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いつも読んでいただき、ありがとうございます。ブクマ、評価もありがとうございます!


驚きと共に嬉しさで踊ってしまいそうです。


 正直言ってこんな面倒になるなら、さっさと精霊の森へ帰ればよかったと後悔していた。


 一人残された部屋で、ここ数日の出来事にため息を漏らした。

 ノエルは退学するための手続きと、退寮するための手続きに事務方を回っている。猫を連れて歩くわけにはいかないから、こうして彼の部屋で大人しく帰りを待っていた。気が利くことに、ノエルはテーブルにおやつまで用意してから出かけて行った。

 小さく切ったおやつを口に運びながら、久しぶりの一人の時間の思いっきり物思いに耽る。


 わたしは単純にノエルへの手紙を回収して、死んでしまってごめんなさいを言って、精霊の森へと行くつもりだった。


 なのに、現状はノエルにこうして捕まってしまっている。

 愛溢れる手紙もどこに片づけているのか、よくわからない。

 精霊の森への移動は……まあ行く気があれば一瞬で行ける。


 精霊狩りのことは気が付いてしまったから、助けただけだ。もし気が付かなかったらそのままだったろう。

 そして知らないうちに精霊たちがこの国からいなくなるという、訳の分からない状態に直面している。別にわたしがどうこうできる問題ではないのだけど。精霊王に伝えてとお願いしたのはわたしだから、精霊王にもう少し手加減してとは言えるとは思う。


 言うだけだけど。


 確かに精霊を狩っていた人間を懲らしめたいとは思う。だけど、その人たちを懲らしめたとしても同じことを考える人間はすぐにでも出てくる。


 基本的に精霊は信頼関係を持っている相手とだけ契約をし、加護なり、祝福なり与えればいいと思う。助けてあげたい人間に力を貸すことはおかしいことではないはずだ。わたしだってノエルが困っていたら助けてしまう。


 現状でも信頼関係のない精霊を使役している人間には加護も祝福も与えられていない。ただ従わせているだけ。今まではあんな魔道具の動力にしようという考えを持つ人間がいなかったから、それだけで済んでいた。だけど、精霊を捕まえ、魔道具の部品にしてしまう考えが出てきたのなら、今後はそうなっていくのだろう。


 簡単に精霊が人間に従えないようなものにしない限り、とてもじゃないが安心できない。


 やはり、精霊だけの場所が必要なのかもしれない。一時的にでも精霊たちと契約ができなくなり、精霊魔法が使えなくなればきっとこちらの言い分も通りそうな気がする。精霊魔法が使えないことがどれほどのことなのか、一番気が付くのは……。


「にゃん?」


 瘴気が発生した時に精霊がいなかった場合が一番効果的?


 そこまで想像して顔を顰めた。精霊が手を貸してくれなくても、魔法師団は浄化任務に向かうだろうし、騎士団は狂った獣を狩りに行くだろう。精霊魔法が使えないことでその被害は想像を絶する。


 もしかしたら、両親たちの時よりもひどいかもしれない。あの時は確かに魔法師団と騎士団の前線へ行った人たちがほぼ全滅という最悪な状態であった。だけど、彼らは国を、街を、民をちゃんと守った。


 だが、あの時と同じくらいの規模の瘴気が発生した場合。

 いや、精霊魔法が使えないのだ。瘴気が発生して浄化が必要となったぐらいでも、どれほどのことが起こるのか。


「わたしは間違っていたにゃん?」


 急に自分の行動に自信が持てなくなった。今は精霊なのだから、精霊のことだけを考えればいいと思っていた。割の合わない種族なので、対等になれるチャンスがあるなら対等になった方がいいに決まっている。


 初めて魔道具に捕らわれている精霊を見た時は頭に血が上っていて、人間が困ったっていいと思っていた。精霊魔法が使えないことで、病気やケガを治療できなくなるけど仕方がない、と考えた。治療魔法が使えなくとも、それなりの医療はあるし、薬だってある。助からない人が増えるだろうが、助かる人もいる。だから気にならなかった。


 でも、瘴気のことは。

 精霊魔法が使えないことで浄化が難しくなるのは理解していたが、その状況であっても魔法師団や騎士団がどんな対応をするかまでは考えていなかった。


 不意に、お父さんとお母さんの笑顔が浮かぶ。


 お母さんはすぐに帰ってくるから、コンラッドのところでいい子で待っていてね、とキスをしてくれた。お父さんは大きな手でわたしの頭を撫でながら、戻ってきたら一緒に遊びに行こうと約束してくれた。


 二人の約束は守られることはなかった。

 いつまでも、いつまでもお父さんとお母さんが帰ってくるのを待っていたのに。

 二人とも遺体すら戻らなかった。


 それはノエルも同じ。二人で夜遅くまで玄関で待っていた。手を繋いで、冷えた体を寄せ合って。わたしが先に泣いていたから、ノエルは泣くこともしなかった。ただただ、ぎゅっと不安げにわたしを抱きしめていた。


 きっと精霊魔法が使えなくても、ノエルだけでなく、オスカーもブライアンも瘴気が押し寄せてきたら迷うことなく行ってしまうのだろう。大切な人を守るために、街を守るために。

 彼らが守りたいと思っている大切な人たちは、わたし達と同じようにいつまでもいつまでも、帰ってくるのを祈りながら待っているのだ。


 悲しく辛い記憶に、体を震わせた。ふるふると首を振り、嫌な記憶を振り払った。例え、あの時に精霊王に伝えなくても遅かれ早かれ同じことになっていたと思う。


 そう慰めてみても、どうしても心がばくばくした。取り返しのつかないことをしたんじゃないかと気持ちが落ち着かない。

 持て余した気持ちについ涙が零れそうになった。


「とりあえず、手紙だにゃん」


 無理に明るく言葉を吐きだすと、勢いよくぽんとベッドから床に降りた。

 うろうろと部屋歩き、片づけていそうな場所を開いては閉じる。勉強用の本やノートは出てくるのに、肝心の手紙はどこにも見当たらない。


 持ち歩いているのとは思えないのだが……。今度は普段使っているであろう鞄を引っ張り出すと、中を漁った。中から出てきたのは、やはりノートと本、それに筆記用具。お菓子まである。


 だけど、それだけだ。

 広げた鞄の前でうーんと唸った。


 やっぱり持ち歩いている??

 

「お姫さま」


 ふわりと精霊が出てきた。久しぶりに表れた彼らにちょっと嬉しく思いながらも、不満そうに顔を膨らませてみせた。


「久しぶりにゃん。わたしを放って、みんな、どこにいっていたにゃん?」

「あのね、ちょっと手伝って欲しいことがあって」


 精霊たちは特にわたしの不機嫌さを気にすることなく、くるくると辺りを回る。小さな光が忙しく瞬いていた。


「手伝って欲しいことにゃん?」

「そう。助けて欲しいの」


 助けて欲しい、と言われて首を傾げた。精霊たちが積極的に助けに入るのは、かなり気に入った人間か同じ精霊の場合だけだ。


「困っている精霊がいるにゃん?」

「うん。ようやく見つけたの。死ぬことはないとは思うけど、かなり衰弱していて。このままだと色々まずいかも」


 何が、とは言わなかったし、わたしも聞かなかった。聞かない方がいいことがあるのだ、この世の中は。

 でも、聞かなかったことを後悔することもそこそこの確率でこの世の中にはある。


 そして、わたしは聞かなかったことに後で思いっきり、悔いることになる。





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