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今川義元の野望  作者: 高野康木
美濃編
24/32

21話 動き出す闇

今、今川家では盛大なパーティーがおこなわれていた。

主役は、健斗と今川市。

この二人の結婚式をあげるために、清洲城ではドンチャン騒ぎをしている。


「それにしても、とつぜん俺の妹になってくれるなんてなー」


広大は、数日前にお市から告げられたことを、今でも不思議でならないのか、隣の雪斎に聞こえるように独り言を呟く。


「彼女にも、心変わりがあったのかも知れませんね。それとも、浅井を使って我々を滅ぼすつもりかもしれませんよ?」

「冗談でもよしてくれよ。ありそうで、怖いだろ」


そういって二人して笑うと、酒で酔ったのか、秀吉が千鳥足ちどりあしで広大の元に近づいてくる。


「殿~!拙者も、心を入れ換えたでござるよ~!!ですから、もう一度仕えさせてくだされ~!」

「秀吉!悪酔いしすぎだろ!!」

「ダメでござるか~。それなら!殿のために、拙者の美しい身体をみせてさしあげますぞ~!!」


そう言うと、本当に着物をはだけさせる秀吉。


「うわー!止めろ!誰か、今すぐ止めろ!!このままだと、秀吉が嫁にいけなくなるぞ!!」


焦った広大の言葉で、氏真を含む姫武将数名が、秀吉のことを止めに入る。


「ええい!なんでござるか!!離すでござるよー!!殿の性格なら、女子の裸体を見たら罪悪感で、きっと側室にしてくれるはずでござる!!」

「こら!このアホ猿!兄様の弱味を大声で言ってんじゃないわよ!そんなこときいたら、農民の女達が裸体で歩くことになるでしょ!」

「えっ?なんで、俺のために裸体になるのよ。なんの得もないだろ」

「殿はわかってないでござる~!我々農民の女をなめてると痛い目にーー」


そこまで言ったとたん、秀吉が一回転して、後頭部から地面に落ちる。

うぐおーでござる~!!と秀吉が、あまりの痛みに頭を抑えながら地面を転がっていると、その身体を踏みつけた雪斎が、微笑みながらーー。


「あまり調子にのるものではありませんよ?猿鍋にされたいのですか?」


微笑んでいるのに殺気が溢れ出すこの雪斎が、どうやら手首だけで、秀吉を投げ飛ばしたらしい。

ギャーギャー騒ぐ今川の人達をみて、主役の健斗は苦笑いしながら、隣のお市に話しかける。


「賑やかだね。あれじゃ、どっちが主役かわからないよ」

「…………」

「そうだ。お酒貰ってこようか?それとも、水が良いかな?」

「…………」

「えーと……。あははは」


実は、先ほどからお市はこのように無言であり、そっぽをむいている。

唯一救いなのは、美しい顔立ちのため、それほど怒りがわいてこないことであろう。

話題探しをかれこれ10分は頭の中でしていた健斗が、困り果てていると、浅井家の家臣が一人近づいてきた。


「殿。酒をお持ちいたしました」

「あぁ、ありがとう。君も、宴に参加してくれてかまわないからね」

「いえ、私はもしものために殿の側にいるので、酒を飲む訳にはいきません」

「そうかい。では、僕の前にある料理を食べてくれるかな?どうも、お腹がいっぱいになってしまってね」


微笑みながら自分の前にある料理を、家臣に差し出す健斗。

すると、家臣は困り果てた顔をする。


「殿のお食事を食べるなど、私にはできません」

「このままでは、捨てるはめになる。それとも、僕にそんな酷いことをさせたいのかい?」

「……わかりました。それでは、いただきましょう」


健斗に酷いことをさせられないのか、家臣はしぶしぶ食べ始める。

その一部始終を見ていたお市が、今日初めて口を開いた。


「長政殿は、お優しいのですね」

「えっ?」

「あのお方が、一度も食していないことを知っていたから、ご自分の料理をあげたのですよね?」

「あはは。バレちゃたか」


お市の推測は当たっていたらしく、健斗は頭をかきながら顔を赤くする。


「恥ずかしがることはないはずですよ。けして、酷いことをしたのではないのですから」

「まぁ、そうなんだけどね。でも、殿様としては少し甘いのかな?」

「甘いですか……。甘いのは、ああいううつけをいうのですよ」


お市がジト目を送るさきには、頬を膨らませながら近づく雪斎に、困った顔をしている広大がいた。

そんな広大をみた健斗は、苦笑いしながら頷く。


「たしかに。義元公に比べれば、甘くはないかな」


そういって、健斗は酒を飲む。

そんな健斗の顔を眺めていたお市は、小さな声で独り言を呟く。


「悪くはないですね……」




宴も終わり、今川の家臣がほとんど酔いつぶれているとーー。


「そろそろ帰るよ。今日はとても楽しかった」


といって、健斗が帰りの支度を始める。

すると、まだつぶれていなかった元信が大声をあげる。


「何だと!?小生の酒を飲んでいかんのか!!」

「おい。元信が悪酔いしてるぞ」

「ほっておきましょう。酔いつぶれる前の元信は、だいたいあんな感じです」


頬をひきつらせている広大に対して、動じていない冷静な雪斉が言う。

そんな二人の前には、お市がいる。

何も言わずに行くのは、さすがに礼儀になってないと思ったからだろう。


「まったく。今川の連中は、うるさいし不潔だわ」

「あはは……」


お市の発言に軽くキレた雪斉が、薙刀を取りだしたが、広大が笑いながらその手を掴んで止める。


「こちらから嫁入り道具は揃えたけど……。本当に、着物だけでいいのか?」

「えぇ。着るもの以外は、邪魔なだけだし」


広大的には、織田家にある物を好きなだけ持たせてやるつもりでいたのだが、お市が着物だけで充分と言ったので、本当に軽い嫁入り道具になってしまったのだ。


「あと、お付きの人間もいらない。今川の連中とは、すぐに別れたいから」


再び雪斉が薙刀を取りだすが、広大がまた止める。


「わかった。お付き人間は、無しにするよ。他に用事はあるかい?」

「そうね。あるとすれば……」


そう言うと、お市は突然広大に抱きついてきた。

あまりにも突然なことで、広大は石化するが、雪斉は烈火の如く炎を体から放出する。


「……気をつけなさい今川義元」

「へっ?」


どうやら、お市が抱きついたのは、他の人間に会話を聞かせないためだったらしい。

そのことがわからない雪斉が、薙刀を振り回し始めたが、広大の表情をみた瞬間、お市のしたいことがわかったのか、頬を膨らませて薙刀を地面に突き刺す。


「私のところには、多くの男が寄ってきてたから、それなりに情報が来てたの……。その情報の中には、あんたを倒すための計画が、どこかでおこなわれようとしているみたいよ」

「……それは、教えてくれてありがとう。でも、君からしたら、教えない方がよかったんじゃないのか?俺のことを殺せるんだから」

「それもそうね。初めは、教えるつもりなんてなかったけど、あなたには借りがある。何より、同盟国を助けないのはおかしいでしょ?」

「借り?」


広大がそう言うと、お市はやっと離れて、微笑みながら、後ろにいる健斗を見つめる。


「素敵な殿方に嫁がせてもらえた借りよ……」


お市の言葉に、広大は微笑む。


「だろ?あいつは、日本中探してもそうそういない男だからな」

「それと、あと一つ言っておくことがあるわ。お兄様」

「お、お兄様?」


とつぜんの発言に、顔を赤くする広大。

そんな広大にウィンクしたお市は、広大にとって、意味のわからない発言をした。


八方美人はっぽうびじんばかりしてると、その内刺されますよ!」


その言葉を言い残すと、お市は健斗の元に走っていき、何やら会話をしだした。

意味がわからない広大は、口を開けているだけだが、雪斉は納得したように頷いている。

すると、健斗が広大の元に歩いてきた。


「広大とこれからの話をしてきなって、お市から言われたよ。……どうしたの?」

「なぁ健斗。はっ、八宝菜はっぽうさいってなんだ?」

「えっ、八宝菜?たしか、中国の食べ物じゃなかったけ?」

「俺は、八宝菜なのか?」

「はぁ?広大は、どちらかと言えば八方美人でしょ?」

「それだ!俺は、八方美人なのか!?」

「うん。その通りだよ」

「美人!?なんなら、イケメンの方が嬉しいわ!!」 

学力がよろしくない広大は、八方美人の言葉がわからないため、美人という単語だけで、落ち込みだした。

せっかく、これからの話をしようとしていた健斗だが、広大が落ち込んだため、どうしようかと迷っていると、雪斉が一歩前に出てくる。


「今の殿では、話しになりませんので、私がきいておきますよ?」

「本当?では、広大にこう伝えてくれ」


ゴホンと咳払いをしてから、真剣な顔になり、健斗が言葉をはっする。


「そちらの動きに合わせて、こちらも動き出す。美濃を攻めるときは、教えてくれて」




京のとある場所。

お歯黒に白い顔の、いかにもおじゃるな人物が、苛立ちのためか、足をならしている。

その人物は、関白かんぱく近衛前久このえさきひさ


「ええい!まだでおじゃるか!!」


ついに怒りが抑えられなくなったのか、近衛は、大声を部屋に響かせる。

すると、先ほどまで絵巻物を見ていた美しい顔の男が、立ち上がる。


「やれやれ。落ちついたらどうです?そんなにお怒りになっても、美しい顔がひどくなるだけですよ?」


そう言いながら、近衛の顎を優しく持ち上げるが、とうの近衛は嫌そうな顔をすると、手に持っていた扇子で男の手をはじき、口をへの字にする。


「気安く我に触れるなでおじゃる。朝倉義景あさくらよしかげ。普段は絵巻物しか見ていないお主が、なぜに毎回会議だけには参加するのか今だにわからん」

「それは、あなたに会いたいからですよ。それき、戦など進んでするものではないですよ。そうでしょ?浅井久政殿」


義景が、柱の裏に立っている長政の親である久政に語りかける。

すると、久政は自身の顎をなでながら、義景達のところに歩いてくる。


「確かにそうだが……。私は、天下をとるつもりでいる。そのためなら、戦もしなければならん」


久政がそう答えると、義景は大げさにため息をついて、自身の頭に手をおく。


「やれやれ。久政殿は、私と同じく戦が好きではない人だと思っていたのですけどね~」

「久政は、戦がへたなだけでおじゃる。実力があるのに、戦をしない義景殿とは違うでおじゃる」


近衛の言葉に、怒りの表情になる久政だが、当の近衛は知らん顔して、周りを見渡す。


「どこじゃ?他のやつらは、どこにおるんじゃ!」

「他のやつらは、無粋な奴らばかりですからね。来る途中で死んでるんではないですか?」

「ええい!お前の願望などきいてないでおじゃる!」


他の人物達に本当に興味がないのか、義景は懐から絵巻物を取りだすと、自らの世界に入ってしまう。

そんないい加減な義景に切れた近衛が、義景の背中を何度もパンチしているが、どうやら、自分の世界に入ると何も気にならなくなるようだ。

あまりに何度も殴っていたため、近衛が息切れしていると、義景の絵巻物にとつぜんナイフが刺さる。


「……くそ女。殺されたいのか?」


先ほどまでの甘い顔からは、想像ができないほどの、鬼のような顔になる義景。

その視線の先には、チャイナ服のように太ももまで見えている刺激的な服をきた女性が立っていた。


「あら。あなたの本性が丸見えよ。隠さなくていいのかしら?」


その女性は、茶色のロングヘアーをかきあげると、吸い込まれそうな美しい唇を、ニヤつかせる。


「小娘の分際で……。死にたいらしいな」


義景は、立ち上がると共に、そばに置いておいた刀を取ろうとするが、そこに刀がないことに今気づく。


「カリカリすんなよ変態男。そんなんじゃ、地獄に堕ちるぜ?」


手に持っているかきにかぶりつきながら、数珠じゅずを首から下げている男が言う。

姿はお坊さんのように見えるが、目つきや立ち振舞いがまるで山賊のようである。


「腐れ坊主……。私の刀を返せ」

「言葉には気をつけろよ。死んだときに、お経を詠んであげねーぞ?」

「黙れ。ろくに表だってお経を詠まんくせに、戦だけは参加するエセ坊主が」

「おうおう言うねー!!絵巻物にしか、恋ができねー腐った男のくせによ!」

「貴様は、見習い僧に弟子入りでもしてろ。欲望の塊が」

「そうさ。殺し良い!酒飲め!女を抱きまくれ!それが俺の性格さ!そうだろ?松永ちゅあーん」


坊主の姿の男、本願寺顕如ほんがんじけんにょが、ナイフを投げた女、松永久秀まつながひさひでの肩を掴んで抱き寄せようとするが、ナイフを取り出した久秀が、顕如の喉元に突きつける。


「触らないでくれる?私は男が嫌いだけど、その中でも坊主は一番嫌いなの」

「おおっと!相変わらず恐ろしいね~」


本当に驚いたようで、冷や汗をかく顕如だが、久秀は表情を変えずに刀を奪い取ると、義景に投げて返す。


「京都の絵巻物を持ってきてあげるから、兵士を少し貸してくれない?」

「京都の絵巻物なら、腐るほど持っている」

「へー。幕府が持ってるものも?」

「……どういうことだ?」

「簡単さ。久秀がそろそろ幕府を潰すんだろ?」


とつぜんの発言と、誰もが嫌になる気配を出しながら、最後の一人が姿を現わす。

幼い町娘の姿だが、その口調と気配は、まるで違う人間のようである。


「化け物め。あいかわらずムカつくぜ」


毒をはく顕如に、町娘の人物、芦屋道満あしやどうまんが首を傾げていう。


「君には多くの女を送ってるはずだよ。そんな言葉使いはどうなの?てか、感謝して欲しいほどだよ。僕の力がなかったら、君のような男を好きになる女なんていないよ?」

「なんだと!?」

「遅刻でおじゃる!芦屋道満殿!」


待ちくたびれた近衛が頬を膨らましていると、道満は笑いながら答える。


「ごめんごめん、近衛ちゃん。この身体、馴染むのに以外と時間かかってね」

「勘弁してほしいものだな。毎回違う姿で来られるのわ……」

「久政ちゃんのい・じ・わ・る!僕が、身体を定期的に変えないといけないのを、知ってるくせに~」


服をはだけさせて、クスクス笑う道満。

ため息をついて、胸から視線を反らす久政。


「悪趣味ね。男にすればいいものを……」

「あはは。女の身体の方が何かと良いんだよ。男を篭落ろうらくできるし、暗殺だってできるしね」


久秀が軽蔑な視線を送るが、道満は笑いながら柱に背をあずける。

やっとそろったからか、近衛が咳払いをして、全員を見渡す。


「これで、何回目かの会議でおじゃる。皆、よく来てくれた」

「当たり前だ!今川は許せんからな!」


顕如がそういって、柱を殴りつけると、柱に拳のあとが残る。


「私は今川になど興味はない。ただ、同盟関係の浅井殿が敵にまわすから、援護するだけだ」


再び絵巻物を広げて、勝手に進めてくれと言いたげな義景が、めんどくさそうに言う。


「勝手な奴らでおじゃる。会議にならんではないか!」

「それじゃ、私はそろそろおいとまするわ。これから、足利を滅ぼさないといけないからね」

「小娘。百くらいなら、兵を貸してやる」

「それは、どういたしまして。じゃ、頑張ってね~」


久秀はそういい残すと、本当にその場から立ち去ってしまった。

あまりの早さに近衛が石化していると、今度は顕如が去ろうとする。


「ま、待つでおじゃる!どこにいく!?」

「心配すんなよ。俺も、俺なりに今川を潰す策を考えてる。動き出すなら、教えてくれや」


お経を口ずさみながら、顕如も去ってしまった。

すると、ムキー!といいながら、近衛がじだんだをふみだす。


「会議をする前に、二人も消えるなどおかしいでごじゃる!お主らは、消えるなよ!!」

「慌てないの近衛ちゃん。目的は同じなんだから、こちらが損をすることはないんだしさー」

「目的が同じ?お主の目的は、安倍晴明であろう」

「……きやすくその名をださないでくれるかな?殺しちゃうよ久政ちゃん?」

「落ち着くでおじゃる。情報によると、安倍晴明は今川の後押しをするようだぞ?」


近衛がその情報を口にすると、殺気をだしていた道満が、微笑んで殺気を消す。


「そう。なら、僕たちもそろそろ動こうか。まずは、久秀が幕府を滅ぼしてからだね」

「うむ。久秀が足利を滅ぼした瞬間が、我らの動くときでおじゃる」


近衛が最後にそう締めくくると、各々動きだす。

後に、この人物達が広大を苦しめるのだが、それは、もう少し後の話である。

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