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18 - ノエル -

いつも、読んでいただきありがとうございます!本当に本当に、ブクマも評価もありがとうございます。


いつもより少し短いです。



「なんなの、あんたたち」


 パトリシアが呆然として呟く。立ち尽くしている彼女は現れた精霊をただ見ていた。3人のうち、一番背の高い精霊がバカにしたようにくつくつと笑った。


「なるほど。己の魔力の足りなさを、我々の力で補っていたのか」

「何を言って……」

「ほう。とぼけるのか。お前は精霊を捉えらえるほどの魔力などない」


 パトリシアが怒りの形相で対峙する。握りしめた拳が怒りのためか、わずかに震えている。


 まずいな。


 彼らの会話を聞きながら、どうしようかと考え巡らせる。

 断片的な情報から、彼らの力をパトリシアが利用していたことがわかる。魔法石が壊れて怒気を纏いながら現れたところを見ると、あまりいい方法ではない気がする。どちらかというと、不意打ちとか騙しに近い方法とか。一体、どんな魔法陣に封じていたんだ。あの様子だと心地よい環境ではなかったのだろう。


 そこまで考えると、頭が痛くなった。


 どう収めろと言うのだ。無理に決まっている。


 ここで初めてオスカーの嘆きが理解できた。

 どうにもできない。俺も精霊の言い分の方が正しいと思っている。かといって、このまま何もしなければ目も当てられないほど、ひどいことになる予感がする。精霊たちの怒りは関係ない人を巻き込んでも収まらないような気がした。下手をしたら王都ぐらいは吹っ飛ぶのではないか。そんな心配まで出てくる。


 精霊たちを見つめ、焦りながらどうするべきかを考えた。考えるが、考えているだけだ。どんなに思い巡らせても、精霊の気持ちを宥めるだけのものが何もない。人生経験が乏しいせいなのかとも考えたが、それはないと考え直した。例えばここで貴族社会で生き抜いてきたオスカーがいたとしても、何とかできるとは到底思えない。


 自由気ままな精霊たちが望まぬ拘束をされ、永遠と力を吸い取られていた。その怒りはいかほどなのか。すでに、ごめんなさいという言葉で済む問題ではないのだ。


「さて、代償を払ってもらおうか」


 精霊が一歩前に出た。残りの二人は傍観を決め込んでいるのか、止めることもなくただその場で成り行きを見守っているようだ。


 パトリシアが思わず一歩後ろに下がった。


「何よ、何が悪いっているのよ! 使えるものを使って何が悪いのよ! それにあなた達が捕まったのはわたしのせいじゃない。わたしは魔法石を買って使っただけだわ」


 彼女はきっと睨みつけ、鼻息を荒くして言い切った。


「バカだ」


 思わず、声が漏れた。

 魔力も標準以下の頭の悪い令嬢はこれでもかというほど精霊たちの神経を逆なでた。知らないなら知らなかったと、無知であることを認め、真摯に謝ればまだ可能性があったかもしれないのに。


 これはない。


 謝るどころか、捕まった方が悪いとまで言わんばかりだ。当然、精霊たちの気配が剣呑なものに変わってくる。怒気が殺気に変わるのもそう時間はかからないだろう。


 もうなるようにしかならないと、覚悟を決める。できることは、防衛魔法を展開するくらいだ。精霊3人相手にどこまで通じるかはわからない。腰が抜けて動けない生徒たちを確認した。

 そこまで広げるとなるとあまり魔法を維持できない。離れたところにいる生徒を見捨てれば、もう少し持つかもしれない。

 忙しく視線を動かしながら、割り切れずにいた。助ける義理などないのだが、どうしても見捨てる選択肢が選べない。


「そこまでだにゃん!!!」


 ぱっと現れたのは、幾つもの小さな光を従えた子猫。


 精霊の頭にべったりとへばりついた。今にも制裁を加えそうだった精霊は動きを止めた。突然現れた猫に驚いたのか硬直している。


「ヴィー」


 相変わらずな彼女の登場にどっと力が抜けた。その場を支配していた糸を張り詰めたような緊張感が少しだけ緩んだ。ヴィオレッタは俺を見つけると、嬉しそうに尻尾を少しだけ振った。そして、すぐに頭にへばりついた精霊の目を覗き込む。


 笑っていいのかどうなのか、見ている方が暴力的な絵だ。端正な精霊の顔に猫が張り付いているのだから。


「ごめんにゃん。着地失敗したにゃん」


 ヴィオレッタはどんな風に見えるのか全く頓着せず、頭の上から覗き込むように精霊の顔を見て謝っている。ヴィオレッタにへばりつかれた精霊はどう反応していいのかわからないのか、戸惑っているようだ。


「これ以上力を使ってはダメだにゃん。存在が消えてしまうにゃん」

「わかっている。だが、このまま捨て置けない」

「どうしても許せないにゃん?」


 ヴィオレッタが少し首を傾げて、精霊たちを見る。精霊たちは頷くことも表情を変えることもしなかったが彼らの気持ちは痛いほど伝わってきた。それは彼女も同じだったのだろう。やれやれと言わんばかりにぽんぽんと精霊の頭を叩く。


「わたしが治すにゃん。治したら少しは手加減してくれるにゃん?」

「しかし、これは許されないことだ」

「わかっているにゃん。でも体調が悪いから、物事、暗く捉えがちにゃん。きっと治ったらもうちょっと違う考えも浮かぶにゃん」


 一言そう言い、頭の上で姿勢を正すとふんと猫の手を天に突き出した。突然ふわりと優しい光が溢れる。


 一瞬の出来事。


 光が収まると、3人の精霊から殺伐とした空気が消えている。本来はとても穏やかで優しい存在なのだろう。その場の空気が清浄になっていく。どこか薄暗い感じであった存在が、ふわりと明るさを持った。


「どうにゃん? 辛いところはないにゃん?」


 ヴィオレッタは穏やかになった精霊たちをかわるがわる見る。精霊たちはほんの少しだけ笑みを浮かべた。ヴィオレッタも顔色が明るくなった精霊たちに嬉しくなったのか、ニコニコ笑顔だ。

 心身ともに癒された精霊たちはすっと膝をついた。一人宙に残されたヴィオレッタは首を傾げてた。


「癒しをありがとうございます。次代の精霊王」

「あなたの誕生に祝福を」

「これから良しなに」


 精霊たちの言葉に、唖然とした。


「次代の精霊王……?」


 誰がだ?


「こちらこそ、よろしくにゃん!」


 え? ヴィオレッタ???



ようやくヴィオレッタが次代の精霊王だとバレました。はあ、長かった

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