第四話 黄巾の乱
メフィストフェレス、端的にいうと『あれこれ囁いてひとを悪い方向に誘導する悪魔』。悪魔の部分を無視してしまえば割合と現実にいる。知的で高貴なたたずまいのそれ。そうと思って見ると、歴史のそこかしこで見られるだろう、ある種の一番鶏のような存在であった。なんの一番鶏かはナイショだが。
『この年』、蕭建(幼名・相生)は数えの十四歳になっていた。
大学者・鄭玄(字は康成)の家の門を叩いてから、六年になる。
春節(正月)がすぎていた。里帰りを終え、蕭建が再び青州北海国の土を踏む頃には、各々の家では日用品の補充や生産にあくせく働き始める頃合いであった。
「あっ、ちょっと停めて」
蕭建が馬車の席で言った。御者の坤志が、どうどう、と馬車を停める。高密県の市場であった。
蕭建が馬車の席上からよく整った顔を突き出し、手を挙げて挨拶した。
「やあ、みんな。元気?」
『ハ~オ!』
元気よく、まあね、的な響きの声を上げたのは、鄭玄の門下生仲間たちである。いわば兄弟弟子だ。
おそらくは先んじて鄭玄の家についていた学生たちが、鄭老師(鄭先生)とそのご家族のお手をわずらわせるわけにはいかない、という感じで、買い出しにきていたのだろう。
そのなかで比較的、年長である、孫乾(字は公祐)という、のっぽだがのんびりした若者が、文字通り道草を食っていたのか、くわえていた草を手で振りながら、こう言った。
「やあ相生。ご飯食べた?」
「ま~だ!」
言いながら、蕭建はひらりと馬車を降りた。格好は庶民のそれだから、活動的である。上流階級だとスカートのようなものをはくが、無位無官の蕭建には現段階では関係のない衣装だ。
坤志が制止の声を上げた。
「あっ、坊ちゃん!」
「だいじょうぶだよ、坤志」
蕭建は、近頃めっきり大人びてきた横顔に笑みを浮かべて、手をひらひらさせながら言った。
「もう高密県のなかだし、みんなといるんだしさ。おまえは先に鄭老師のお宅へ行って、進物を届けておいてくれ」
「まったく」
坤志が苦笑した。護衛の昌豨は顔を横に向けて、呆れたように片方の口角を上げている。
坤志が頭を下げ、言った。
「では、あまり危ないことはしないように――」
「分かってるよ。うるさいなぁ!」
蕭建が、シッシッ、と手を振るのと、坤志が笑って首を振り、馬に鞭をくれるのはほぼ同時であった。双方が分かったものである。護衛の昌豨が馬上で礼を示してから、騎馬隊を率いて並足で去って行く。
「進物ってなんだ、相生?」
学生の一人が言った。聴きながら、蕭建が懐から、包みを取り出す。今朝方、泊まった村でつくってもらった肉饅頭が三つだ。材料を出したのは蕭家だ。牧草で育てた羊の肉はくさみが少なく、食べると、とろけるようである。刻み、根菜類と混ぜて蒸せば、たとえ味付けが塩と山椒程度でも、脂身が染みてうまくなる。
まだ、ほんのりあたたかい。肉饅頭を見て、歓声を上げる学生を指で数え上げるしぐさをして、蕭建は肉饅頭を割った。ちゃんと肉のついた一かけらを、問うた学生に手渡しつつ、蕭建は言った。
「食べ物だ」
「へえ! いいな、肉もある?」
「もうないかも」
蕭建が言うと、え~、と隣の太めの学生が哀しげな表情をした。蕭建はそいつにも肉饅頭のかけらをあげながら、笑って言った。
「あるよ。もちろん!」
「やったぁ!」
「さっすが北領家! そこらの豪族とは格が違うな!」
「よせよ~」
蕭建は今生の生家を褒められて、照れ、孫乾に肉饅頭のかけらを手渡したところで、空いたほうの手の指を振って、言った。
「おまえら、オレがくるまで北領家とか知らなかったくせして! 今度おごれよ!」
『ハ~オ!』
学生仲間がそろって声を上げ、蕭建が自分のぶんの肉饅頭を口に放り込んでから、約束だぞ、とばかりに、近くの学生仲間、数人の肩を軽く突き飛ばした。多少、乱暴だが、男同士の間柄はこんなものだろう。そうしてから、クスクスと笑っていた孫乾が、やおら一歩、踏み出して、両手を広げて、言うのだ。
「お帰り、相生。今年もよろしく!」
「もふ」
蕭建がもごもごと応じ、手を立てて謝してから、ごっくん。改めて、ニカッと笑いつつ言った。その口元に饅頭のクズがついているのは、しまらなかったが、妙な愛嬌があるのは確かだろう。
「ああ! 今年もよろしく、みんな!」
◇
畑の改良をしている。鄭家ではそうだ。鄭家は富裕ではないが、青州の豪族の一家ではある。青州の東部一帯にかけて、ちらほらと鄭家の畑があり、鄭玄が政界人の面会を断って引きこもってから、畑の管理は家族か、弟子の仕事である。
「やあ相生。ご飯食べた?」
鄭家の門前で美少女が立っていた。なお『ご飯食べた?』は挨拶である。今日の天気は○○だね、くらいのノリだと思えばよい。
かの美少女は、目の覚めるような美貌を薄く朱に染めて、なお好奇心に輝く瞳はその端がやや垂れている。茶髪はふんわりと毛先が跳ねており、全体的に柔和でぽわぽわしてる印象であった。男好きのする容姿といえようか、現に学生仲間数人は桃色の吐息をもらして見入っている。
が、一方で、なかなかに女好きのする容姿の蕭建は気にしたふうではない。つかつかと美少女に歩みより、その顔に顔を近づけて、じっと瞳を覗き込んだ。思わず美少女が我を忘れて目をハートマークにする間に、蕭建は甘い声で言うのだ。
「もう食べたけど……雪詩?」
「は、はい――」
「ちょっと太った?」
その瞬間、美少女こと、鄭雪詩の顔面が崩壊し、すげえことになったのは妥当であったろう。赤くなったり青くなったりして紫色になった顔を両手で隠し、ちょっとどいて、と蕭建を押しのけた鄭雪詩が学生たちのところへ行き、訴えるのだ。
「わたし、相生のああいうところキライ!」
「トエ、トエ(分かります、分かります)」
「あいつ何回か弾け飛んだらいいのにな~ッ!」
と、そこでウルトラスーパー朴念仁の蕭建が叫ぶのだ。
「ねぇ、雪詩! 緑肥のタネはまいたっ!?」
いまや鄭家の畑係筆頭は末娘の鄭雪詩である。生来が利発な性質の彼女は知識人として一等であった。惜しむらくは男女同権の世に生まれなかった点。しかし、畑の管理者として考えるのなら、充分以上の身の上であった。
「不要! 言われなくてもけっこうさっ!」
もうやってます、とばかりにプリプリと頬を膨らませる鄭雪詩のところへ、また、蕭建がつかつかと歩み寄った。さっきのいまだ。もう騙されないぞ! とばかりに、気合を入れてキリリとした表情を浮かべた鄭雪詩。蕭建が、
「好」
と言って、鄭雪詩の頬をいとおしげに撫でた。
この時点で姫騎士然とした鄭雪詩の顔面がアヘ顔に近くなったのは、はなはだアレであったが、いわれのないことではない。
やや目つきが悪いものの、中性的で整った顔立ちの蕭建。威迫を感じるほど背丈はないが、だからこそという面はある。なおかつ、色気のある声色をしているのだ。そんな蕭建が耳元でこうと言えば、鄭雪詩ならずとも耳が熱を帯びるだろう。
「太好了(よかった)。雪詩なら悪いようにはしないだろうけど、きみが望むなら……(畑を)乱暴に扱ってもいいんだよ」
「負けた――」
「雪姑娘(雪お嬢さま)!?」
「「アイヤー! クーニャン!? クーニャァァァ~~ンッ!?」」
その場で鼻血を出して気絶し、すかさず蕭建に抱き留められる鄭雪詩。その周囲で、分かっていた結末とはいえ、学生仲間たちが頭を抱えるのは、いっそ、なんらかの絵画の世界観であったが、内容がひどかった。
気絶した鄭雪詩の顔は、先の決意たるの本懐を遂げられなかったにもかかわらず、安らかであった。そのさまがいっそう周囲の憐憫を誘い、先走った学生が『ティエェェェン(天よ)!』と天命の在り方を問うありさまであった。
「また、気絶した……」
恋愛方面において、この若さですでにハイパースペックナチュラルクズの片鱗を示し始めている蕭建が、ひどく困惑して言うのだ。
「な、なあ、みんな。やっぱり雪詩、どっか悪いんじゃね? お医者さんにみてもらったほうが……」
「医者にみてもらうべきなのはおまえの頭の中身だッ!」
いっそカチ割ってもらえ! というところで、気絶した鄭雪詩を運ぶべく、みんなして鄭家の門内へ入るのであった。
◇
鄭家の財力は増大している。
流民の増加は必ずしもマイナス面ばかりではない。労働力を必要とする場所へ労働ができる人間が入り込むからだ。そして、人間が完全に手ぶらという状態はさほどない。どんな人間にも、固有の知識と技術はあるからだ。いわば、限定的な成長はできる。特定の地域・共同体の範囲に限るだろうがだ。
ただし、国家的観点から見れば、この動きはマイナスであった。戸籍が混乱し、税収がおぼつかなくなるからである。人々が生活苦のあまりに、自分の生活だけを希求し始めた時、国民に扶養されているかたちの国家はそのかたちを失くすのである。
あとに残るのはだいたい金権政治か、軍閥の治乱興亡。お金か、軍隊か。余裕がなくなった時の行動は、赤ん坊であれ、国家であれ、大差がない。喚き、引っ張り、ひっかき、叩いて、自分の言うことを『力で』聴かせようとするものだ。
もちろん、そこらのおっさん、おばさんも大差ない。主張の左右すら関係がない。余裕のなさが心のタガを外すのだ。叫んでいるのはたいてい、なにか切迫したものに追われた人間だけ。そして、そういう人間の背後関係に、たいてい知的で高貴なメフィストフェレスがいたりする。
帝都・洛陽の政治家たちは、地方の荒廃による税制の混乱に対し、増税というかたちで乗り切ろうとした。
先に官界追放された特定官僚派閥はすでに崩壊して久しい。政権の施策に対して、反対の声を上がることが叶わなければ、あとに残るのは国家対公共の『力のせめぎあい』の形勢のみであった。
二月に入った。あと一か月もすれば、草木が芽吹く。
蕭建は鄭家の堂下を歩いていた。質素なつくりなので、石畳はなく、土がむき出しの地面を歩き、鄭玄の待つお堂へ入った。
「お呼びでしょうか、鄭老師?」
礼を示して、蕭建がはつらつと言った。
ほの暗い堂のなかで、机を前にし、黒い格好をした鄭玄が目線だけを上げて、手招きした。この数年で礼儀が叩き込まれている蕭建が、小走りに鄭玄に近づき、眼前で再拝した。すでに老いている鄭玄が、竹簡を差し出してきて、ため息をつくように言う。
「読みなさい、相生」
「はい。では――」
と、蕭建が竹簡を手に取って、中身を眺めた。それから、意味が分からない、という感じで鄭玄と竹簡を二度見した。
「老師、これは……?」
「かつての弟子からじゃ」
つまり、かつての官僚からである。
竹簡にはこう走り書きがなされていた。
『張角謀反』
「使いのものが、逃げてくれ、という言伝もしてきたよ。わしには弟子がいるのにな。身寄りのないものも――」
「老師」
外では日常が溢れている。冬は去らないが、日は昇っている。粉雪が舞うような季節ではあるが、晴れる日は晴れた。山東は豊かなところだ。実入りがよく、蝗害を除けば、気候もそんなに荒れない。まだ蕭建は呑んだことはないが、酒は芳醇で、南方との連絡もよく、鉄と塩の産地であった。
住みやすいところなのだ。確かに賊はいるが、あんなの流れ者だ。ここでどうこうしようなんて、そんなバカな話はない。
蕭建は夢のなかにいるような声で述べた。
「老師、畑の改良は、みんなでうまくやっています。いろんな肥料を試して、農具を改めて、牛を育てて。水がないところではみんなでため池を掘って、井戸から水を上げております。官への報告だって済ませているし、それでよいともお言葉を――」
「相生」
「老師、もう少しで麦だって――」
「相生ッ!」
鄭玄が声を荒げた。夢を見ていたような蕭建が、叱られて、急にすねたような顔つきをした。そして怒り始めた。
「謀反ってなんですか。逃げろって? 賊が湧いたんですか? そんなら、オレとみんなで叩き返してやりますよ。何人ですか? 十人? 二十人? いや、三十人ってところですか?」
「太平道の反乱じゃ。張角の教えに従う信徒の数は、全国で百万を号するという。実際の数は分からんが、使いのものによると……途方もない、数じゃったらしい」
鄭玄が、今度こそ、深いため息をついた。その呼吸が、蕭建をふと冷静にさせた。キッと真顔になって、蕭建は問うた。
「……どうされるおつもりですか?」
「相生。やはりそなたは――」
鄭玄がそこで言葉を切って、いや、と首を振り、次いで指を東のほうへ振って、こう言った。
「わしは東莱のほうへ逃げる。よしみのある村があるし、なにより山がちなところじゃ。ああいや、畑を耕しに行ってもらった、そなたなら分かるか」
「トエ(はい)。老師」
「ハオ――」
鄭玄は頷き、微笑んだ。それから、身を乗り出すようにして、末娘の鄭雪詩とよく似た好奇心に輝く、垂れた瞳を瞬かせて、こうと問うた。
「そなたはどうするね、相生?」
「帰ります、徐州へ」
「ハオ」鄭玄が蕭建の選択を責めることなく、また言い、続けた。
「ならば早いほうがよい。同郷のものだけを連れて行きなさい。ああ、馬の持ち出しも許す。勝手になさい」
「トエ! 勝手にします!」
言うが早いか、蕭建は身軽な足取りでお堂の入り口まで駆けた。そこで、はた、と立ち止まり、鄭玄のほうを向いた。ほの暗さのなかで、蕭建の背後だけがまばゆい。
「オレは、勝手な男です。約束なんかできない。でも……でも!」
蕭建が歯がゆそうに口元を歪め、言葉に迷う子どものような表情をした。
鄭玄が微笑み、なにか困ったものを見た顔をした。鄭玄はその場で立ち上がり、蕭建を見送るような格好になる。ホコリが燐光を帯びるような空間。蕭建が、やおら決然とした表情になって、手で手を包む礼を示した。激するように叫ぶ。
「また――お逢いできますように!」
そして、頭を下げた。たまに蕭建がする変な礼儀。お辞儀である。が、この礼儀を示すのは、決まって蕭建が心を許した相手にだけであった。鄭玄が笑った次の瞬間には、蕭建の姿はなかった。お堂の入り口に歩いて行くと、すでに屋敷の影に走り込む蕭建の背中が見えたのみだった。
「駿馬のような少年じゃ。いや、もっとほかのなにかかな?」
鄭玄は満足げな息をもらした。さて、蕭建が去ってしまった、去ってしまった、と、妙な寂しさのなかで、白いヒゲを撫でていると、どこからともなく鄭雪詩が出てきて、首を傾げて問うた。
「父上さま、相生さまとなんのお話をされていたのですか?」
と、いたってすまし顔である。その取り繕った態度が、父親から見れば、すでにおかしい。鄭玄は苦笑し、
「雪雪」
と、鄭玄は愛娘を愛称で呼び、その手を取って抱き寄せて、言った。
「張角が謀反を起こした。相生は同郷のものを連れて、帰ったよ」
「ええ~っ!?」
ひどく残念そうな悲鳴を上げた鄭雪詩に対し、鄭玄は呆れるやら、感心するやら、そこでふと、悪戯心を起こして、鄭玄は一本、指を立てて問うてみた。
「雪雪。わしが相生にどうするか訊いた時、あの子はすぐに帰ると言った。この師匠を残してだ。どう思う、雪雪? 相生は……逃げたと思うかね?」
すると、鄭雪詩は残念なものを見る目で父親を見た。その目に鄭玄のなかの父親の部分がダメージを負ったが、返ってきた答えは満足のいくものであった。
「相生さまはそんなひとではありません! 相生さまは、当世の英雄です!」
「ハオ、ハオ、ハ~オ!」
鄭玄は手を叩いて同意した。
「英雄! ならば話は早い。その英雄が迎えにきてくれるまで、我々は我々にできることをしようではないか、雪雪!」
「その、できること、とは?」
「もちろん、逃げることじゃ」
言って、鄭玄は年齢を忘れた足取りでお堂を飛び降り、ちょっとコケかけつつ、すたこらさっさと家人に声をかけに走り去ってしまった。やたら素早い。
鄭雪詩はそんな父に対し、目を丸くしたあとで、プッと噴き出した。肩を震わせてクスクスと笑ったあとで、冬の空を見上げる。
絶望などあろうはずがない。そんなものに奪われる心はない。鄭雪詩はそうだ。誰かさんに初めて逢った時に、そんなものが入り込む余地はなくなった。まあ、そのぶん、嫉妬とかは増えたが。
鄭雪詩は何事かを呟いた。それは風に乗ってかき消えた。恨み言のようであったし、睦み言のようでもあった。が、その顔は、憑きもののかけらもなく、いたってさわやかであった。
「相生――」
◇
メフィストフェレスにあおられた人間が死地に向かう。最後は死ぬよと約束された冒険へ。
立ち上がれ。メフィストはそう言う。責任を取る気はなく、ただ自分の望みを達成せんがために。
張角は弟二人を方面司令官に任じ、自ら要害に拠って立った。百万を号する太平道の信徒はみな頭に黄巾をかぶり、同志のしるしとし、各地の官舎をおそって武装を整え、さらなる略奪のための進軍を開始した。
むさぼるのは天下。世界。この世のすべて。メフィストとその徒党の望みは、ただ、自分たちを虐げた世界のすべてを奪うことのみである。
時に光和七年(184年)、二月のこと。
「ああっ、坊ちゃん!」
心底、安心したような坤志たちの出迎えを受けたのは、蕭建が同郷の学友たちと泰山山系を越え、徐州北部まで帰ってきたところであった。
「坤志!」
蕭建が馬上で叫んだ。その姿を見て、坤志は驚いた。別れたのはほんの一か月ほど前なのに、急に蕭建が成長したように思われたからだ。傍らの昌豨などはにやけていた。蕭建の出世があれば、その引き立てを受ける約束があるからだ。
「ぼ、坊ちゃん……」
坤志がどもり、昌豨がにやけながら礼を示した。
「遅いお帰りか、早いお帰りかは分かりませんが、無事でなによりですな、坊ちゃん!」
「うん」
蕭建は頷き、言った。
「父上に、ご相談したいことがある。駆けるぞ!」
すでに徐州西部の州境では黄巾党が決起し、国や県の官舎を襲って、ぐんぐん東進しつつあった。これすら遊軍のようなもので、黄巾党の主力は洛陽の近くで決起し、洛陽攻略を目指して快進撃を続けつつあった。
この頃、洛陽の政府は事態を重く見て、黄巾党の討伐を決定。漢帝家の財貨を投じて兵装を整え、諸将を選んで征伐へ向かわせる準備を整えつつあった。
と同時に、豪族らに義勇兵の招集を命じ、応じた豪族のなかには、後々の世までその名前が伝わる英雄たちが混ざっていた。
すなわち、
曹操、
劉備、
孫堅。
そのなかにあって、
蕭建、
というのは、明確なイレギュラー。
ともあれ、時代は動き始めている。
そう、いやおうなく、だ。