雲闇の中
空き地の前に停まっていた車は、この激しい夕立と入れ違いに去ったようだ。雨と薄暗い灰色の空に包まれて、あの土色の領域は寂しさを増すように濡れていった。
朝まで開いていたはずの窓がいつの間にか閉まっているのを、驚きもせずに横目で見つけた。一人暮らしとは無縁の俺は気に止めることも無く、部屋を出
ーーーようとして、足を止める。
そして、もう一つの窓の側で、こんな昼間からも見つめている彼に声をかけた。
彼が何と言ったか分からないが、返事をしたのだろう。俺のすぐ後ろについてきている。言葉は通じなくとも、心は通じるようだ。
と言っても、来月で三年目の付き合いだから、そうでないと甲斐がない。
夕飯を終えて、部屋に戻ろうと居間を後にする。母さんが何か言っていたのに対して、振り返って生返事。俺に言われても分からない事なので、どうでもいいです。
顰めっ面で向き直ると、彼が居た。
なにやら落ち着かない様子で窓の外をのぞき込んでいる。
一階廊下の西側にも小さな窓がある。つまりこの窓もまた、空き地側だ。覗いたところでいつも通りの景色が、今度は俺自身の目線で見えるだけ。
だが、俺が見ている限りで、彼がそこから覗いているのは初めてだ。そして、何より様子がおかしい。
好奇心で窓の外を共に見る。雨は少し前に上がっていたが、まだ暗雲が空を覆っている。心をざわつかせる暗い夜がそこにはあった。
幽霊に限らず誰かがいきなり現れたら、驚かずにはいられないような暗闇。薄いガラス一枚でも頼もしく感じられた。実際問題、現れたりはしない…だろう。
「チビ助…。本当は霊が見えてるのか?やっぱりそこに誰かいたりするのか…?」
もちろん、俺には何も見えやしない。
種が違えば世界は違って見えるのかもしれない。
ただし、それは通じる言葉が見つかるまでわからないだろう。
怖かった訳では無いが、足早に小さな窓を後にした