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今川義元の野望  作者: 高野康木
美濃編
19/32

16話 難攻不落の城

「申し訳ありませんでした!!」


ガスン!

大広間で、岡部元信が土下座をしていた。

あまりの勢いだったため、額から血が流れている。


「この元信、あまりの不甲斐なさで浪人になろうかと、なんども思いました!しかし、自分の失敗は殿に報告しなければならないと思い、戻って参りました!!」


目からは大粒の涙が、あふれでてきている。

あまりの行動に、殿である広大も、頬をひきつらしていた。

なぜ、このようになったのかというと、全ては美濃みの攻略戦からである。

尾張をとった広大は、次の目標を美濃国にさだめた。

しかし、この美濃国の城、稲葉山城いなばやまじょうは、難攻不落の城であったのだ。

そのため、進軍しては敗走を繰り返していた。

その回数は、実に3回である

そして、4回目の進軍をしようとしたとき、正攻法では通じないと雪斎が、広大に進言したため、違う方法を考えた。

雪斎と泰能、今川の天才二人がだした答えは、稲葉山城の近くにある敷地、墨俣すのまた築城ちくじょうであった。

しかし、この墨俣築城は、かなり難しかった。

まず、この墨俣は川に挟まれており、陸地があまりない。

それに、一番厄介なのが、敵の斎藤家も墨俣は大事な場所とわかっているので、見張りが必ずいる。

そのせいで、築城を始めようものなら、必ず邪魔しにくるのだ。

そこで、武では最強の元信が任務についたのだが、これが惨敗。

多勢に無勢で、兵を無駄に消耗して、終わりだったのである。


「かくなるうえは、この元信!殿の前で果てるしょぞん!」


というや、とつぜん服をはだけさせる元信。

手には、刀が握られている。

ようするに、切腹するといっているのだろう。


「あー。泰能、この人を止めなさい」


サラシ姿でも、女に耐性がない広大は、顔を赤くして視線をそらしながら、泰能に命じる。

すると、ため息をつきながら、泰能が元信の刀を掴む。


「止めるな泰能!小生は、責任を取らんといけないのだ!」

「一回の小さな失敗でおおげさなのよ。あんたが腹を切るときは、今川がつぶれたときにしなさい」

「ええい!なぜだ、なぜじゃまをする!!これでは、小生の気がおさまらん!」

「それなら、表で一万回素振りでもしてなさい。それでいいでしょ殿?」

「そうだな。元信、一万回振ってきなさい」

「殿の命令なら承知いたした!やはり、殿はお優しい!!」


一万回とか、つらくね?

そんな広大の言葉は耳に入っていないのか、元信は部屋を出ていってしまった。

ポカーンと口を開けて、元信の背中を見ていた広大は、気持ちを切り替えるために、咳払いをする。


「さて。元信でも無理なら、墨俣築城は無理かもな。違う手を考えよう」

「そうね。墨俣に城さえ築ければ、稲葉山城も取れるんだけど……。ねぇ、やっぱり親長達の兵も借りない?」

「それはダメだ。確かに、親長や家康ちゃんの力を借りれば楽だと思う。でも、親長には力をつけてもらわないといけないし、もしもの時のために兵力も必要だ。家康ちゃんに関しては、武田さんが裏切らないように目を光らせておいてもらっているし、それに、俺の反対勢力である伊勢いせ志摩しまの平定にむかってもらってるから。どのみち、この尾張の兵力でどうにかしないといけないんだ」


実は広大が尾張を取ると、すぐ近くの伊勢と志摩の大名達が、広大の反対勢力として手を組んで対抗してきたのだ。

その鎮圧および、平定にむかったのが徳川家康。

今では、今川五家老の一人として数えられる彼女である。

自分に駿河と遠江を任せてくれた広大のために、恩返しをしたいとのこと。

なので、今家康は戦中なのである。


「なら、どうすればいいかしら。このままじゃ、武田との同盟期限も危ういわ……。雪斎なんか策はない?」


先ほどから沈黙している雪斎に、泰能がたずねる。

広大も、意見を求めるように雪斎を見つめる。

そんな二人の期待受けた雪斎はーー。


「なぜ、この私の策が通じないのでしょ?」


と、質問し始めた。


「はぁ?」

「ずこっ!」


泰能は呆れ顔をし、広大はオーバーリヤクションをして、前に倒れる。


「いえ、自慢するつもりはないのですが……。この私の策は、かなりのものだと自負しています。それを三回も……」

「あのね。今はそんな話をしてるんじゃなくて!」

「確かにそうだな。こんなに苦戦するのも初めてだし」

「もしも~し。二人して、話の本筋を見失ってるわよ~」

「泰能。あなた、三回目の進軍の時の状況覚えていますか?」

「へっ?」


とつぜんの発言だが、泰能は考えはじめる。


「あれは、伏兵ふくへいが出てきた時のことね。たしか、野戦で敵を敗走させた後に、稲葉山城に行こうとした道で、伏兵が四方八方から出てきたわ。それが、負けた原因ね」

「それです!あなたは、あの時敵の策だとわかりましたか?」

「いいえ。本当の敗走だと思ったわ」

「つまり、私とあなたを欺くことができる軍師が、斎藤家にいるとうことです」


そういうと、泰能も考え始める。

完璧においていかれた広大は、視線をうろうろしながら、やっとたずねた。


「ねぇ。斎藤家に、軍師がいて何がヤバイの?」

「簡単なことよ。ただでさえ難攻不落の城に、雪斎以上の天才がいるとなると、攻略が一気に難しくなるわ」


泰能の説明で、やっと意味がわかった広大は、自身も考えを出そうとするが、それよりも前に雪斎が動いた。


「決めました。ここで考えても無意味です。殿、直虎を呼んでください」

「直虎を?わかった」


広大が二度手を叩くと、庭に直虎が現れる。


「さて、それでは殿。久しぶりに、雪にあってみたくありませんか?」


優しい微笑みで、雪斎がそういうのであった。





「雪ちゃんにねー。いや、まさかまたこの姿になるとわ」

「広大。何をしているんですか?早くきてください」


美濃国の関所ふきんに、二人の町娘と男がいた。

一人は、雪こと太原雪斎。

その雪の荷物を持って、女中じょちゅうのように立っている女は、虎こと井伊直虎。

そして、覆面をしており、不治の病にかかっているという設定を余儀なくされた不気味な男。松林広大。

雪斎の策は、いわゆる潜入調査である。

それに抜擢されたのが、直虎と広大だ。

しかし、広大的にはこの姿をあまり好んでいない。

理由は簡単。息がしずらい、自由に食べれない以上。

なので、先ほどから歩くペースが遅い。


「殿。お体でも悪いのですか?」


普段は忍び姿なのでわからなかった直虎の顔が、今回はまるっきりわかった。

頭の上で団子をつくっており、かんざしを刺し、顔は、まるで女優のようにスッキリしている。

あまりの変わりように、広大は思ったことを口ばしってしまう。


「直虎ってキレイな顔をしてるよな。なんで、隠したりしてんだよ」


その発言をきいた直虎は、嬉しさ三割、怒り七割の顔をする。

ポーカーフェイスの直虎にしては、珍しい反応だった。


「殿。忍びとは、素顔を隠してこそなのです。なぜなら、顔を覚えられれば潜入することはもちろん、敵を一度簡単に殺せるきかいをなくしてしまいます。ですから、忍びにとって素顔を知られるのは恥であり、侮辱なのです」


あまりの怒りに、広大も申し訳なく思ってしまい、自分の軽率な発言を恥じた。


「ごめん。俺、よくわからないでそんなこといっちまって」

「……いや、拙者こそ失礼しました。感情をいのままに操るのも忍びの常識。まだまだ、拙者も力不足です。……しかし、女としてはとても嬉しかった言葉でした。ありがとうございます」


素直に頭を下げた直虎は、とつぜん太陽のように微笑んで、広大にーー。


「広大さん。雪お嬢様を待たせてしまっていますから、さっさと行きましょう?」


とつぜんの展開に、口を開けて目を見開く広大だが、自分達の前を斎藤家の家臣が横切ったのを見て、やっと状況が飲み込めたらしい。

どうやら、直虎は斎藤家の家臣の存在を先に気づいて、芝居を始めたらしい。


「お、おお。そうだな。あの子は、待たせると怖いからな」


いそいそと、広大は雪斎の元にむかう。


「まったく。何をしていたのですか?」

「いやはや。この姿になると、主従関係が変わるな」

「ボロが出ておりますよ」

「ゴホン!すまなかったなお嬢さん。しかし、俺も風邪を患っているので、いたわってくれると助かる」

「それでは、広大はそこら辺を歩いてきてください。おそらく、どこかにお祖父様がいるので」


このお祖父様は、斎藤家の軍師のことだ。

そして、広大の担当は、主に農民からなどの聞き込みである。

なぜかというと、すぐにボロが出るから。

なので、役割分担をすると、雪斎と直虎が家臣などに聞き込みをすることになった。

団子屋を待ち合わせ場所にして、広大と雪斎は一度別れた。




しかし、情報集め開始直後に、ある問題がでてきた。

覆面の不気味な男が一人で歩いていると、話しかけられた農民達は、どう頑張っても怖くなってしまう。

なので、まともに話をきいてくれないのだ。

そうなると、情報収集開始一分で、広大のやる気がなくなってしまう。


「だから、覆面なんてしたくなかったんだよ。誰も話をきいてくれねーし」


そこら辺をぶらつきながら、独り言をもらす広大。

さすがに暇になったのか、稲葉山城を眺められるところにくると、その場に座ってしまう。

裏道の近くなので、そうそう見つかりはしないが、通りすぎる人達は、怪訝けげんそうな顔をして通りすぎていく。


「ひゃー!やめてください!!」


数分したとき、とつぜん女の子の悲鳴が聞こえた。

どうも、広大の近くの裏道から聞こえるようである。

お人好しの広大は、声のした方に急いでむかう。

裏道の奥の方に行くと、行き止まりのところに女の子がいた。

その女の子の片手を掴んでいるのは、どうも斎藤家の家臣である。


「おい。さすがに、かわいそうになってきたんだが……」

「俺だって、やりたくてしてる訳じゃない。龍興たつおき様が連れてこいと……」


二人の斎藤家家臣も、どうやら好きで女の子を捕まえている訳ではないらしい。

黙ってみているのもあれなので、広大はすぐに彼らに近づいた。


「昼間から女の子を拐うのは、どうかと思うぜ?」


とつぜんの覆面男に、家臣達は数秒止まる。

その隙に、女の子は手を振りほどくと、広大のところにかけよってくる。


「お、お願いします!た、助けてください!!」


女の子は、白髪でとても身体が細く、年齢的には14歳くらいだった。

町娘かと思っていた広大だが、彼女はずいぶん普通の服を着ている。


「姫武将さんか。まぁ、助けてあげるよ。無理矢理は男としてどうかと思うんでね」


彼女の手を引っ張り、自分の後ろに隠すと、広大は斎藤家の家臣達を睨む。

戦闘になるかと思った広大は、逃走の準備をしたが、斎藤家の家臣達は、なぜか微妙な顔をして動かない。


「……どうした。奪い返したりしないのか?」

「いや、それはそうなんだが……。いやはや、どうしたもんかな」

「なんだ。見逃してくれるのか?」

「実は、俺達もしたくてしてる訳ではないのだよ。彼女を、無理矢理でも連れてこいと殿が言ってな」

「……つまり、あんたらも不本意な命令だったてことか?」


難しい顔をして、二人とも頷く。

事情がわかった広大は、警戒を解いて、ある提案をする。


「あんたらにも、立場があるだろう。だから、俺がこの子を拐って邪魔をして来たと、殿様に報告するのはどうだ?」

「しかし、そうするとお前が追われるはめになるぞ。それでもよいのか?」

「勘違いされたり、攻撃されるのは慣れてるさ。まぁ、主に女性からの攻撃だがな」


自嘲気味に笑うと、広大は返事をきかずに、女の子の手をとると走り出す。


「あ、あの!大丈夫なんですか?」

「心配しなくていいよ。逃げるのは慣れてるから」


しばらく走り、大通りに出ると、女の子の手を離す。

ものすごい息切れを女の子がしていることに気づいた広大は、しまったと顔を歪める。


「ごめん。俺のスピードに付き合わしちゃったよね。大丈夫?」

「い、いえ。こ、これは、持病も少し入っていますから。それより、助けてくれてありがとうございました」


持病という言葉に、少し違和感を覚えた広大だが、それを受け流すと、すぐ近くにあった水屋で水を買う。


「これでも飲んで、落ち着いてくれ」

「あ、あなたのは?」

「俺は、ほら。この覆面だからさ」


そういって水を渡すと、礼をいって飲み干す女の子。

そんな様子を見ていた広大は、忘れていた自分の役割を思い出す。


「そうだ。ききたいことがあるんだけど」

「はい。私に答えられることなら、お答えします」

「最近、今川が攻めてきているよね?」

「……フフっ。そうですね」


含み笑いをした女の子は、続きを言うように広大にうながす。

自分の発言に、面白いことなどあったかと考える広大だが、今はそれよりも優先すべきことがある。


「その事なんだけど。斎藤さんは、すごく強いよね。三回くらい追い返したんだし」

「それはどうでしょう。もしかしたら、軍師さんが優秀なのかもしれませんね」


どうやら、女の子はいろいろと詳しいようだ。

その事に喜んだ広大は、冷静に軍師の名前と場所を訪ねることにした。


「えーと。軍師さんってなんて人だったけ?」

竹中半兵衛たけなかはんべえという人です」

「そうだ。そんな人だったね。えーと、あそこの家にいるんだっけ?」

「いいえ。あの山のところです」


広大は適当なところを指したが、女の子が、本当の居場所を教えてくれた。

これで、軍師の名前と場所を聞き出した広大は、女の子と別れて、集合場所にむかった。


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