表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今川義元の野望  作者: 高野康木
美濃編
21/32

18話 同盟は強み

安倍晴明が提案したのは、斉藤家に勝つことであった。

その戦には、半兵衛は陰陽道を使ってはいけない。

それ以外は、なんでもしていいという。

そんな事を勝手に説明すると、満足したようにふわふわ浮きながら去っていた。

残された広大達は、何をするわけでもなく解散するしかなかったのだ。


「しかし、あの半兵衛がよく帰らせてくれたよな」

「あの安倍晴明の命令ですから。そうするしかなかったのです」

「でも、陰陽道とかいうのを禁止させられただけだぜ?刀とかで、攻撃してくればーー」

「無理でしょうね。頭はキレるようですが、武勇の方はからっきしだと思いますよ」

「そうなの?」

「あんな細くては、刀など振れるはずがありません」


広大と雪斎は、さっそく清洲城につくと作戦を考え始めた。


「なんなら、一気に攻めるとか?」

「やめておきましょう。陰陽道を使えないとはいえ、頭はキレますから……。返り討ちにあうでしょう」

「ならどうするよ?稲葉山城は、落とすの難しいぞ」

「そうですね……。まわりの城から攻めるのも良いですが、援軍がくると面倒です」

「なら、どうすればいいんだ?」


二人で頭をひねっていると、いつの間にか外は暗くなっていた。

このままでは、意味がないと思った広大は、今日は解散することにした。


「それでは、また明日会いましょう」

「ちょっと待て。今、刀を装備するから」

「なぜ刀を?」

「よし。それじゃ、家まで送ってくぜ」

「……はい?」

「ほら、夜とか犯罪がおこりやすいだろ?だから、家まで送っていくよ」

「はぁ……。それでは、お願いします」


現代人の考えで、広大は送ることにした。

だが、雪斎からしてみれば、自分より腕がない広大が護衛をするというのが、おかしく感じてしまう。

それに、広大は忘れがちだが一応大名なので、雪斎的にはあまりうろちょろしてほしくないのだ。


「あー。疲れたわー」

「頭を使いましたからね。こんなときは、饅頭まんじゅうがいいですよ?」

「あれだろ。糖分とうぶんをとった方がいいとかいうやつ」

「おそらくそうです」


夜道を二人して歩いていると、広大があることに気づいた。


「星がキレイだな」

「そうですか?いつもと、変わらないと思いますが……」

「なんかさ。こうして見ると、俺のような未来人は便利さを求めてしまったがゆえに、大切な物を無くしちまってるのかもな……」

「便利なのは良いことですよ。違いますか?」

「まぁ、そうなんだけどさ……。おかげで、星も見えなくて、月もこんなに明るくなかったけど」


話ながら歩いていると、雪斎があることを思い出した。

ずっと、広大にきこうとしていたことである。


「広大はその……。おしたいしていた方は、いたりしたんですか?」

「お慕い?えーと。先生とかのこと?」

「いえ。そのー。大切な人はいたかという意味です」

「あぁ。そういうこと……」


なぜか、質問している雪斎が赤面しており、期待のこもった目で、広大を見つめてくる。

しばらく、考えた広大はーー。


「一人だけいたね。水島薫っていうやつが」

「えっ!?」

「えっ?なんだよ」

「い、いえ。やはり、いたのですか……」


雪斎的には、いないという言葉を期待していたのだが、まさかいただけでなく、名前まで出てくるとは思ってもいなかった。

自分からきいたくせに、なぜか絶望している雪斎。

わけがわからない広大は、とりあえず立ち止まってしまっていたので、歩き出すことにした。


「その人物は、どんな人なんですか!」

「声が大きいよ。近くにいるんだから、もう少し小さくても聞こえるから」

「す、すいません……」

「そうだなーー。普通だと思うぜ……。あっ。そういえばお節介焼きだったな」

「広大は、今でもその人のことが……」


そこまでしか、言葉が続かなかった。

なぜなら、口がその先を言いたくないというように、閉じてしまったからだ。


(合戦でも、怖いものなどなかったはずなのに……)


たった一言に、怯える自分が嫌だったのか、雪斎は俯いてしまう。

そんな雪斎に気づいたのか、広大が立ち止まる。

自然と雪斎も止まり、お互いを見つめる。


「心配すんな。今はただの友達さ……。なんたって、俺はフラれたからな」

「えっ!?広大をふったのですか!?」

「おう。だから……」


自然と、喉がなる雪斎。

もしかしたら、今は自分のことがと思っていると、やはり広大は、広大であった。


「今は、今川家のみんなが大切だぜ」

「…………」


場が、2度ほど下がる。

雪斎は、数秒広大を無表情でみつめると、そのまま何も言わず歩き出す。


「あれ?おーい!そこは、嬉しくなるところじゃないの!」

「呆れました!そんな言葉なら、わざわざためずに言えばいいではないですか!!」

「何怒ってんだよ?なんか、悪いことしたか?」

「怒ってません!」

「怒ってんだろ」

「ません!!」


ズンズン歩いていく雪斎を、広大は慌てて追う。

しばらくすると、突然雪斎が止まる。


「ここで結構です!」

「いや、最後まで送るよ」

「これ以上送ってもらうと、自室についてしまいます!」

「なんだ。目の前なのね」 

「そうです。ですから、ありがとうございました!!」 

「トゲがあるなー。まぁ、また明日な」


手をあげて立ち去ろうとすると、雪斎がすそを掴む。

帰れなくなった広大は、裾と雪斎を交互に見る。

つまり、視線で離せと言っているのだ。

しかし、雪斎は離す気がないらしい。


「離してくれないと、帰れないんだけど?」


仕方なく、雪斎に言葉で伝える。


「今思ったのですけど、夜道は危険です」

「俺なら心配ないぜ?」

「大名であることを、忘れてませんか?」

「あっ。そういえば、暗殺があるかもしれないのか?」

「ですから。今日は、私の自宅に泊まってはどうでしょか?」


ニコニコしながら、そんな提案をしてくる雪斎。

いやっで~す。

とは、口にだせなかった広大であった。




「へー。意外と普通なのな」

「面白くない部屋ですが、ゆっくりしてくださいね」


雪斎の自室には、机が1つ置いてあるだけであった。

あとは、畳の上に散乱している巻物だけだろう。


「なんの巻物だ?」

「主に戦で使用した物ですかね。あとは、敵方がもちいた策などです」

「取っておく必要あるのか?昔使った策とか、負けた敵の策とか」

「ふふっ。広大もまだまだですね。人の記憶とは、完璧なものではないのですよ。昔使った策を、次の戦で使えることもあれば、敵の策を強化して使用することもできます」


説明しながら、和紙に何かを書きはじめる雪斎。


「そっか。この時代は、ペンとかないから墨なんだな」

「よくわかりませんが、これが普通ですね」

「何書いてんだ?」

「次の策を書いてます。何をするにしても、戦にはなりますから」


サラサラと、次々策を書く雪斎。

横から見ていた広大は、一分くらい見ると、静かに後ろに下がる。

理由は見ててもわからないのと、邪魔をしたくないからである。

しばらくすると、やっと広大が横にいないことに気づいて、雪斎は後ろを見る。

何もすることがなかった広大は、一人で将棋を差していた。


「一局うちましょうか?」

「いや。暇だったから、差してただけだ。だから、無理しなくてもいいぜ」

「いえ。たまには、息抜きも必要ですから」


そういうと、飛車ひしゃかくを取り除く雪斎。

その行動がわからなかった広大が、首を傾げているとーー。


「ハンデですよ。広大は、初めてやるのでしょ?」 「……知らないぜ。負けても、言い訳すんなよ?」

「しませんよ。武士として約束します」

「上等!」


を動かす広大。

しばらく無言でうちあっていると、雪斎が口を開いた。


「広大は、安倍晴明を知らないのですよね?」

「……そういえば、そうだった。あいつは、何者なんだよ」

「そうですね。簡単にいえば、貴族の関白かんぱくという人物は知っていますか?」

「関白?えーと。誰だ?」


頭がよくない広大は、普通にきく。

しかし、それはこの世界では常識だったのか、クスリっと、雪斎に笑われる。


「自慢じゃないが、俺はバカなんでね。よくわかんねー」

「失礼。そうですね……。広大の時代には、政をする人は居ましたか?」

「政治か?それなら、政治家がいたぞ」

「その集団に、頭はいますか?」

「いるな。内閣総理大臣ないかくそうりだいじんだ」

「では、その人のことを、この世界では関白といいます」

「なるほどね!つまり、総理大臣か!」


パチンと、広大の角が取られる。

あっ。と広大が焦った声をだすが、雪斎はにこやかに微笑むだけ。

待ったはなし。ということだろう。


「で、その関白さんとやらが、あいつだと?」

「いえ。関白は、近衛このえという人です」

「……じゃ、あいつはどこの役職だよ」

「いちおう、太政大臣だいじょうだいじんです」

「……いちおう?」

「えぇ。普通は、まつりごとをするのですが……。彼ら一族の場合は、あまり表立っては動きません」


ピタッと、広大の手が止まる。

眉間にシワを寄せて、雪斎の言葉を繰り返す。


「表立って……。てことは、裏では動いてるのか?」

「むしろ、裏で動くのが彼らのやり方ですね。鎌倉幕府のころは、裏で頼朝を手引きしていたとかないとか……」

「いやいや、それはないだろ。それなら、俺の時代の教科書にものってるはずだ」

「ほぉ。つまり、広大は誰がどの瞬間に死ぬのかわかっているのですか?」

「えっ?」

「なら、竹中半兵衛はいつ死ぬのですか?それさえわかれば、我々も違う手が打てます」

「それは……」

「つまり、そういうことですね。歴史が必ずしも正しく書かれている訳ではありません」

「なるほどな。とりあえず、危険そうなやつってのはわかったぜ」


広大の飛車が、雪斎の陣地に入ったため龍王りゅうおうに変わる。

自信満々に雪斎をみる広大だが、雪斎は焦りもしていない。


「……おい。焦んないのかよ」

「心配にはおよびませんよ。まだ、将にはほど遠いですから」

「でも、お前の陣地は荒らされるぜ?」

「かまいません。それより、安倍晴明について、もう少し話しておきましょう」


少しムスッとする広大だが、将棋を再開する。


「で、安倍晴明の何を教えてくれるんだ?」

「実は、彼らは力が弱まっていたのです。世代をおうごとに」

「力が弱まっている?嘘つけ。あの子どもは強かったじゃねーか」

「私も、そこが不思議でした。あの安倍家が力を取り戻しているなんて、普通はあり得ません」

「あれか。突然変異とつぜんへんいとかいうやつか?」

「どうでしょう。ただ、広大がこの世界に来たのと何か関係があるかも知れませんね」


パチンと、角が広大の陣地におかれる。

その一手で、王手を決められた。


「……おい」

「はい」

「逃げ道無いんだけど?」

「えぇ。無くしましたから」

「え……。これ、俺が負けたの?」

「そうですよ」


唖然あぜんとしながら、広大は自分の陣地と雪斎の陣地を見る。

確実に雪斎の陣地の方が駒がないのだが、なぜか広大の将軍が討ち取られている。

そんな広大を見て、得意気に雪斎が説明し始める。


「このように、攻めていると思っていても逆に追い詰められていることもあるんですよ」

「認めたくないんだけど」

「合戦でも、このような事はあります。次からは、気をつけてくださいね」

「…………」


次の瞬間、広大は盤をひっくり返していた。




夜も深くなってきたので、そろそろ寝ることにした二人だが、ここでも事件が起きた。

襖を開けて布団を取り出そうとしたのだが、なぜか棒読みで雪斎が、1つしか出してこなかったのだ。

さすがの広大でもこの事態が危険なことがわかったのか、自分は畳の上で寝ると言うが、それを許してくれない雪斎。


「なんでだよ!いくらなんでも、二人で寝るのはいろいろとまずいだろ!」

「何がまずいのですか?ただ、寝るだけじゃありませんか!!」

「なんで、お前が怒ってんだよ!お前も女なら、いろいろと大事にしろよ!!」

「そうですか!なら、広大は男とは寝れるということですか!女とは寝れないと!興味がないと!!」

「なんでそうなんだよ!!俺は、男が好きとかじゃないから!」

「というより、何がまずいのですか?ただ寝るだけですよ。それとも、広大は私に何かをする予定でもあるのですか?」


なぜか、少しウキウキした顔で問いただしてくる雪斎に、赤面しながら広大が答える。


「そんな予定ねーよ!じゃ、こうしようぜ。俺は、左を使うからお前は右を使う。境界線きょうかいせんは枕な!!」

「……まぁ、それならいいですね」


少し残念そうな声をもらして、雪斎は布団に入る。

きちんと枕の位置を真ん中に置くと、広大もゆっくり布団に入る。


「じゃ、おやすみ」

「はい」


しばらく静寂が場をつつむ。

いろいろあって疲れていた広大は、早く眠れそうだったのだが、なぜか背中から温もりを感じる。

不思議に思い、寝返りをうつとーー。


「……境界線はどうした?」

「いい忘れてました。私、寝返りがひどいんです」

「そんなこときいてねーよ。俺がきいてんのは、境界線がどこにいったかだよ」

「おそらく、私の背後にありますね」

「ルールを守れ」

「未来語は、よくわかりません。それと、私は寂しがりやですから」

「ちょくちょく、いらない情報を混ぜてくるな。てか、顔がちけー!!」


だんだん近づいてきた雪斎に、布団をはねのけて後退りする広大。

しかし、その広大の足を掴んだ雪斎が、あり得ない力で布団の中に引きずり込もうとする。


「なんなんだよ!お前のその力わ!!」

「黙って、もとの位置に戻ってくれますか?」

「わかった!戻るから、とりあえずのそバカ力をどうにかしてくれる!?」


このようなやり取りは、3時くらいまで続いた。





ー次の日ー。

泰能は、広大と雪斎の顔を交互に見ながら、ため息をついていた。

雪斎は、なぜかいつもより微笑み倍増。

たいする広大は、寝不足でくまが出来ている。

頭の良い泰能は、二人の間に何があったのか想像はつくのだが、元信はわからないらしく、先ほどから泰能の肩を突っついてくる。


「何よ?」

「殿は寝不足のようだが、大丈夫なのか?」

「まぁ、なんとかなるでしょ。その分は、気分がいい雪斎がなんとかするわよ」

「言われてみれば、確かに機嫌が良さそうだが……。新たな饅頭でも見つけたのか?」

「饅頭よりも、良いものなんじゃないかしら。おそろしくて、ききたくないけどね」


あの夜は、雪斎に背後から抱きつかれたまま寝ることになった広大。

とうぜん、広大がそんな状態で寝れるはずがなく、早朝まで寝れなかったのだが、雪斎は、自身の背後で可愛い寝息をたてて熟睡。

あまりにも、ひどい結果である。

そのせいで、今も頭がくらくらするらしい広大は、だるそうに上座に座っている。


「さて。私なりに考えてみた結果、美濃を取るには同盟が一番だと思います」

「同盟だと?」

「私も考えてみたけど、同盟よりも親長の増援ぞうえんでいいんじゃないの?」 


泰能が腕を組ながらそう提案するが、雪斎は首を横にふって否定する。


「親長には、もしものためにいてもらわなければなりません。それに、狸の伊勢・志摩平定もかなり苦戦しているようですから……」

「しかし、同盟というとどことするのだ?」

「それは、俺も疑問だな。武田さんとはしてるし、他にするところって……」


広大と元信がそろって疑問を口にすると、待ってましたとばかりに、雪斎が微笑む。


「その同盟相手なら、決まっています。北近江の浅井長政です」

「北近江?南近江の六角ろっかくのほうが、いいんじゃないの?」


ここまでくると、元信と広大はおいていかれるのでそろって口を閉じる。

泰能の発言に出てきた六角とは、南近江の実力者で、前の当主である浅井久政よりも実力が上の人物である。

兵力も南近江の方が多い。

なので、泰能は六角の方がいいと考えたのだが、雪斎の目は先を見ていた。


「確かに、今までなら六角の方が良いでしょう。ですが、最近当主になった浅井長政という男は、かなりの実力者のようでしてね……。あの六角相手に、引き分けか勝ち越しているらしいです」

「……おかしいわね。久政には、子供がいないはずだと思ってたんだけど」

「えぇ。そこは気になりますが、同盟相手には充分だと思います」


話し合いが済んだのか、雪斎が広大に体ごとむくと、覚悟の灯った目でーー。


「殿。浅井との同盟を許していただけますか?」


とうぜん、広大の答えはyesであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ