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第一話 斉武帝紀・緒

 ハン(後漢)の建寧ジェンニン四年スーニエン(西暦171年)のことである。


 現代でいう中国の山東省南部に、徐州シューヂョウ東海国ドンハイグォという地方があり、そこに祝其県ヂューチーシェンという城郭都市があった。


 その城郭まちは小さなもので、朝廷から派遣された役人がトップに立って政治を行う、一種の自治政治がなされていたが、その内実は城郭の東西南北に居を構える大人ダーレン(名士)が治める寡頭政が敷かれていた。


 要は役人を補佐する地元のヤクザが複数いる、と思えば良い。正確には荘園主(大地主)であるが、その一角――『北領家ベイリンジア』と呼ばれている、シャオ家という、それなりに裕福なお家に、子どもが生まれた。

 名前を、


蕭建シャオジェン


 という。

 史実的には史書・三国志に記述がチラッと出てくる、琅邪国ランシエグォシャン(現代日本でいう県知事か)であるが、


「おぎゃあ~! お、おぎゃあ~っ!?(お腹空いたぁ~! っていうか、オレ、かなり赤ん坊だ~っ!?)」


 この世界線では、ちょっと話が違った。


 この子が最終的にはチー武帝ウーディと呼ばれるようになるのだから、いわば、この世界線の中国チョングォの、運命の天子ティエンズーであった。


 ◇


(無心に吸う……分かるぞ、オレはいま……お乳を吸っている!)


 授乳である。


 日本神話で、黄泉の国の食べ物を口にするともう現世に帰れない、という話があるが、転生者にとっての黄泉の国の食べ物が『母乳』であるのは、なんとなく文学性を感じなくはない。

 んが、


(吸う! 一心不乱に! っていうかしょっぺえ! なにコレ? お母さ~ん、もうちょっと野菜採って、野菜!)


 蕭建にとっては世界線だの運命だの文学性だのより、いま生きる糧たる母乳の味のほうが重要であった。

 なお、蕭建の中身は高校生なので、社会人の常識とかはなく、そもそも生まれたばっかりなので、視界が利かないのだ。よって授乳の恥じらいはなかった。良い塩梅で黄泉の国(比喩表現)に呑みつ呑まれてるといえる。


「お、おお……よく吸うなぁ。赤ん坊というのは兄弟で慣れていたつもりだが――フェン。私もちょっと味見をあ痛ァ! すっげえつねったァ~ッ!」

「もうぅ~! 赤ん坊のお乳を取る父親が、どこにいるんですぅ? あなた~!」

「割といると思うがな~……」


 先ほどから無心に乳を吸う蕭建の傍で、やたらイチャイチャする二人の気配がする。おそらくは両親だろう。目が見えないので判別のしようはないが、声質的には若かった。使用人を呼ぶ声もするので、裕福ではあるのだろう、と蕭建には判別できた。が、視界の利かないなかで分かるのは、それくらいである。


 蕭建はけっこう×三くらい母乳を吸って、眠くなったので、


「ふやあ~(眠~い)」


 と、乳から口を離して、あくびをした。すると頬をつつかれる。


「父上と呼んでみろ、相生シャンション

「あなた~、相生は赤ん坊ですよ~?」

「私たちの子どもだろう。喋っても良いはずだ」

「あぶ~(親バカだなぁ)」


 蕭建が両親の会話に呆れた。胎内学習というべきか、最初から両親の会話が分かるのはラッキーであった。なお、相生とは幼名である。辛亥の年の生まれなので、五行思想から相生と名付けられたのだ。名の建は年号の建寧からである。もちろん、蕭建は知るよしもないが。


(でも、なんていうのかな――)


 名の呪縛であろうか。蕭建は前世の自分より今生の自分に意識が引っ張られるのを感じるのだ。

 後漢の世では名前には呪力が宿るとされ、目上のものでない限りは本名を呼んではならない、という慣習がある。日本の戦国時代とかでも同様であったが、後漢の場合はそれが顕著であった。


(ま、アレだよな――お父さん、お母さん、ってね)


 よろしく、そう、よろしくだ、と蕭建は思う。そして――お休みなさい、すげえ眠いから、と。


 蕭建はうとうとした。んが、


「ゲップしなきゃ、寝ちゃダメ~」


 という、母親の愛の鞭で揺り起こされた。それくらいで泣きはしない。むしろ、ちょっと笑った。すると両親が驚き、そして笑い合う声がする。そうなのだ。蕭建はあくびとともに思った。オレ、このひとたちの子どもなんだな、と。


 オレ、生まれたんだな、と――。


 時代は、後に霊帝リンディと呼ばれる若い皇帝ホァンディ――それこそ、少年でしかない皇帝の世であった。


 後漢の中~後期から頻発してきた、朝廷内部の派閥争いと、それによる地方統制のゆるみ。監視の外れた役人の腐敗と、地方反乱と、北方遊牧民の蠢動と。呆れるくらい繰り返されてきた内憂外患のなかで、少しずつ、少しずつ、少しずつ――漢帝家ハンディジアの持ちたる国が、崩壊に向かって歩んでいる時代であった。


 治乱興亡して後、開ける世あり。

 チー・ウー・ディ。

 斉武帝。


 これは運命の子――後漢末期の戦乱に終止符を打ち、中国チョングォに安寧をもたらす、とある天子ティエンズーの物語である。

 欠点は、ちょっと食い意地が張った、とつくが。

 正史三国志は個人的には憤怒するレベルで高いので(全巻揃えると一万円オーバーするという、ほかに歴史ジャンルの作品を書いており、資料代がぐいぐい吸われてる作者には痛すぎる出費なので)、本作に関してはネット知識で書いています。


 本作は練習で書いてます。今話にしたってちょっと書いてみよう、と思って書いたものですので、更新するかどうかはほんとうに分かりません。たま~~~に更新するかも、くらいなものだと思って頂ければ幸いであります。

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