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今川義元の野望  作者: 高野康木
美濃編
26/32

23話 妹のために

ゆっくりと、雲が流れている……。

自らの陣営についた氏真は、雲を見つめながら、そんなことを思っていた。

自分の役目は、敵の援軍などを防ぐこと。

しかし、そんなことをしなくても、敵の援軍などはあまり来ないだろうと、雪斎が言っていたため、氏真は軽い気持ちで、陣営の床几に座っていた。


「お兄様。大丈夫かしら?」


深いため息をついて、氏真は俯く。

もう少し、広大の役にたちたいと思っているが、どうにも簡単にはいかないらしい。

実は、みんなに内緒で氏真は、元信に刀の扱いを教えてもらったり、泰能に、策略を教えてもらったりしていたのだ。

しかし、その二つともあまり良く伸びていない。


「やっぱり、私は人徳しかないのかな?」


広大から教えてもらったことだが、やはり、武勇か知謀のどちらかが欲しかった。

そんなことを考えていると、陣幕の中に、一人の兵士が血相を変えて入ってきた。


「どうしたの?」

「た、大変です!五千の斉藤軍が、こちらにむかって進軍中とのこと!!」

「えっ?」


人間、あまりにもありえないことは、頭に入ってこないものだ。

氏真が率いている軍は、およそ千ほど。

その軍に対して、斉藤軍は五千。

これが、元信や雪斎ならなんとかなるかもしれないが、率いているのは、人望の氏真。

しばらく思考が止まっていたが、なんとか兵士の呼ぶ声に反応した氏真は、撤退の指示を出そうとしたが、もう一人の兵士が陣幕に入ってきた。


「泰能殿が、岩村城を開城させたようです!」

「あっ。そうか。ここを動くと、泰能の方に援軍が行ってしまうのよね」


撤退すれば、千の兵が傷つかずにすむが、泰能の部隊が、大打撃をうけてしまう。

逆に撤退しなければ、泰能の部隊は傷つかずすむが、氏真の部隊が壊滅するだろう。

どちらを選択すべきなのか、迷いだす氏真。

氏真は、深呼吸してから、決断をした。


「迎え撃つわ!」




斉藤軍を引き連れている半兵衛は、馬に乗りながら、空を見上げていた。

あの影の支配者である安倍晴明から、信頼されている今川義元……。

どうにも、半兵衛は気になっていた。


『気になりますか?』


どうやら、もう一人の自分である重虎には、バレていたらしい。


『気になるだろ。あたしが聞いた噂では、女とみれば、すぐに発情する猿のようなやつなんだぞ?』

『そうですね。しかし、わたしのことは助けてくれましたよ?』

『人を、一人も殺さないところもおかしいしな……』

『そうですね。まるで、人が変わったみたいです』

『みたいじゃなくて、変わったんだろう?』


二人で笑い合うと、半兵衛は真剣な顔に戻す。


『問題は、龍興だな。あの野郎、あたしを見る目が気持ち悪い物に変わってやがる』

『龍興殿は、女遊びが好きな方ですからね。それよりも、私が心配なのは、龍興殿が、何かをしでかすことです』

『あんな当主に、忠義を誓ってるやつなんているのかよ。あたしらは、道三に義があって仕えてはいるが、 あんな野郎には、仕える必要なんてないぞ?』

『それでも、道三殿のお孫様ですから。私たちも、出来るだけ手助けしないと……』

『甘いな重虎。今の義元と同じくらいにな……』


最後にそう言うと、半兵衛は、重虎との会話を終わらせた。

斉藤龍興は、飲んだくれの女好きである。

半兵衛の智力と、難攻不落である稲葉山城をあてにして、余裕を持ちすぎているのだ。


「城を作るのは、石垣などだけではない。人も加わらなくては、難攻不落とは、いえないのさ」


そう小さく呟くと、進軍速度を少しおとすのだった。




馬を走らせながら、広大は祈っていた。

頼むから、迎え撃つのはやめてくれと……。

もしも迎え撃つことになれば、氏真は、確実に討死してしまう。


「そんなことだけは、絶対にさせない!!」


休まずに馬を走らせていると、伝令が広大のもとに来た。

伝令役は、どうやら井伊衆の者だ。


「殿。どうやら、氏真殿は迎え撃つ選択をされたようです」

「くそ!やっぱり、そっちを選択しちまったか!!」


最悪な選択を氏真がしてしまったことに、広大は手綱を強く握る。

血も繋がってなければ、全くの他人。でも、この世界では、唯一広大に、家族としての暖かさをくれる人でもある。

せめて、この手できっと怖がっているであろう妹を、安心させてあげたい……。

その思いだけが、今の広大を動かしていた。


「氏真……。絶対に、間に合ってみせるからな!」


その言葉を黙って聞いていた伝令の井伊衆は、静かにその場を後にした。




場所は変わり、墨俣城ーー。

約五千の軍勢を率いている雪斎は、扇子を開いたり閉じたりと、落ち着かない様子で立っていた。

氏真のことは、たしかに心配である。しかし、今の雪斎が心配している人物は、広大である。

優しく、時に恐ろしいほどの怒りを出すあの思い人が、血も繋がっていない妹のために、危険な道を進んでいる。

その場に、自分は居てあげることができない。いっそうのこと、元信に全てを任せて、追いかけたい気持ちもあったが、あの元信のことだ。殿のためだと言って、何も考えずに攻めるに決まっている。

そうなれば、自分より他人が傷つくのを嫌う広大に、後で口うるさく説教されるに違いない。


「元信に、もう少し考える力があれば良いのですが……」


何度目かわからないため息をついて、雪斎は、稲葉山城をみつめる。

頭の中で、どのようにして落とすか策を練っていると、伝令が現れた。


「ご報告します。長政殿の部隊が、大垣城を陥落させました。そのまま、別の道から稲葉山城を攻めるとのこと」

「そうですか……」


長政の率いてる部隊は、総勢六千。本当なら、大垣城を攻めてくれるだけの約束であったが、どうやら、こちらの稲葉山城攻略にも、手を貸してくれるらしい。


「それと。義元殿の行動は、ほとんど病と同じだから、すぐさま稲葉山城を落として、援軍にむかわせる。とも、言っておりました」

「ふふっ。さすがは、殿に信頼されている殿方というところですか……。すぐさま、全軍で攻めます。そう、元信に伝えてください」

「はっ!」


病と同じ……。たしかに、その通りだと雪斎は思い、頬を緩ませる。


「広大のする行動に、驚いていてはいけませんね。さて、そろそろ動きますか」


そう言葉にして、扇子を閉じる。

この戦が終わったら、広大にあるものをあげようと、心に誓いながら。




「うおー!氏真殿!!」


秀吉が大声をあげながら、陣幕に飛び込んだのは、太陽が真上にさしかかった時だ。

あまりの飛び込みに、敵であると誤認識した氏真が、刀を抜いて、秀吉に降り下ろす。


「うきゃー!!」

「あ、あら?猿じゃない!」

「こっ、殺す気でござるか!!なにゆえ、抜刀したでござる!!」

「しっ、しかたないでしょ!敵の忍びかと思ったのよ!!」

「まったく。元信殿ほどの腕前があったら、死んでいたでござるよ」


冷や汗を拭いながら、秀吉がさりげなく氏真の腕をバカにする。

そのことに気づいた氏真だが、心配して来てくれたためか、刀を鞘にしまい、怒りを我慢するように、拳を握りしめた。

しかし、やはり許せなかったのか、秀吉の足をおもいっきり、かかとで踏みつける氏真。

うぴぃ!という声をあげて、秀吉があまりの痛さに足をさすりだすと、その無防備な背中を蹴りつけて、地面に転がす。


「ひ、酷いでござる。心配して駆けつけたのに……」

「一言よけいなのよ。刀を納めただけ、ありがたいと思いなさいよね」


しくしく嘘泣きをする秀吉を、とうぜんのように無視した氏真は、ため息をつく。

秀吉が来てくれたのは、とうぜん嬉しいことだが、今の状態で来ても、危険な目にしかあわないだろう。

そのことを、さすがにわかっている氏真は、秀吉に帰るように言うため、口を開くがーー。


「帰らないでござるよ……」


先手で、秀吉が意思表示する。その瞳には、覚悟が灯っていた……。


「秀吉ー!このアホタレが!!」


秀吉に、なおも帰れと言おうとした氏真だが、その前に広大がとつぜん現れて、秀吉の頭を殴りつける。


「あっ、兄様!?」

「何するでござる~。鬼の兄貴に、餓鬼の妹でござるよ!」

「お前が悪いんだよ!何が身体で払うだ!!」


汗まみれの顔で、秀吉にこれでもかと思うくらい説教を始める広大。

まさか、秀吉だけでなく、広大も来ているとは知らなかった氏真は、慌てて広大の説教に割ってはいる。


「兄様!今すぐ、この場からお退きください!」

「そうでござるよ!殿が討死にしては話にならない……。と思うでござるし、違うかもしれないし~」


途中から秀吉の言葉があやふやになったのは、広大が鬼のような顔で睨んで、お前が言うなという視線を、散弾銃なみに浴びせたためである。

その視線に耐えられなかったらしい秀吉は、氏真の後ろに隠れて、子どものように様子を伺うことに作戦を変更する。


「悪いが、俺は一人で帰るつもりはないぞ?」

「ここを退けば、泰能が危険です」

「なら、俺もここに残るさ。五百くらいは、兵もあるしな」

「何をいってるんですか!敵の兵は五千ですよ?勝てる戦ではないのですよ!!」


とうとう氏真は、涙を流してしまう。

この場に残れば、必ず討死してしまう……。そんなことに、血の繋がりがないにしても、兄を巻き込む訳にはいかない。

討死を覚悟すればするほど、身体が震えて、涙が止まらなくなる。

氏真は、唇を噛みしめながら、拳も強く握る。震えを止めようとしたのだろうが、広大がその拳を優しく包み込むように握る。


「氏真。お前は、優しいやつだな」

「兄様は、お人好しすぎます」

「そうだな。その点は、血が繋がってなくても、似てるところだな」


微笑みながら、氏真を抱きしめる広大。

しばらくその様子をみていた秀吉が、とつぜん顔をあげる。

その顔は、険しく、冷や汗が額にうかんでいた。


「感動してるところ悪いでござるが、敵軍の音でござる」

「そんな!いくらなんでも、早すぎるわ!!」

「やれやれ。そんなに、甘くはないようだな。秀吉!氏真!迎え撃つぞ!」


広大の号令と共に、陣形を作る指示をする氏真と秀吉。

氏真の軍、千五百に対して、斉藤軍の数は、五千。

斉藤軍を率いているのは、軍師竹中半兵衛。対する氏真部隊を率いているのは、復活の海道、今川義元。

二つの部隊が、声をあげて衝突する。

広大の陣形は、無謀とも言える鶴翼の陣形。対する半兵衛の陣形は、安全を確保しながら、敵を倒す魚鱗の陣。

圧倒的兵力差のある斉藤軍が、次々、今川の兵を倒していく。

あまりの兵力差に、馬が無人で走っているほどだ。

そのため余裕をもち始めた斉藤軍は、手柄をとるた事を優先して、我先にと広大目指して、討ち取ろうとする。

その事に気づいた半兵衛が、手柄を優先するなと声をあげるが、まるで通じていない。

つまり、命令が届かなくなっているのだ。


「チッ。これだから、斉藤軍の部隊は扱いずらいんだよ!」

「おいおい。仮にも大将なら、そんなこと言うなって」


舌打ちをして独り言を呟いた半兵衛に、陽気な男の声が反応した。

その声に聞き覚えがあった半兵衛は、焦りながら刀を抜こうとするが、男の方が速かった。

男は、半兵衛を狙わずに、手綱を切断する。

そのため、体重の支えを失った半兵衛は、落馬してしまう。

慌てて起きようとした半兵衛だが、今度は、小柄な女が乗りかかって、動きを封じられてしまう。


「くそっ!こっちの命令が届かなくなるまで、無人の馬に隠れていやがったな!今川義元!!」


足軽の格好をしていたのは、今川義元こと、松林広大。もう一人の人物は、妹の今川氏真だった。

広大達の作戦は、かなり危険であった。

まず、広大の影武者として、直虎に広大の鎧を着させる。ついでに、氏真の影武者は、秀吉がつとめることになった。

次に、氏真と広大は、足軽の格好をして、合戦が混戦になると同時に、馬の腹にしがみつき、半兵衛に接近する。

ここまでに、下手をしたら殺されている可能性が大きかったのだが、斉藤軍が、影武者である直虎を狙っていたのが、幸運だった。


「残念だったわね。これで、私達の勝ちよ」

「よし。おーい!お前らそこまでにしろ!!お前らの大将は捕らえたぜ!」


広大が、半兵衛に刀を突きつけながら叫び、戦をやめるように言う。

これで戦が終わると、広大と氏真は思っていたのだが、なぜか斉藤軍は、にやにやした顔で、広大達を包囲してくる。


「あっ、兄様?なんか、おかしくないですか?」

「それ以上言わなくていいぞ。俺も、おかしいと思い始めたところだ」


包囲が、どんどん狭くなってくる。

さすがに、半兵衛を抑えている意味がないとわかった氏真が、腰から小太刀を抜き取る。


「やはりな。今川、あたしが隙をつくってやるから逃げな」

「やはり?」

「ふん。あたしが気にくわないってことだろうよ。おそらく、隙さえあればあたしを殺せと、龍興殿から言われていたんだろう」

「わかってて、この戦場にきたのか?」

「そうだ……。いや、もしかしたら、少しくらいは信じてたのかもな。だが、結果はこんなもんさ」


半兵衛は、悲しそうな顔でため息をつき、札を数枚取り出す。

その行動に、斉藤軍は槍を持ちながら、突進し始める。


「伏せろ!!」


突き刺さりそうになった瞬間、広大は、半兵衛と氏真の頭を掴んで、伏せさせる。

とつぜんの伏せに、斉藤軍の槍兵が、一瞬混乱する。

その混乱を見逃さなかった半兵衛は、邪魔だと言い、広大の頬に肘てつをきめてから、札を投げる。

すると、札がとつぜんおおかみへびになったため、包囲陣が崩れる。


「今です兄様!」

「さっさと動け!死にたいのかよ!!」

「うるせ、この野郎!誰の肘てつで、脳が揺れたと思ってんだ!!」


ガミガミ文句をいいながら、広大が二人に遅れながら走り出す。

どうやら、あまり持続時間がなかったようで、狼と蛇は、すぐに札に戻ってしまう。


「しまった!お前ら、今川と半兵衛の首をとれ!!」


家老であろう人物が号令すると、敵の全軍が、三人を狙い始める。

槍や弓をなんとか避けていると、井伊衆が、すぐさま護衛のために、煙幕を張りだす。

しかし、攻撃の手はまったく緩む気配がない。


「ちょっと!竹中半兵衛!あんた、陰陽道使いなさいよ!」

「そうだ!俺にかけたみたいに、水を出すとかよ!!」

「バカか!陰陽道だって、万能じゃないんだよ!今のあたしじゃ、一匹狼を出すのが、限界だ!!」

「使えないわねー!」

「なんだと!このまな板!!」

「はぁ!?あんたの方がまな板じゃない!」

「お前だ!!」

「あんたよ!!」

「コラ!ケンカする力あるなら、走り続けろ!!」


言い合いを始めた二人の頭を、軽く叩いた広大は、煙幕のなかをトップスピードで走り抜ける。


「殿!こちらです!」

「うにゃー!!敵が多すぎるでござるよー!!」


煙幕を投げながら、広大を誘導する直虎と、背中に矢が刺さっているのに、なぜか普通な顔で走っている秀吉が、合流する。


「あんた、矢が刺さっているけど?」

「むふふ。心配無用でござるよ!なぜなら、背中には、鎧を二重にきているからでござる!」

「重くないのかよ」

「いや、実際重かったので、氏真殿の鎧を捨てたでござる!」

「なんですって!?このバカ猿!!なんてことしてくれるのよ!!」

「いやいや、氏真殿の鎧がなかったら、死んでいたでござるよ」


そのまま5人で走っていると、とつぜん閧の声が上がる。

その声に、5人が揃って苦い顔をする。


「まさか、敵の援軍!?」

「ありえない。斉藤軍には、援軍を出すほどの人数はいないはずだ」

「およ?あれは、今川の旗ではござらんか?」


秀吉の発言で、全員そちらをみる。

そこには、今川の旗が多数あり、先頭には久しぶりの顔があった。


「殿!ご無事ですか!?」

「親長ー!!遅いぞバカヤロー!!」


今川の家老、関口親長。

三河国を任されていた彼女が、およそ六千の兵を引き連れてきたのだ。


「兄様!親長を呼んでいたんですね!」

「いや。まったくの偶然だろ」

「はぁ?お前、遅いって言ってたろ」

「いや、感情のままに叫んでただけだ」

「殿。泰能殿から、拙者に極秘で呼ぶように頼まれていました。申し訳ない」

「そうなのか?まあ、直虎がしたことならいいわ」


そんなことを話していると、敵の軍がこちらに突撃してきていた。

陣形は、鶴翼。

包囲される前に、広大達は、親長の元まで走った。


「殿!お怪我はありませんよね!?もしもあったら、雪斎お姉さまに殺されてしまいます~!」

「だ、大丈夫だから。涙目になるなよ!」

「殿~!拙者も背中に矢が刺さっているせいで、死にそうでござる~!人生の最後に接吻を」

「あんたは、元気でしょうが!!」

「殿。遊んでいる場合ではないはずです」


泣きながら広大に抱きつく親長。

なぜか、嘘泣きをしながら接吻をしたがる秀吉に、跳び蹴りをくらわす氏真。

あまりのお気楽ぶりに、半兵衛は、呆然としていた。

こんなやつらに、自分は戦を仕掛けたのか?

そう思うと、自然と笑い声が出てしまい、全員の注目を浴びる。


「お前ら、戦中ってわかってんのかよ。まるで、平和な世界にいるみたいに、じゃれつきやがって」

「でも、こういう方が楽しくないか?」


半兵衛の言葉に、広大が微笑んでかえす。

その返しに、ぽかーんとしていた半兵衛に、広大は驚くべき発言をする。


「半兵衛。お前は、龍興さんとかいう人に裏切られて、今はフリーなんだよな?」

封力ふり?なんの話だ?」

「あー。えーとだな。簡単にいうと、今は一人なんだよな?」

「あぁ、そうだ」

「ならよ。俺に仕えてみないか?」


数秒沈黙が流れる……。

半兵衛は、顎に手をやると、考え始める。


『楽しい世界……か。そんな世界がくるとしたら、どうする?』

『ふふっ。賭けてみますか?』

『そうだな。今の乱戦を終わらせられるなら、やってみるのもありかもな』

『そうですね……。困難な道ではありますが』

『あたしは、賭けてもいいと思うが……。また、傷つくかもしれないぞ?』


半兵衛の発言に、重虎が沈黙する。

もともと、半兵衛と重虎は、一人の人間だった。

重虎は、この世に産まれたときから病弱であり、外で遊ぶことができなかった。

そんな重虎の楽しみは、陰陽道の本や、歴史的な陣形などの本を、一人で読むことだった。

そんなことが、日常的に続いていれば、知識は壮大な物になる。

そこに目をつけた人物も少なくなく、ある日、重虎は、悪用しようとした国の者に、拐われそうになった。

そのときだ。重虎の中に、半兵衛が現れたのわ。

現れた理由は不明だが、おそらく自然エネルギーを蓄えてなかった札を使用したことだろう。しかし、あそこで使っていなければ、拐おうとした者を達を撃退することは、できなかったはずである。

それから、重虎は、人に笑顔をむけることがなくなってしまった。

唯一心を開くのは、半兵衛だけ……。

そんな重虎を笑わせた男が、今まで二人いる。

一人は、斉藤道三である。道三だけには、半兵衛は、心を開いていた。

そんな道三も、息子に討たれてしまい、また心が塞がってしまったが、その心の扉は、わりとすぐに開いた。

開けた人物は、今川義元。

あの男に助けられて、重虎は笑顔を表にだすようになった。

だから半兵衛は、仕えても問題ないと考えていた。

そして、重虎の答えもわかっている。

なぜなら、二人は、一人の人間なのだから。


「決めた!仕えてやってもいいぜ!」

「おっ?良い返事だ!」

「そうと決まれば、殿。みなさんに、渇をいれてあげましょう!」


親長が、そう言うと、広大に種子島を渡す。

困った顔を広大がするが、直虎が無言で頷く。

事情を知らない他の三人は、首をかしげて、広大をみる。


「実は、殿は毎晩種子島の訓練をしていたんですよ~!」

「親長殿が、岡崎に行ってからは、拙者が見守っておりました」


三人に説明している中、広大は種子島を構えていた。

深呼吸を2回すると、眼に覚悟が宿る。


「おい。狙うなら、あの家老にしとけ。そうすれば、早く終わる」

「殿。止めは、私がします。隙だけ作ってください」


半兵衛の言葉と親長の言葉を聞いてから、広大は引き金をひいた。

タァーン!

広大の弾丸は、狂わずに、斉藤軍の家老の馬に当たる。

そのため、馬がいうことをきかなくなり焦り出したため、家老が、慌てていると、その額に矢が刺さり、家老が落馬した。

とつぜんの死に、軍は混乱し始めた。




稲葉山城ーー。

今川の家臣が、全員集まっており、中央には斉藤龍興がいる。

デップリとした体で、酒の臭いを口らか漏らしていた。


「殿。介錯なら、小生が……」

「あんた。奇跡的なまでに、こいつの性格を理解してないのね」

「元信お姉さまは、変わらないようで何よりです」

「殿、どうなさいますか?」

「重虎。どうしたい?」


広大は、隣に座っている重虎をみる。

もちろん、重虎の答えをわかっての質問だ。


「解放させてあげてください。お願いします」

「やはりな。小生が切り捨ててやろう」

「きちんと聞いておきなさいよ。解放させてって、言ってるのよ」

「元信お姉さまは、捕まえたら斬首ですからね。基本的に聞いてないと思いますよ?」

「雪斎。解放だ」

「はい。わかりました」


雪斎が、龍興の縄をほどこうとすると、龍興がイヤらしい視線をおくる。

あえて、その視線をスルーした雪斎だが、広大はそんなことをしなかった。

バスン!


「ひぃ!!」


龍興の膝近くに、広大が銃弾を打ち込む。

その顔は、無表情であるのに、仁王像のような気配が出ている。


「おい。調子にのってんじゃねーぞ」


種子島を泰能に投げて、広大が立ち上がる。

ゆっくりと歩を進めながら、龍興に迫る。


「なっ、なんだ。解放してくれるんだろ?」

「この期に及んで、まだ女が好きなのか?」

「あっ、当たり前だ!お前だって、女を抱きまくっていただろ!」


その台詞に、今川の家老達が、全員武器を手に持つが、広大が手で止める。


「そうだな。女を好きになるのは、悪いことではない。だけどな……」


ガスン!

おもいっきり殴りつけると、龍興は壮大に倒れる。


「俺の女達にも目をつけるなら、話は別だ。重虎に免じて、これくらいで許してやる。とっとと、その汚い面を引っ込めろ!」


そういうと、広大は踵を返して、もとの場所に戻り、座り直す。

龍興は、出ていく最後まで、覚えていろと大声で叫んでいた。

静まりかえった場を、広大が手を叩いてーー。


「宴の準備をしろ!今日は飲むぞー!!」


その言葉だけで、元気になる今川家の人間たちであった。

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