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今川義元の野望  作者: 高野康木
日常編
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27話 元信の忠義

武士は、忠義が命……。

それが、元信の考えである。

今川に尽くしていくことが、元信は、自分の人生であると考えていた。

たとえ、それがどんな主であっても……。


「あんたさ。殿に意見とかしたことないけど、不満とかないの?」


雪斎が今川に来てからしばらくしたある日、一度だけ泰能が元信に尋ねたことである。

いつものように素振りしていた元信は、素振りを中断して、首を傾げた。


「不満?特にない」


そう答えると、泰能は目を丸くした。

とうぜん、あり得ないと思っから驚いたのだ。

しかし、元信には、それがわからなかった。

なぜなら元信にとって、殿の命令は従うことが当たり前であるからだ。


「はー。あんたって、本当に何にも考えてないのね」

「雑念は捨てる主義だ。そのおかげで、小生は強くなれる」

「雑念って。策とか少しは考えてもいいでしょ?」

「それは、泰能の方が適任だ。小生には、小生にしかできないことをする」


そう答えると、泰能の呆れた顔を気にすることなく、元信は素振りを再開した。





時は、泰能が手紙を懐から取り出したところに戻る。

広大に、今日の素振りの成果を報告しようとした元信は、泰能が手紙を懐から取り出す場に出くわした。


「泰能。何をしておるのだ?」

「うん?あぁ元信。なんでもないわよ」


独り言を呟いていた泰能は、少し急ぐように、懐に手紙を戻す。

その動作に、少し違和感を覚えた元信は、鋭い目つきで、泰能の事をみる。


「……何よ?」

「……いや。お前らしくないと思ってな」


しばらく、場を静寂が包む。

その静寂を先に破ったのは、泰能であった。


「私だって、考え事の一つくらいするわよ」

「……それは、珍しい事だな」


ため息をついた泰能は、その場から立ち去ろうとするが、元信が、突然泰能の手を掴む。

それに驚いたのか、泰能が口をきつく結ぶ。


「考え事を無くすには、手合わせが一番だ」

「それは、あんたの理屈でしょ?」

「その通りだ。だが、断ると言うなら、やましいことでもあるのか?」


珍しく元信の視線が、心の中まで射抜くように、鋭くなる。

その視線に、冷や汗が流れる泰能であったが、そこは軍師。無表情を貫く。


「……いいわよ。手合わせしてあげる」

「うむ。それがいい」


そう言うと、元信は手を離した。





いつも、広大が素振りをしている広間に来ると、元信は、適当な木刀を掴み、中央に正座をした。

内心、元信は不思議であった。なぜか、今日の泰能は危険だと、感が告げているのだ。

そんな時は、相手と手合わせをするのが、元信にとって一番の方法である。

刃をぶつければ、その人物の本音がわかるからだ。

泰能は、愛用している木刀を自室から取ってくると、元信と少し距離をとって座る。


「……では、始めるとするか」

「その前に一つきいていいかしら?」

「なんだ?」

「どうして、私と手合わせしたいのよ」

「……愚問だな。今日の泰能は、本心を隠しているからだ」


それだけ答えると、元信は、木刀を正眼に構える。

これ以上の対話は、意味がないと思ったのか、泰能も、正眼に構える。

先手で動いたのは、元信。鋭い踏み込みで、ドンという音が、部屋中に響く。

狙いは、泰能の胴。しかし、泰能は、瞬時に木刀で、攻撃を止める。


「くっ!」

「それで、止めたつもりか!!」


あまりの攻撃の重さに、泰能が苦悶の表情をうかべるが、元信は、かまわずにもう一歩踏み込んで、力任せに、振り払う。

その一撃に、泰能の身体は、大きく右に吹き飛んでしまう。

追撃のため、元信が追いかける。しかし、泰能は、床に片手をつくと、すぐに体制を立て直し、元信に切り上げの攻撃を仕掛ける。

その事にすぐに気づいた元信は、踏み出した脚で静止し、攻撃を避ける。

しかし、その程度で攻撃を緩める元信ではない。すぐさま一歩踏み出し、上段切りで泰能の頭を狙う。

それに反応した泰能は、なんとか頭上で元信の攻撃を受け止める。

カーン!という、木刀がぶつかる音が大きく響き、押し合いに突入した。


「っ!正気なのあんた!完璧に、頭割れる威力じゃない!!」

「小生は、いつでも本気だ!手抜かりなどしたりせん!」

「手合わせで、殺す気なのかって言ってるのよ!!」


泰能が、木刀を斜め下にずらして、元信の攻撃を流す。

しかし、そうくるとわかっていた元信は、途中で向きをかえて、横凪ぎに振る。

その攻撃は、見事に泰能の腰を捉えたが、接触する寸前で止まった。

あまりの迫力に、目をつぶって痛みに耐えようとしていた泰能は、おそるおそる目を開けて、寸土めされてることを確認すると、安堵の息を漏らした。


「内蔵が破裂する覚悟したわよ」

「小生が、無用な殺しをするわけあるまい。先程の振り下ろしも、泰能が反応できなければ、寸土めにしていた」


静かに息を吐くと、元信は、木刀を肩に担いだ。

暫しの沈黙が訪れる。その間も元信は、泰能を視線から離そうとはしなかった。

すると、そんな二人の間に、突然親長が入ってきた。


「なっ、何してるんですかー!元信お姉さま!泰能お姉さま!」

「親長!?」

「すごい音がしたと思ったら、本気で手合わせしていたじゃないですか!」

「心配するな親長。殺したりなどしない」

「それは、当たり前です!」


焦った顔の親長は、わたわたしながら、二人の顔を交互にみる。

すると、泰能は息をはいて、大広間から立ち去ってしまった。


「泰能お姉さま!あの……。ひょっとして、邪魔でしたか~!」

「いや、丁度良い。あのままだったら、殺していたかもしれん」

「えっ……」


とつぜんの元信の発言に、親長が硬直するが、元信は、真剣だった顔を笑顔に変える。


「冗談だ」

「笑えませんよ!」

「むっ?そうか。では、もう少し冗談を面白くせねばな。殿に笑ってもらえん」

「殿に今の発言したら、怒られますよ~」

「親長」

「はい?」

「もし、我々家老の中に裏切り者が出てきたらどうする?」


元信のとつぜんの質問に、うーんと首を傾けて考える親長。


「やはり、切腹しかないと思います。殿がなんと言おうと、家老の私たちには、信念があるはずですし」

「……そうか」

「まぁ、ありえない話ですね」


親長が、笑いながらそう言うと、元信は、視線を足下に落としながら、ぼそりと小さな声で呟いた。


「そうなったら、小生が、介錯をしなければな」

「何か言いました?」

「いや、なんでもない。それより、飯でも食べに行くか」

「元信お姉さまのごちそうですか!?」

「たわけ。親長の奢りだ」

「ふえ~。私がですかー」


そう言いながら、元信は広間を後にした。

久しぶりなので、量の少なさなどは、お許しください。

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