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驚いて唖然としているノエルを見て、わたしはぽんと掌を叩いた。
「ノエルに言うの、忘れていたにゃん」
「だろうな。初めて聞いた」
ノエルはため息をつくと、宙に浮いているわたしを引き寄せ、抱き込んだ。精霊たちも立ち上がり、どうするべきかとわたしの指示を待つ。
「色々忙しくて、言うのをすっかり忘れていたにゃん」
えへへへ、と気が抜けたような笑みを向けてみる。ノエルは脱力したようだが、すぐに呆然とするパトリシアと生徒たちをちらりと見やった。
「どうするんだ、あいつら」
「どうにもこうにもないにゃん」
わたしもにこにこして彼らを見た。ノエルもどこかほっとしているようにも思えるが、そんなに単純な状況じゃない。彼らはここで怒っても許されるのだ。申し訳ないな、と内心謝りつつノエルに言う。
「3人の気が済むようにすればいいにゃん。さっきはこれ以上力を使ったら存在するのが難しくなりそうだったから止めただけだにゃん」
偉いでしょう? と胸を張った。ノエルは顔を強張らせ、ぐいっとわたしの頬を引っ張った。扱いがひどい。一応、次代の精霊王なのに。変わらぬ扱いに不満に思いながらぶんぶんと手を外そうと暴れた。
「……俺はこの騒動を止めて欲しいんだが」
「無理だにゃん」
「ここにいる奴らはほとんど関係ないのに?」
「そうだにゃん。これは見せしめだにゃん。盛大に報復するにゃん!」
ノエルが思わず頭を抱えた。わたしは3人の精霊たちに好きにしてもいい、と告げる。
その場に居合わせた生徒たちは一様に顔色を悪くした。自分たちには非がないが、それが通じないと分かったからだ。その上、精霊たちは万全にまで回復している。先ほどの状態でも逃げられなかったのにだ。
「おい、お前が発端だ。お前がどうにかしろ」
ノエルは青ざめて立っているパトリシアに振った。精霊たちの視線が彼女に向かう。
「何でわたしが」
「そもそも何でそんな魔法石を沢山身に着けているんだよ」
「……」
パトリシアは悔しそうに唇を噛み締めた。ぎらぎらとした目を精霊たちに向けている。わたしは彼女の態度を見て、感心した。
ものすごい精神力だ。ある意味尊敬する。
「精霊など、わたしのために使われていたら……」
最後まで言葉にはならなかった。ごうっと風が彼女の脇をすり抜けたと思ったら、髪がはらりと舞う。長い髪が切られたのだ。
「精霊がなんだにゃん?」
先ほどのお道化た感じとは違う。
ノエルはわたしの変化に息を飲んだ。髪を切られたことに気が付いたのか、パトリシアの顔に怒りが浮かんだ。
「この、精霊ごときが!!!」
激高した彼女は自分自身の魔力で攻撃しようとする。わたしはその様子を冷静に見つめていた。そして向かってきた魔力を尻尾一振りで消す。
「残念仕様な女だにゃん。精霊を見下すには実力も何もないだにゃん。哀れすぎるにゃん」
とんと、ノエルの腕の中から抜け出ると、地面に軽やかに着地する。一歩一歩とゆっくりとパトリシアに近づいた。パトリシアは少しづつ、後ろに下がる。
「何故、精霊が人間達に使われないといけないにゃん? 弱い人間など、精霊がいなければ生きていけないにゃん」
「そんなわけ……」
パトリシアは気圧されながらも、言葉を紡ぐ。
「病気になったら治療魔法、瘴気が溢れたら浄化魔法。精霊魔法が使えなかったら、使えないにゃん。一度試してみたらいいにゃん」
あと一歩、という処で、わたしは誰かに抱き上げられた。ノエルではない。優しく喉を撫でられる。
「そこまでにしてもらいたい」
「オスカー」
わたしは驚きに目を丸くした。ここは魔法学校だ。いつもはいない人の登場に驚いた。どうやら誰かがオスカーに連絡したようだ。
オスカーはかなり急いで駆け付けたのか、少し髪が乱れていた。その後ろから数人の騎士も付いてきている。オスカーはわたしを抱いたまま、パトリシアをひたと見つめた。
「パトリシア・ダリル。騎士団まで来てもらおうか」
「わたしが何をしたというのです?」
やや取り乱しながら、オスカーに反論する。オスカーはため息をついた。
「この騒動の元は君だろう?しかも中位以上の精霊を3人も不当に使って。言い訳は騎士団で聞く」
言うだけ言うと、騎士に仕草で指示する。大声で喚き散らしながら無駄な抵抗をするパトリシアをものともせず、騎士達が引きずる様に連れて行ってしまった。彼女がこの場からいなくなると、途端に静かになった。
「さて、と」
疲れたようなオスカーはわたしを目の高さまでに持ち上げた。真正面から目を覗き込み、軽く頭を下げる。略式ではあるが謝罪の意を示すものだ。
「次代の精霊王さま。大変失礼しました。この度の件、大変お怒りかと思いますが……」
わたしの毛がぶわっと逆立った。
「どうしたにゃん!!! 何か悪い病気にゃん??? わたしが治してあげるにゃん!!」
「ヴィー……何故そうなる」
「だって、オスカーが王族っぽいにゃん。きっと悪いものを食べたに違いないにゃん」
ノエルの問いに、あわあわと答える。ノエルにはやれやれといったような、ため息をつかれた。
「オスカー殿下。やめてあげてください。ヴィーがおかしくなる」
「うん? 一応、次代の精霊王さまに敬意を表したのだが」
オスカーは頭を上げると、くすくすと笑った。いつもの態度に戻ったオスカーにほっとする。持ち上げられたまま手を伸ばして、目の前にあるオスカーの頬をぺたぺたと触った。その間に、オスカーは胸元にわたしを抱きなおし、優しく耳を擽っていた。
おおう、その撫で方はやめて欲しい。確認に集中できない。
ついついゴロゴロなりだした喉に叱咤しながら、オスカーを確認する。別に病気ではなさそうだ。
「次代の精霊王と言ってもまだまだ先にゃん。それに、何故か今は猫だにゃん」
「何故、猫なんだ?」
ノエルも不思議に思ったのか、聞いてきた。わたしは首を傾げ、くるくると回っている精霊たちを見た。
「誰か知っているにゃん?」
「成長不足じゃない?」
「精霊王の趣味」
なんだか、理由はよくわからないようだった。ノエルはオスカーからわたしを受け取りながら、放心状態の生徒たちを見る。
「彼ら、帰してもいいですか?」
「ああ、いいよ。君たち、お疲れ様。もう帰っていいよ」
オスカーが生徒たちを正気に戻すようにパンパンと手を叩いた。呆然としていた生徒たちがのろのろと動き出す。それを確認してから、ノエルとオスカーが歩き出した。
「ヴィーにお願いがあるんだ」
「何だにゃん?」
「今回の騒動に関わっている連中を捕まえているんだ。そいつらを集めた場所に来て欲しい」
わたしをじっと見つめ、真剣に告げてきた。いつも通りのようで、少し緊張しているようでもあった。
「オスカーは好きだからいいにゃん」
「多分、ヴィーを呼ぶのは私じゃなく兄だ」
「お兄さん?」
首を傾げる。会ったことがあっただろうか?
「うん。国王だね。謝りたいんだって」
「別に国王が悪いわけじゃないにゃん。謝らなくても別にいいにゃん?」
「そうはいかないだろう? 親が悪くなくても子供が悪さをしたら、親が代わりに謝るんだし」
そう説明されると、なんとなくそんな気もしてきた。
「呼ばれたら行けばいいにゃん?」
「そうだよ。私も一緒に行くけど」
「ノエルは?」
「もちろん、一緒だ」
それならいいか、と頷いた。
オスカーの兄だ、きっと悪いことにはならないんだろう。
例え、なったとしても。
それはその時だ。
あと少しで完了です。最後までお付き合いしてもらえたら嬉しいです。




