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今川義元の野望  作者: 高野康木
駿河・遠江・三河統一編
4/32

3話 戦国大名へ

ほんの少し、エロい部分があります。

嫌な人は、見なくてもかまいません

パタン。

雪斎が障子しょうじを閉めると、広大の近くに静かに座る。

先程とは違う小部屋には、広大と雪斎しかいない。

あの後、すぐに泰能達は、この寺から出ていったこともあり、部屋を変えたのである。


「お茶でも、持ってきましょうか?」

「いらん。それより、話し合う意味を教えろ」

「話し合いに意味などーー」

「言っとくが、俺は今のお前を信用できない。悪いがな……」


広大の言葉をきいて、悲しそうな顔をする雪斎。

いつもの広大ならここで謝るなり、何かしらのアクションをしていたが、今の気持ちでは、それすらできない。

腕を組んで、雪斎の言葉を静かに待つ広大。


「きいても、よろしいですか?」

「何をだ?」

「私が信用できないと言うなら。どうして、ここに残ってくれたのですか? あなたには、立ち去るという選択もあったはずです」

「……まぁ、ここまで助けてもらったからな。話くらいは、きいてもいいかと思っただけだ」

「そうですかーー」


そういって、雪斎は柔らかく微笑む。

微笑みの意味がわからない広大は、逆にムスッとしてしまう。


「やはり、あなたはお優しい」

「優しいかどうかなど、俺にはわからん。てか、そんなことを言う為に、ここに居させたのか?」

「まさか。ここからが、本題です」


真剣な顔をする広大とは違い、そう宣言した雪斎は、何故か頬を赤らめ始める。


(何故頬を赤らめている?)


不思議に思った広大が、尋ねるより早く、雪斎は行動にでた。

いきなり、ろうそくの火を消したのだ。

 

「っ!?」


今の広大と雪斎の場所は、かろうじてろうそくの火で、明るくなっていただけの部屋である。

それを消されたとなると、薄暗い部屋になってしまう。

そして、時代劇じだいげきなどでは、明かりを消すと言う意味はーー。

即ち、殺害。

すぐにその結末へとたどり着いた広大は、震える喉を抑えつつ、声をだす。


「ここっ。殺す気かよ!?」


完全に慌てている広大は、愛刀の鬼丸を手に持つと、雪斎と距離をとる。

そんな広大とは違い、雪斎はまたも優しく微笑む。


「いえ。ろうそくを消したのは、明かりがあると私が恥ずかしいからです」

「はっ。恥ずかしい? 何が恥ずかしいんだ!」


その答えは、すぐにわかった。

なんと、雪斎がおびを外し始めたのだ。

いきなりのことに、石化せきかしてしまう広大。

そんな広大を無視した雪斎は、ついに帯を取り除いてしまう。

はらっ。

と布の擦れる音と共に、上半身の膨らみがうっすらと広大に見える。

その格好は、かろうじて山の頂上が見えない程度に隠れており、妙な色っぽさがある。

そこで、やっと動くことができた広大は、慌てて声をだす。


「ちょっ!? お前なにして!!」

「もっ。もう少し待ってください! 今下も脱ぎますので!」

「脱ぐな! 誰も、望んでないだろ!」


しかし、静止の言葉も虚しく雪斎は止まらない。

どうにもできないと感じた広大は、後ろをむくと、目をきつく閉じることで、今の状況を打破しようと試みる。

しかし、これがまさかの逆効果。

視覚を無くしたことにより、妄想が膨らみまくったのである。

布切れの音が、何倍にもなって広大の頭に響く。


(これは、まずい!!)


広大は、両耳を塞ぎながら、小言で寿司の名前を連呼する。


「えび! まぐろ! いか! いくら! たまごにえんがわ! あじにフカヒレ!……あっ、フカヒレなんてねーや……」


そう呟いくと、広大の思考は、そこで急停止した。

なぜなら、雪斎の両手が広大の胸の前に現れたからである。

つまり、後ろから抱きつかれたことになる。

そこまで気がつくと、自分の背中に当たる柔らかい物に、広大の意識がいってしまう。


「……私は、ずるい女です」

「へっ!?」

「あなたの優しさに、漬け込むようなことを……。今、しているのですから……」


背中に伝わる柔らかな感触に、意識を奪われていた広大だが、雪斎の声が、震えていたことで、頭が冷静になる。


「私は、一度も汚されていません。そんな私を広大が抱けば、罪悪感で、必ず2代目今川義元になってくれるでしょう」


雪斎の言葉に対して、確かにそうだと心中で納得する広大。

この雪斎の捨て身のさくは、必ず成功する。

しかし、残念ながら今の状況では、その策は、完全に失敗する。

なぜならば、広大は、優しすぎるが故に、泣いている女性を抱くことができないのだ。

そう……雪斎は、今広大の背で()()()()()のだ。


「……なんで、泣いてんだよ?」

「……怖かったんです。これは、ある意味の賭けですから」

「賭け?」

「あなたに、嫌われるかもしれない策です」

「……俺に嫌われたくないのか?」

「…………」


ぐすん。

鼻をすする音共に、広大は、弾かれたように回転していた。

つまり、抱き合う姿勢になったのだ。

雪斎の左頬に、できるだけ自分の右頬をつける。

雪斎の姿と、顔を見たくなかったから故の行動である。


「俺なんか。お前にとっては、2代目今川義元以外に価値なんてねーだろ」

「そんなことありません!!」

「おっ。大声出さなくても平気なように接近してんだから、大声出すなよ」


あなたが、変なことを言うからです。

と小さな声で言った雪斎は、驚きの発言をした。


「あなたは、とても素敵すてきな方です。でなければ、私の心を盗めるはずがありません」

「……えっ!?」

「あなたが、延暦寺の坊主共に怒っている顔を見た時から、もしかしたら、引かれていたのかも知れません」


雪斎の頬が、熱くなっている。

しかし、広大の顔も真っ赤なので、お互いにどちらの体温かわからないだろう。


「この戦国の世では、女は道具です。戦では男に勝てない女は、政略結婚にしか、使えません」

「そんなことねーだろ。泰能だって、元信だって、十分強いだろ?」

「強いですよ。ですが、心が弱いのです。どんなに力や頭が強くても、根っこは女の子ですから。不安になったりするんです」


心……。

それは、広大が今一番知っているかもしれないことであった。

なぜなら色々あったが、つい最近フラれたばかりであるからこそ、傷つくことや、心細いことがわかったからだ。


「ですから。将軍の家臣から、私を守ってくれたあなたを見たとき……私は、自分があなたのことを好きになったと自覚しました」

「そっ。それは男として当然だろ?」

「あなたの世界は、そうなのでしょう。ですが、この時代は、力や権力がモノを言います。あなたも、あの客人達のように、無視してもよかったのです」


雪斎の手に、自然と力がはいる。

それを背中で感じた広大は、次の言葉を静かに待つ。


「……本当は、京で別れようと思っていました。すでに、私の頭の中では、2代目今川義元の計が、できあがっていましたから……。ですから、あなたを危険な目にあわせるよりかは、ここで別れた方がいいと思っていました」

「……なら、どうして?」

「将軍から、刀を貰ったあなたを見ていたら。あなたなら、天下を取れるのでは? と思ってしまったのです」


買いかぶりすぎだ。

と広大は思った。

なぜならば、将軍と知らなかったから、あのように話せたのだ。

知っていたら、とてもあんな風には話せなかっただろうと、目を伏せる。


「そして、同時に私にある欲がでてしまった。あなたと、もっと一緒にいたいという欲です」

「そっ。そうか……。なら、どうして俺に教えてくれなかったんだよ。2代目今川義元の計ってやつ」

「怖かったんです。あなたにそのことを話してしまえば、どこかに行ってしまうかもしれません。しかし、一番怖かったのは、あなたに嫌われるのではないかということです」


そんなことで嫌わない。

そう断言しようとした広大だが、やはり、今川義元をやるのは、嫌だったかもしれない。

そう思うと、言葉にすることができなかった。


「そして、その予感は少し当たってしまいました。あなたに、見損なったと言われた時、心が締めつけられたみたいに痛かった。そして、無意識のうちに身体が震えてしまいました」


咳ではなく、本当に震えていた。

自分のしたことに、広大は、今更ながら後悔した。

いくら怒っていたとはいへ、あんなきつい言葉をぶつけてしまったのだ。

自分のことを、好きになってくれた女性に……。


「お前の覚悟は、すごいもんだ」

「えっ?」


雪斎から離れて、再び後ろをむける広大。

雪斎には見えないが、広大の瞳には、確かな覚悟が灯っていた。


「やるよ。今川義元。どこまで出来るかわからないけどな……」

「広大……」

「だっ。だから、早く服を着ろ! まったく、始めから全て話してくれれば、服なんて脱ぐ必要ねーんだから」


広大の覚悟を言葉から感じたのか、雪斎は瞳に涙をうかべつつ微笑む……。

これが、松林広大から、戦国大名今川義元に変わるターニングポイントである。




「うおっ!いてっ!」

「殿、変なところに力を入れているからです。流れに任せるのですよ」

「流れってなに!?上下運動に合わせろってのか?」


馬に乗って、今川館に向かっている広大と雪斎。

乗馬じょうばなど、まったく経験がない広大は、雪斎の腰に手を回して、バイクでいうところの2ケツしている状態である。

しかし、これが思ってたより痛いらしく、先ほどから情けない声をあげまくっている。


股関節こかんせつが! いや、太股ふともももいてー!」

「ふふっ。ゆっくり馴れればいいんですよ。それに、こうして殿と二人で歩けるのも、素敵なものですから」

「普通は男女が逆なんだけどな。なんか。情けなくて、恥ずかしいんですけど」


そんなことを話しつつ馬を歩かせていると、民家が見えはじめた。


「おろ? 田園から、いきなり民家になったな」

「当然ですよ。ここは、城下町ですから」

「ええっ! いつの間に、城下町にはいったの!?」

「殿が、痛みと戦っている間につきましたよ」


あと少しで、今川館らしい。

すると、広大を見つけたらしい農民が、声を張り上げる。


「雪斎様と義元様が、戻られたぞ!!」


すると、ワラワラと人が現れ、あっという間に大勢の人が、一列に並び始める。

それは、まるで花道のように……。


「お帰りなさいませ! 雪斎様、義元様!!」


そして、一斉に土下座をする。

そのあまりの行動に、口を開けて唖然とする広大。

対する雪斎は、普通な顔で馬を進めていた。


「待て。止まれ雪斎」

「どうかなさいましたか?」


広大の静止に対して、雪斎が、不思議そうな顔で馬を止める。

広大は、不愉快であった。

同じ人間が、まるで違うように見えたからだ。

馬から危なっかしく降りた広大は、ため息をつくと、声を張り上げる。


「顔をあげろ!」


すると、その言葉に広大の目の前の農民が、体を震わせながをあげた。

その顔には、怯えの表情……。


「なっ。なんでございましょう?」

「……なんで、怯えてんだ?」

「ひぃ! 申し訳ございません!!」


そう言うと、再び農民の男は、頭を下げる。

フツフツと、広大の怒りが溜まる。

広大と農民の場に来た雪斎は、不思議そうな顔をして、震えている農民を見る。


「その者が、気にくわないのですか? しかし、何かしたわけでもないでしょうから。許してさしあげたらどうかと」

「なんだこれは?」


雪斎の言葉が終わる前に、広大が声を絞り出す。


(まるで、王様みたいじゃねーか)


「お前ら! 全員頭を上げやがれ!」


大声を出した広大に対して、農民が一斉に顔をあげた。

どの人間も、恐れの顔である。


「俺の名前は、今川義元。この駿河国を、治めるものだ」


そんなこと、知らない人がいないのにも関わらず、広大は敢えて言う。


「今からお前らに、初めての命令をする」

「初めてでは、ないですよ」

「やまかましいぞ雪斎。記憶を無くした俺からの、初めての命令だ」


そんな設定。きいてませんよ? 勝手に、決めてー。

と小言で言う雪斎を無視した広大は、右手を前に突きだし、命令をする。


「これから俺が来たからといって、土下座をするな! 普通に過ごせ。自由に生きろ。笑顔で挨拶しろ。以上!」

「……そっ、それだけですか?」

「そうだよ。はい。自由に生きていいよ! 米作りもよし。嫌なら、ここから出ていくもよし。遊びたいなら、遊んでよし! 解散!」


突然の命令に、場が静まりかえる。

いきなりのこともあり、戸惑っているのだろ。

そんな様子に、雪斎が助け船を差し出す。


「難しく考えなくて良いのです。米作りにげみ、義元様を見かけたら、笑顔で挨拶すれば良いのですよ。殿は、明日からそうしろと言っているのです」

「本当に、それだけでよいのですか? 義元様」

「いいよ。てか、そうしろ」


はぁ。わかりました。

そう言うと、ぞろぞろ解散する農民達。


「これで、満足ですか?」

「おう! サンキュー。雪斎」

「産休なんてしません。男と、寝たことはないと教えたはずです」


ぷくーと、頬を膨らませて、雪斎が怒りだす。

その表情を見て、慌てて広大は訂正する。


「ありがとうって意味さ。南蛮では、そう言うんだよ」

「南蛮? 坊主にむかって、南蛮の話をするのですか?」

「難しいなー。そんなこと気にしてたら、戦で負けるぜ?」


笑いながら、雪斎に言う広大。

半分嬉しそうに、半分怒りながらの顔で、雪斎は馬を歩かせ始めた。

当然、広大を乗せずに……。


「ちょ! おいてくなよ!」

「知りません。歩いてくれば、良いではないですか」


クスクス笑いながら、雪斎は馬を走らせる。

それに慌てて広大は、笑いながら追いかけた。

二人が向かう先は、今川館。

広大の居城となる場所である……。

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