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読んでくれてありがとうございます!
どうしよう。
意気込んで配達屋に行ったが、行き違いでもう出てしまった後だった。もちろん。わたしの送った手紙は普通であったから、残っている可能性があったのだが。配達屋の側に漂っている精霊に聞けば、やはり気を利かせてまとめて持って行ったらしい。
こうなれば、早く王都に向かって学校で受け取った後にこっそりと抜き取るしかない。読むとしたら、分厚いわたしの手紙よりもまず訃報の方だ。そして慌てて帰ってくるから、わたしの手紙は後回しになるはず。
よし、行ける! 大丈夫だ。ノエルが読む前に破棄できる。
とにかく急いで王都への道を進んできた。精霊だから、とてつもなく早い。風に乗り、すいすいと進んでしまう。
普段なら2日かかるのに、わずか数時間でたどり着いた。あまりの速さに、驚いてしまった。
「本当ならもっと早く行けるよ!」
そんなことを教えてもらいながら、王都に入った。精霊だし、姿を隠して見えないから、チェックを受けずにそのまま門から入る。
「にゃふ~!」
入ってすぐに目を見張った。
見るからに立派なお城と、城下町、外壁、治安を守る騎士団。
なんか、住んでいた町とは違う。少し気後れしながらも、きょろきょろと周りを見てみた。
ノエルの学校、どこ?
わたし、ノエルが何という名の学校に入ったか知らなかった。町と同じで学校といえば一つしかないと思っていたのだが。
だけど、ここは王都。どうやら沢山あるらしい。
屋根の上に座り、しょぼりとしながら街を見回してみた。もちろん、それっぽい建物がないかなと期待して、だ。
「残念! ねえ、急がないとまずいんじゃないの?」
「こういう抜けたところがお姫さまだよね!」
精霊たちが寄ってかかって、可愛い生まれたての黒猫にきゃらきゃらきゃら。
「うるさーいにゃん! 揶揄っている暇があるなら、ノエルの学校探してにゃん!」
「えー?」
一斉に皆首を傾げ、顔を見合わせた。突然、波が引くように静かになったので逆に驚く。
「なんだにゃん????」
「ノエル、精霊と契約していないでしょう? 場所、わかんないよ?」
「にゃん……」
そうだった。わたしは精霊に好かれやすく、自分の魔力を使う魔法よりは精霊魔法を使うことに長けていた。逆にノエルは精霊に嫌われていて、魔力が膨大にあったから自分の魔力を使った魔法を主に使っていた。だから、精霊たちがノエルを探すことができなくても不思議はない。
「にゃんにゃんにゃん!」
「にゃんにゃんにゃん???」
精霊たちにわたしの言いたいことが分かってもらえず、少し落ち込んだ。気を抜けばすぐににゃんしか言えないのはどうにかならないのか。
「違うにゃん! ノエルを知っている精霊を探すにゃん!」
「ああ、そういうこと? でもノエルの行った学校って精霊魔法じゃなくて普通の魔法の学校でしょう? 精霊、少ないんじゃない?」
盲点だった。
王都の街の屋根の上で項垂れた。
わたしはただ、ノエルに送った愛の手紙を回収して、さよならを遠くから告げて、精霊たちの森へと移動したいだけなのだ。それだけなのに、最初から躓くとは。ノエルのいる場所が分からなければ、一つしか叶えられない。
「ねえねえ、この際、呪いの手紙、放置したら?」
「そうだよ。約束を破ったノエルなんて、死ぬまで後悔したらいいんだ」
「呪いの手紙、捨てても燃やしても呪われそうだよね」
精霊たちの言葉は慰めなのか、貶めているのかよくわからない。
「あの分厚さはちょっと引くよね」
「本当だよ。きっと過去のことから現在のことまで書き連ねているんだよ」
「あはは、やっぱり呪い?」
何が呪いの手紙だ。愛の手紙と言え。ノエルがあの手紙を読んだらきっと溢れる愛に号泣するはず。
しょんぼりとしていると、なんだか緊迫感のある感じがした。思わず顔を上げ、きょろきょろとあたりを見回した。
「どうしたの? お姫さま」
「なんだか、怯えているような変な気配があるにゃん」
ひくひくと鼻を鳴らすと、かすかだが精霊の匂いがする。
「なんだかとっても弱っているね?」
精霊たちもくるくると飛び回り、その気配を探った。
「やばいにゃん」
見つけたのは。
精霊を狩っている人間だった。
******
どうして、とか。
何で、とか。
そんなことは無意味で。
「やるときはやるにゃん!」
にゃんが気に入らないが、元は人間、今は精霊!
でも、今は全面的に精霊の味方だ!
なんだかよくわからないが、精霊に生まれ変わってからかなり意識が精霊側になっている。きっとそういうものだろうけど、不思議と精霊を身内と考えてしまう。
追い込まれている精霊たちはまだ生まれてさほど時間が経っていないのだろう。人間達の魔力で簡単に囲い込まれていた。戸惑いながらも逃げ惑う。
こんな風に精霊を捉えるなんて、知らなかった。心の底から沸き起こる怒りに、わたしは小さな精霊たちを助けるだけでは気が済まない。
「いいにゃん? わたしがあの子たちを保護するから、その後は精霊の森に連れて行ってあげてにゃん」
「わかったー。人間達はどうするの?」
精霊がくるくると楽し気に聞いてくる。
「もちろん、お仕置きだにゃん!」
「心が折れるものがいいよね?」
「はいはい! 僕は性別が逆に見える呪いがいいと思いまーす!」
「あと、痛いのが趣味とか!」
「知らない人にお金が上げたくなるとか?」
なんとも言えないお仕置きの提案に、わたしの方がドン引きだ。
「え、普通のお仕置きはないにゃん?」
「十分普通でしょう? 生活、ちゃんとできるし」
「ねー!」
どうやらそのあたりは精霊らしいと言えば精霊らしい。人間でいう世間体とか、常識とかには捕らわれていない。精霊狩りをしていた人間達を観察した。魔力がそこそこあるところを見ると魔法使いで間違いない。そして皆それなりの年齢で、それなりの身なりで、それなりにおじさんだ。
うん、まったくもって良心は痛まない。
「まあ、最初だし。皆の意見を採用しようにゃん」
そういって、精霊魔法を彼らに掛けた。
「なんか容赦ないよね」
「本当! めちゃくちゃ悪いことして呪われていますって感じ」
「……君たちの意見を取り入れた結果だからにゃん」
不本意な言葉につい言い訳をする。精霊たちはため息をついた。
「どれか1つなら、ねえ?」
「どうして全部入れたの?」
「不公平、よくないにゃん」
何がダメだったのか。
性別が逆に見えて、痛みが心からの喜びに、お金は孤児院へ全額寄付、そして魔力の全てを死なない程度に精霊たちに一週間送り続けるようにしただけだ。ちなみに、一週間だけは病欠が使えるようにちゃんと病気に見えるようにもしている。
流石、元人間。
フォロー凄い。
気遣い、完璧!
それと、おまけに花の呪いを。常に鼻の穴から花が咲く呪いだ。鼻にするか耳にするか、とても悩んだが今回は鼻にした。花だけに。
しかも、切るとさらに本数が増えるという優れもの。何の花が咲くかは咲いてからのお楽しみだ。花によってはかなりの人気者になること間違いなし。
これこそ、精霊の真骨頂!
完璧じゃないか。命に別状はない。
「ねえ」
ぎゃんぎゃんと結果を話し合っているところに声を掛けられた。驚きに固まってしまう。
わたし達って、精霊だよね?
恐る恐る振り返ると、そこには薄い茶色のふわふわの髪をした13歳くらいの女の子がいた。
「ねえ、君たち精霊?」
「見えているの?」
「見えているにゃん?」
なんで見えているんだ!
全員して逃げようと顔を見合わせたところ。女の子が慌ててわたしの尻尾を掴んだ。
「待って、待って! 精霊さんを助けてくれてありがとう、って言いたかっただけだから!」
「だったら、その手を離すにゃん!」
逃げられない様にわたしの尻尾をがっちりと抑え込んでいて何を言っているんだ、この少女は。
私の中では精霊=猫です!
しゃべる犬より、しゃべる猫派。うーん、色々なアニメの影響かな。。。
11/11 すみません。名前変えました。セシル→ノエル