑張ったね!」

「よかった、皆助かった」


 口々に精霊たちが言う。


 今後こんな使われ方がしない様に、この王都の、いやこの国の精霊たちに言葉を伝えた。


 今いる精霊たちにも警告を。

 今まさに生まれてしまった精霊たちには不安がある様ならある程度育つまで精霊の森へ。

 これから生まれようとしている精霊たちにも50年の眠りを。


 もし。

 この国以外の人間がこんなことをし始めてしまったら。


 恐ろしさにふるりと体を震わせた。きっとわたしは迷いなく精霊たちの住まう場所を隔離してしまうんだろう。精霊たちの力を借りられなくなった人間達がどれほど困るか、知っていながら。

 コンラッドの困ったような顔が思い浮かんだ。精霊魔法が使えなければ、治療ができなくなる。目の前で苦しんでいる人を見ているだけになるのだ。わたしも精霊魔法で治療をしていた。どれほどのことであるかなんて、痛いほどわかっている。


 でもね。

 精霊を殺してまで使っていいとは思わない。


 だから、人間達が精霊を道具のように使わずにいるようにと願う。

 そんな未来が来ないことを祈りながらも、近い未来、そうなってしまうような気がした。





 ……。





 って、そうじゃない!



 わたしの第一目標は愛溢れる手紙の隠滅だった!




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