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「あ、目が覚めた」


 聞き覚えのある声がする。


「どうしよう、記憶あるかな?」


 薄っすらと目を開けると、覗き込むようにいる精霊たち。あまりの多くの精霊が覗き込んでいるので驚いて飛び起きた。


「うにゃあ」


 は?

 うにゃあ?


「ああ、よかった。ちゃんと精霊になっているよ」

「本当だ。しかも次代の精霊王だ」


 やんややんやとお祭り騒ぎのように賑やかだ。見覚えもあるも何も、ここにいる精霊たちはわたしが契約していた精霊たちだ。当然、覚えがある。


「うにゃ、うにゃにゃにゃ????」


 でもなぜかにゃあしか出ない。何故だ。


「あ、ねえ、ちゃんと受け入れないと喋れないよ?」

「そうそう。ねえ、お姫さま」


 へ、姫?わたし、治療院のお手伝い……だよね?


「やだな、昨日死んじゃったじゃない」

「そうだよ。皆でそれ以上魔法使ったら死んじゃうからやめてー、って必死に止めたのに」

「ストレス発散ー!とか言って」


 そうそう、と口々に精霊たちが言う。


 そうだっけ?

 昨日?


 ぼんやりと記憶が戻ってくる。


 昨日、昨日、昨日。


 あ。


 そうだった。王都の学校へ行った同じ年の幼馴染が戻ってくる約束をしていたのに破ったのだ。


 昨日はわたしの17歳の誕生日。


 誕生日はいつもの場所に行く約束があった。だから、待ち合わせの場所でずっとずっと待っていた。天気が悪く雨も降ってきたから、体が冷え切ったところでようやく待つのを諦めて帰ったのだ。

 とぼとぼと一人治療院へ帰ったところ、流感にかかった人が爆発的に訪れていた。治療院が患者ですごいことになっていた。医師のコンラット・テイラーが忙しそうに対応していた。慌てて自分の濡れた体もそこそこに精霊魔法を使い、回復魔法を大盤振る舞い。


 大切な約束を破られて、やけくそになっていたのもある。

 大量の患者を治す達成感がたまらなかったのだ。


 その結果。


 自分が流感にかかっていることに気が付くのが遅れ、自分自身に回復を掛けられるほどの魔力も残らず。

 病気になり、魔力不足で体力もなく。

 結果、流感にかかって高熱を出し、あっさり翌日の朝には死亡した。泣きながら看護してくれるコンラットを見たのが最後だった。


「まいったにゃ」


 語尾がまだ若干おかしいが、まあいい。喋れた。


「それでね、元々、お姫さまは死んだら次代の精霊王になる予定だったの」

「ところが予定外に早く死んじゃったから、ほらあっという間に精霊王のお姫さま」


 ん、次代の精霊王?


「よかった。精霊王様にも知らせなきゃ」


 そういって何人かの精霊が飛び去って行く。きっと精霊王に伝えに行ったのだろう。


「ちょっと、待て待て待てにゃん!!!」


 それぞれが動き始めていたが、驚きにこちらを見ている。


「どうしたの?」

「精霊王なんて、嫌だにゃん!」


 よく理解できていないのか、精霊たちはぱちくりと目を丸くした。


「どうして?」

「だって、精霊って一番この世の中で割食う種族にゃん。その精霊王なんて最悪だにゃん!」


 人のことは言えないが、わたしもかなり精霊たちを酷使していた。人間と契約するなんて労働環境悪すぎる。朝から晩まで簡単なことで精霊魔法を使い、魔獣が出ればもう最前線。本当に最悪だ。


「ああ、それを心配していたの?」


 可笑しそうに皆が笑い始めた。


「人間と契約が嫌ならしなければいいんだよ。精霊だけが住む森があるからそこで暮らせば大丈夫」

「え、そうだにゃん?」

「そうそう。お姫さまが移動するなら皆で移動しちゃおうかな?」


 それもいいね、と笑いさざめく精霊たち。ちょっと安心した。あんな過酷な労働環境は嫌だ。


「それと、あと一つだにゃん。どうしてわたしはにゃんが付いているのにゃん?」


 水の精霊がふわりと水鏡を出してきた。無意識にそれを覗き込んだ。


「だって、お姫さま。今、猫に擬態しているよ?」


 大きなぱっちりした琥珀色の二つの目に真っ黒の艶やかな黒毛。

 

 可愛らしい子猫がこちらを見返していた。



******



 葬儀はしめやかに営まれていた。眠る様にお棺の中で横たわっているのは確かにわたしだ。


 こっそりと姿を隠してその様子を見つめていた。


 何だか変な気分だ。昨日までのわたしがあそこにいる。今にも動き出しそうなのに。本当に本当に死んでしまったのか。

 両親が死んでから親代わりにずっと面倒を見てくれていたコンラットが生気のない様子で横に立ち尽くしていた。泣いた跡があるが、涙が枯れてしまったのか今はもう涙はない。ただ、目が痛々しいほど腫れていた。すぐにでも倒れてしまいそうだ。


 そして、近所にする面倒を見ていた子供達も。ヒックヒックと肩を寄せ合い小さくすすり泣いていた。

 こうしてかなりの参列者がいて、皆が泣いているのを見ると結構愛されていたのかなと思う。


「お姉ちゃん、お姉ちゃん」

「どうしてこんなことに」


 コンラットの言葉に、ごめんなさいと呟く。どうか、気にしないで。派手にやっちゃったな、間違って死んじゃったじゃないかと笑って欲しい。無茶だと分かっているがそう願ってしまう。だって、悲しませたくなかったから。皆には笑っていてほしかった。


「ほら、反省した~?」

「みんな早すぎる死に泣いているよ?」


 精霊からも小突かれた。ぐっと涙を堪えるとにへらと笑う。


「えへへ、こうしてみるとわたしも美少女だにゃん!」

「あ~あ。そんな無理しちゃって」

「ほんと、ほんと」


 そんな呟きも聞こえるが無視だ。


 それにしても。


 ちょっとだけ気持ちが陰った。

 幼馴染のノエルが来ていない。昨日すっぽかされているのだが、わたしの体があるのは今日が最後なのだ。どうしても来て欲しい。

 そして最後に一目だけでいいから会いたかった。怒った顔でも、泣いた顔でも、何でもいい。ノエルに会いたかった。


 大好きなノエル。

 お互いに両親が死んでしまって、ずっと小さい時から一緒に育ってきた。わたしと違って魔法がすごく使えるノエルは去年から王都の学校へ行っていた。

 去年までは普通に会えていた。今年に入って半年、手紙も滞りがちになり、とうとう昨日は約束をすっぽかされた。

 きっと王都で楽しいことが沢山あるのだ。わたしなんかとの約束なんて忘れてしまうほど。

 そう思って悔しかった。泣きたかった。どうしても来て欲しくて、ずっとずっと雨の中待っていた。


 それがこの結果。


 バカすぎて笑える。だから、最後に死んじゃってごめん、って遠くからでも言いたい。完全に自己満足だけど。


 ノエルが今日葬儀があることを誰も伝えていないということはないはずだ。昨日今日で手紙は届かないが、倍のお金を払えば精霊を使って手紙を届けることが可能だ。精霊を使えばきっと今日の昼には届いているはずだ。


 ……手紙?


「はっ!」


 目をかっと見開いた。見開いた反動で、毛がぶわっと逆立つ。尻尾もピンと上に立った。


 手紙、まずい。


 昨日治療する前にこれでもかと罵詈雑言と次の約束、色々と恨み辛みを詰め込んだ手紙を出していた。あれが届くのはまずい。きっと葬儀の連絡をするときに一緒にまとめられていると思う。


 一緒ならまだいい。配達人が気が付かず、葬儀の連絡の後に手紙が届いたら。


 想像だけで血の気が引いた。


 死んだ人間からの文句の手紙など貰ってどうすると言うのだ。後悔と後味の悪さが半端ないだろう。下手したら呪いのように感じるかもしれない。ノエルがそんな軟な神経しているとは思えないが、それでも流石にダメだ。死者からの便りなんて、不気味すぎる。


「ちょっと、ノエルのところに行ってくるにゃん!」


 わたしの書いた手紙を回収するべく、ノエルのいる王都の学校の寮へと向かうことにした。






11/11 すみません。名前変更しました。セシル→ノエル

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