彼と彼女のとある1日 。『平日の朝』
ベッドが軋んで音が鳴った。
今の暮らしになって2ヶ月と少し。まだ始まったばかりと言えるが、ルーチンとしてすでに慣れがある。
数分後に再度鳴ったギシ、という音に、俺は薄っすらと目を開いた。
「…マユ?」
「ごめん、起こした?」
ぼんやりとした輪郭のシルエットが寝起きと思われるまだ甘さの残る声とともに近づいてきて、頬に柔らく冷たい感触を残す。
「じゃぁ、私行くね」
「おう」
なんとかそれだけ返して、俺は目を閉じた。
彼女は最後に俺の髪を撫でて、部屋を出た。
これが俺と彼女の日常。始まって2ヶ月の、この上ない時間。
数年前の俺が聞いたらどんな顔をするだろう。驚くか、呆れるかだな。
それくらい、今の生活に執着している自覚はある。
いや。彼女に、か。
「…ふぁ…ぁ」
欠伸をして、枕元にあるはずのスマートフォンを探る。手に当たったそれの電源を入れ、時間を確認する。
現在、8時46分。
「…まだ寝れる」
2度寝した俺が、彼女からの「講義始まるよ?」という電話にしぶしぶ起きるまで、あと2時間。