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10 - オスカー -

ブクマ、評価ありがとうございます!!


 王城の一角にある魔法師団の執務室につくと、ばさりと上着を脱いだ。楽なシャツ一枚になって、さらに上のボタンも外す。そして、窓の外をみた。今は外は真っ暗で、遠くに見えるほのかな光と月明りがあたりを照らしている。


 大量の光が夜の空にふわりと舞い上がったのを昨夜、この部屋の窓から見ていた。驚きのあまりにただただ見ていただけだった。魔法師団の団長を務めながら幻想的な光景に動くことができなかったのだ。

 これが瘴気だったらすぐに対応できただろう。部下に指示し、魔法師団だけでは手に負えないようであれば騎士団にも要請し。

 だが、目の前に繰り広げられたのは、見入ってしまうほど美しい光景。ふわりふわりと小さな消えてしまいそうな光が何百も、何千も揺らめいて空に向かって浮き上がっていった。

 ぱりんという甲高い何かが割れる音がした後、残されたのは真っ暗な静寂。


 何が起こっているのか、正直理解できなかった。照明魔道具が壊れ、真っ暗になった外では混乱と恐怖の声が響き渡っていた。理解できない出来事に呆然としていた。


 何が起こっているのか、教えてくれたのは私の契約している精霊だった。彼は困ったような顔をして、王都で何が起きたのかを教えてくれた。


「オスカー」


 ふわりと現れたのは、私に事態を教えてくれた精霊だ。今は契約を凍結されている。見た目は私と同じ年齢ほどの男性の精霊だ。


「やあ、セド」

「あまりよくはなかったようだね」


 セドは単刀直入に聞いてくる。ため息をついて、窓際から移動して、長椅子に腰を下ろした。


「ああ。王都から精霊が消えていた。それと街中の照明魔道具は、精霊を使った道具が7割を占めていた。これだけの量が置き換わっているんだ。気が付かないところからやられていたようだ」

「魔道具を作っている人間は見当がついたのかい?」


 セドは向かいの席に座ると、そう尋ねた。


「ああ。まだ疑わしい程度だが」


 歯切れの悪い返答に、セドは笑った。


「ふうん。どうやら身内の様だね。これからが大変だ」

「君はどうするんだ? また俺との契約をしてくれないのか?」

「それは難しいね。精霊王が殊の外、お怒りだから」


 精霊王、と聞いて、私は頭を抱えた。どうやら知らないうちに精霊王に喧嘩を吹っかけていたようだ。


「何故人間達は精霊を利用するんだろうね? お互い支え合えればこれほどいい組み合わせはないのに」


 ぽつりと呟くと、セドはふっと掻き消えた。残された私は大きく息を吐いた。


「参った」


 精霊王が怒っているということは、簡単には収束できないだろう。精霊王など誰も会ったことがないのだ。どうやって収めればいいんだ?

 こめかみをぐりぐりと揉んでいると、ノックの音が響いた。


「入れ」

「失礼します。資料をお持ちしました」


 入ってきたの沢山の資料を持ったイサルだ。イサルはだらしなく着崩して座っている私に眉を寄せる。


「せめてシャツのボタンくらい留めてください」

「いいじゃないか。今日は疲れた」


 ため息交じりにイサルは資料を執務机に置くと、部屋の隅にある酒を取り出した。おや、と思い時計に目をやる。まだ21時だ。


「まだ時間が早いぞ?」

「今日は特別です。どうぞ」


 特別という意味も分からなくもない。今日ほど忙しく、何もめどが立っていないのも珍しい。


「お前も座れ。今いい話を手に入れてな。誰かに喋ってしまいたくなっていたんだ」

「結構です。俺は知らなくても問題ありません」

「そう言うな。精霊がいなくなった原因がわかったんだぞ?」


 精霊、と聞いてイサルが驚きの表情を見せた。


「聞きたくなっただろう?」


 にやにやと笑ってイサルの反応を楽しむ。彼は驚きの表情の後、眉間に皺を寄せた。そして10秒ほどしてふうっと息を吐く。


「聞きたくありませんが、聞かないといけないんでしょうね」

「ご名答。それでだ。この国から精霊がいなくなったのは精霊王がお怒りになっているためだ」

「は?」


 イサルは意味を飲み込めずに放心した。


「ふむ。やはり驚くよな。精霊王が怒っていて、この国の精霊たちは皆手を引いた、と言われた」

「誰にです?」

「契約していた精霊のセドだ」


 あまりにもはっきりした情報入手先に、イサルが体から力を抜き、珍しく長椅子に背を預けた。


「これは、解決するのは無理です」

「そうだろうな。明日、陛下に報告する」


 ため息をついて、酒を呷った。


「最悪、国が潰れるだろうな」

「簡単に言わないでくださいよ」

「精霊魔法が使えないなんて、瘴気が大量発生したら目も当てられん」


 笑いしか出ない。瘴気を浄化するには精霊魔法が必要なのだ。浄化しなければ、動物は獰猛な獣になり、人間は死に至る。この国の者は他国へと逃げていくことだろう。逃げた先で受け入れてもらえたらいいが。この国の人口はこの大陸でも5本の指に入るほどだ。他の国がその難民を受け入れらるとは思えない。


「はあ、どこのバカ者だ。精霊王を怒らせるなんて」

「一層のこと、引き回しして拷問を加えて生きたまま献上したらいいんじゃないですか?」

「そうだな。それもアリだな」


 破れかぶれになって笑った。


「何笑っているんだ」


 ノックもなしに扉があいた。第2騎士団団長であるハーヴェイ・キートンがのっそりと大きな体で入ってきた。私とは同じ年で何かと一緒に仕事をしてきた。信用している一人ともいえる。ただ、その大きな体躯と厳つい顔立ちで恐れている人間の方が多い。


「やあ、ハーヴェイ」

「珍しいな。オスカーがそんな状態になるなんて」

「なりたくもなるさ」


 ふふふ、と楽しげに笑うと、イサルにグラスと酒を出すようにと指示する。イサルはさっと立ち上がり、グラスに酒を注いでハーヴェイの座った席の前に置く。


「何があったんだ?」

「聞いて驚け。精霊がこの国からいなくなるぞ」

「は?」


 ハーヴェイが間抜けな顔をした。その表情が珍しく、面白い。


「どうやら我が国のバカ者たちは精霊王を怒らせてしまったようだ」

「マジか」

「ああ。どうにもこうにもならんな」


 グラスの酒を一気に呷った。いつもなら仕事中の酒は美味しく感じるのに、今日に限って言えばとても苦い。


「……精霊が知るところになったきっかけはブライアンの妹だ」

「ブライアンの妹?」

「そうだ。精霊が精霊狩りをしていた人間に呪いをかけていたと言っていたが」


 ハーヴェイが考えるように自分の顎を摘みながら言う。


「なんだったか……性癖が変わる呪いと花の呪いだそうだ」

「なんだ、その花の呪いって」

「鼻の穴から花が咲く呪いだ」

「……」


 私は何とも言えず黙った。想像してみると実害はなさそうだが。自分の部下にその花の呪いがかかってみたら恐ろしい。笑いが堪えられないし、顔がまともに見られないだろう。


「恐ろしい呪いだ」


 ハーヴェイが真面目な顔をして頷く。いや、そういう問題じゃないとは思うのだが。感想など人それぞれなので放置することにした。


「で、きっかけになったとはどういうことだ?」

「精霊狩りが何のために行われていているかを喋ったらしい」

「ああ……」


 天井を仰いだ。そりゃ怒るだろう。普通に。


「頭が痛い」

「すまん」


 ハーヴェイが真面目な顔をして謝った。何故という視線を彼に向ける。


「早くから精霊狩りが行われていることがわかっていたんだ。犯人を捕まえていたら」

「そうは言ってもだ。難しいだろう? 貴族が関わっているんだから」


 ふっと力を抜いて笑うと、ハーヴェイはため息をついた。


「だが、ブライアンの妹、だったか? 彼女はつるし上げにあうかもな」

「それは」


 ガタンと音を立てて立ち上がる。それを眺め、肩をすくめた。


「だってそうだろう? 精霊王を怒らせる情報を簡単に漏らしたんだ。そもそも何故彼女が知っているんだ」


 どうやら情報管理はどこもゆるゆるだ。ため息ばかりが出てくる。


「その、だな。彼女のことは伏せておけないのか?」

「無理だな。ではどうやってと言われたら答えざる得ない」


 気持ちはわからなくもないが、身内に話してしまったこと自体、問題であるし、軽々しく話してしまったことも問題だ。


 問題が山積でどこから手を付けていいのか全く見当がつかなかった。




11/19 誤字修正

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