隠密偵察員の報告
僕はとあるお方の命令でタウノリマジーハーに潜入している。
体裁は若さゆえに向こう見ずな冒険者だ。
この町は急激に成長した。
そして、シアイエンティアから攻撃を受けた。
そしてそこから驚異の復興を遂げた。
まさに奇跡の町だ。
普通なら発生する難民も無く、
皆が皆、黙々と町の再建に奮迅している。
回りの町も、表面上は難民を受け入れる体制を取っていたが、
「お金もねぇ、仕事もねぇ、
身分も、立場も、祈場もねぇ。
自由もねぇ、時間もねぇ、
賭場も、食事(無料の)もホテル(無料の)もねぇ。
お菓子もねぇ、権力もねぇ。
敬意も、特権も、何にもねぇ。
酒もねぇ、女もねぇ、
遊んで暮らせる幸せがねぇ。
おら、こんな町、嫌だー。」
なんて、働かずにお恵みだけでいきて、
周りに自分達の思い通りに動いてもらえなければ「サベツガー」って叫ぶクズ崩れに町の財政や治安を崩される事には警戒していて、
そんな事が起きずにホッとしていた。
実際、以前にはあったらしいからね。
だが、何かしらキナ臭いものを感じる。
驚異的な労働時間や内容をこなしておきながら、
それを行う人間達には目に気力がない。
労働と食事にだけは貪欲で、
それ以外の事には関心が見られない。
何が原因だ?
とにかく町長に接触を図りたいが、それはまだ早すぎる。
いきなり、最有力候補を狙うのは危険すぎる。
それから僕はごくごく普通の人間としてこの町で過ごしてみることにした。
時折町民達からの視線を感じるが、町の外の人間が珍しいのだろう。
基本的に皆、自分の仕事にばかり関心を向けて、僕の事には無関心だ。
その町民性が、復興の理由なのかもしれない。
それにしても冷たすぎるが。
それでもだいぶ打ち解けれた所もあると思う。
だから、この町や町長の事を聞いてみたけど、
皆、口を揃えて「町長は素晴らしい。」と不自然に喋る。
疑う態度を見せようものなら余所者の癖にと、冷たい態度を受ける。
あまりにも怪しすぎる。
そうやって、タウノリマジーハーでの時間を過ごしていて、ついに僕は決定的な瞬間を見た。
この町の町長の家で、大量の男女が入り乱れていた。
そして、その周囲には蟲達が這い回っていた。悪夢のような光景だ。
その事を裏付けの証人を取るために、
そのイカれパーティに参加していた女性の旦那に、同日の奥さんの行動を聞いてみた。
すると、「昨日は妻はずっと家にいた。」
と言う。
そんなはずはない。
同様の事を他の人間にも聞いたが、似たようなことを言われた。
挙げ句に嘘つき扱いまで受けることになった。
僕が無力な本物の流浪人だったら、
それに従っていきるしか無いのかもしれない。
僕の言い分は何も聞いてもらえないし、
統一された嘘の証言が町中から出る。
裁判所だって、裁判長も弁護人も、傍聴者までもが敵に回る。
町の意思に従うことを町全てに強要される。
力無い人間では屈するしか無いだろう。
しかし、生憎僕はとあるお方の特命で動く近衛兵だ。
町で異常が起きていると言うよりは、
町民全部が異常なんだ。
……そう気がついたときに、周りを町民達に囲まれていた。
その後、『とあるお方』に「何事もありませんでした。」と報告して暫くした後、
報告員は不慮の事故なって植物状態になってしまった。